第89話
「うーん……」
悩む、悩む。
右にするか、左にするか。
そうやって眉寄せる俺はショーケースに並ぶネックレスたちを眺めていた。
ここは駅近のショッピングモールの中にあるジュエリーショップだ。
ネットではここのブランドは女子に人気と書かれていたのでとりあえず来たものの、どれがオススメなのか全くわからん。
「君ー、何をお探しで?」
そんな俺に一人の女性店員が声を掛けてきた。
ぱっと見二十代前半くらいだ、格好や化粧を見るに恐らく大学生のアルバイトだろう。
正直店員と関わるのはあまり好ましくないので、ここは善意でも断っておこう。
「いえ、特には」
「いやいや、君がそこを見てからもう四十分は経ってるから」
「あれ……本当だ」
「もー、それで何に悩んでるの?」
俺が見ていたショーケースを、女性スタッフも横から覗き込む。
……何か距離感近いな。
「送る相手は高校生?」
「え、何でそこまで……」
「まあ長いからねー」
その観察眼、流石は店員と言ったところか。
「……彼女にプレゼントを贈りたくて」
「えっ彼女いるの!? ウッソ意外!」
「……もういいです」
「ウソウソ冗談! 気に触ったなら謝るよー」
両手を合わせて謝罪のポーズを向ける女性店員。
何なんだこの人、年下相手にとはいえちょっと失礼じゃないか?
「いやーごめんね? あんまり若い男性のお客さん来ないから、お姉さんちょっと興奮しちゃったんだよ、許して?」
「はぁ……分かりましたよ」
「ありがと!」
感謝と共に軽く俺にウインクを飛ばす。
何というかこの人……ちょっと面倒くさい。
変な人に捕まってしまったな。
「それでさ、ここにあるやつから選んでたのかな?」
「そうですね」
「うーん、ここのは少し古いから、別の店にある新しいやつから選んだ方が、今時の子は喜ぶと思うなー」
「……やっぱりそうですか」
まあ折角麗奈に贈るんだ。
それなら新しい物の方が……麗奈も嬉しいか。
「けど君はこの二つにおよそ四十分くらい悩み続けていた、それってつまり……君はそれらが彼女さんに似合うと思った訳だよね?」
「……そうですね」
正直値段とかもある程度考慮はしている。
してはいるが、初めにその二つを見つけた時に間違いなく麗奈に似合うと確信していた。
けれどどちらが良いか全く決まらないのだ。
「――ねぇ、今度の土曜日空いてるかな?」
「土曜日……ですか?」
「うん」
「まあ、午後は空いてますけど」
思わず空いていると言ってしまった。
けどいきなり日程なんて、何の意味があるんだ?
「じゃあ来週もう一度ここに来て? その時君の彼女さんに似合う物を一緒に探してあげるよ!」
「いや、別にそこまでは……」
「彼女さんの為にここまで悩める子なんだもん、見てたら誰だって手伝いたいって思うよー?」
自分のように喜ぶ店員は、お節介にもそんな事を口にする。
少し苦手なタイプだが悪い人ではなさそうだし、女性からの意見があるのは正直助かる。
……仕方ないか。
「……それじゃあ、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
こうして俺たちは、来週再度会う事になった。
結論から言うと、学校一の美少女とワンルームの部屋で同居する事になった スーさん @suesanboirudo
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