ダル絡み
「なーミナトー、昨日どうなったんだよー」
「そうだぞミナト俺にも教えろ」
授業間の休み時間、机に突っ伏してガードする俺を、トモヤスが引っ張り、村上が昨日と同じように俺の肩を揺さぶっている。
「...うるせえぞお前ら」
はあ面倒くさい。
お前らの望む展開なんか、何一つ無かったから。
あるとすれば、一つ余計な未確定要素が増えただけだ。
「でトモヤス、お前あん時いたっけ」
去年もその日の授業が終わったらすぐ部活でいなくなってたしな。
だから教室を出るスピードは帰宅部の俺よりも早い。
「いや、なんか噂で飛んできて」
これが高校生の情報伝達速度。
その速さは、光回線に勝るとも劣らない。
一晩寝たらクラスの奴もう大体皆知ってるから。
で、その情報を拡散してる人間スピーカーが、これまたクラスに一人はいるんだよなあ。
なんか情報屋みたいな立ち位置になってるけど、そういう奴らの流す情報ほど信憑性の低いものは無い。
大体尾ひれがついて出回るから、それがまた余計にタチが悪い。
さらには拡散希望みたいな感じで上手いこと煽るからそれに乗せられた人間が伝言ゲームのようにまた他人に伝えていく。
別にいつまでに伝えなきゃ呪いにかかるとかそういうの無いからね?
「はあ」
そう言いながら俺は自分の机面に片頬をつけ、腕をぐでっと前に伸ばす。
まあこうして浮ついているのは2人だけでもないようだ。
今日は朝からどこか、全体的にそんな感じがしていた。
だから改めて思うのだ、アイツの影響力すげえ、って。
「ミナトなあ、さすがのお前でも山本さんだったら少しは興味あるだろ、なあ」
「それサラッと他の女子に失礼だからなトモヤス」
まあ俺にも失礼なんだけどな。
女の子にはちゃんと興味ありますよー、とそう心の中でだけ返し、仰向けの体勢のまま視線だけを右後ろの山本の席の方へ移す。
すると数人の女子と楽しそうに会話をしている様だった。
んー平和すね。
まあ見るからに人気者って感じだよな。
見た目も良くて、明るい雰囲気で。
マジでこんな奴もいるんだな。
それでも俺の中ではもう変な子扱いになってるけどね。
多分それが覆る事は無いだろう。
まあでも、表向きはきっといつもあんな感じなのだろう。
「まあミナト、お前見た目はそこそこだと思うけど、山本さんとお前じゃ接点なさすぎるべ。うーん、良くわかんねえなあ」
「そうだな、俺もよくわかんね」
本当に良く分からないのでそのままの意でそう返す。
「ここはありのままに言ってみようぜ、ミナト」
村上がガッツを見せるように拳をグッとして見せる。
ありのままって言ってもね。
話だけ聞くとなんか山本が一方的な感じがして、というかまあ一方的だったのだが、まあなんだ、そうやって悪評広めるような事をして彼女を貶めようとかいう事は一切ないのだ。
所詮他人から伝え聞いただけでは、それが本当かは分からない。
それなのに俺たちは、「あいつはいい奴」だの「あの子は性格悪い」だとかいう、たった数文字で綴られた他人の評価を使って、その誰かにフィルターをかけがちだ。
「言わねーよ」
だから説明はしない。
めんどくさいから。
あっ。
「勿体ぶんなってー」
「いや勿体ぶってはねえから、全然」
「ははは!」
普通のトーンが演劇かってくらいデケえなこいつらは。
周りにもガンガン聞こえててちょっと恥ずかしいんだけど、俺が。
ふとまた山本の方を振り返ると、彼女は変わらずただはじけるように笑っていたのだった。
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