俺には全く関係がない。

みやりく

そもそも彼女とは面識がない。

高田湊について

 無関心である事は悪い事ではない。

 誰かの興味を同じく自分も持たなければならない理由などない。

 何に熱中しているかで本来優劣は決まらない。


 それなのに学校という社会の中では持つべき興味対象があって、そこに上手く関わる事が自分の位置を決定付けるような構造が存在している。

 行事、部活、人間関係、SNS、恋愛。

 これら青春のアイコンをより多く獲得した者だけが「青春を謳歌している」者として評価され、その他中途半端に失敗している者やそもそも何も得ようとしない者などはほぼ全自動で「イケてない」側のポジションに追いやられる。


 このシステムのクソな所は、あらゆる人間を巻き込みあげく勝手な評価軸で勝手に評価を下し少なからずそれを周囲に顕在させる所だ。

 行事も部活も人間関係もSNSも恋愛も、どれを取っても必須項目なんかではないのに気づけば自分を保つため苦心させられている人間がいる。

 俺のようにただシンプルにやる気のない人間にもマイナスな所はあって、それは例えば冷めてるだの自分の世界に入っちゃってるだのといった、望んでもいない評価を持たれる点が挙げられる。

 評価を持たれるというのはこちらの勝手な想像であって、実際にはどう思われているのかという事が問題なのではない。

 評価というのは他者というよりこの場合学校という社会全体からの、という事になる。

 要は自分の位置付けが勝手に決められているかのようなこの感覚こそが問題だ。


 その元凶が特定の関心の檻の中で行われる点取り合戦、全員強制参加型のクソゲーなのではないか。

 弱い奴も意欲のない奴も、蚊帳の外ではいられない。

 誰かにとっては少しばかりではない影響を受け、消える事も逃げる事もままならない。


 だからこそ一人抵抗し主張しておきたい。


 関わらない勇気を持つ事は大切だ。

 理不尽な暗黙の評価からの脱却を。

 仕掛けられた勝負に乗らないという手は確かにある。


 いつだって一年の始まりは運ぶ足取りが重く、だからいつにも増してこんな根暗な事を一人考えていた。


 地下鉄から最寄りの横浜駅で降り、西口側の地上へ上がった所で行き交う人だかりの間から高校に続くちょっとした繁華街が見えてくる。

 だらだらと人の合間を縫って進み、その入り口を示す古ぼけたアーチの下を通り歩いた所でふと上の方を見上げるも、このいつもと変わらぬ人だらけの都会に視覚的に見える春らしさはあまり見当たらない。

 この忙しい街並みが一学生の進級など祝うはずもなく、それらはいつも通りただそこに在るだけだった。


 初めこそは最寄りが都市部である事に自分にしては軽く感動を覚えていたものの、今ではもういい加減見飽きたその光景をよそにぼけっと歩いていると後ろからポンと肩を叩かれる。


「ようミナト。二週間ぶりくらい?」


「おお、トモヤス。おはよ」


「相変わらず元気ねえなあお前ー、もう俺ら2年だってのにさー。ほら、あ、そうそう!そういや......」


 俺の隣に並んだ青年はこちらの反応にちょっぴり渋い顔をするも、すぐに溌剌とした声で朝一番に話を持ち掛ける。


 自然と出来た人間関係はそこそこ大切にしているつもりだ。

 去年のクラスが同じな特に男子であれば1年もあればどこかしらで接点は出来る。

 友達が多いから高校生活が充実しているとか、そんな考えには全く至らない。

 クラスの外のコミュニティはほとんど広がらなかった、いや広げようともしていなかったが幸いな事にこうして普通に友人と呼べる存在は何人かいて、それで十分俺の高校生活は回っているのでなんら問題はない。


 別に逆張りで一人でいたいとかそういう痛い発想に至るわけでもなく。

 ぼっち、読み物などの世界でよく出るあの設定は現実から見ればなかなかにぶっ飛んだステータスで、それはもちろん色んな背景を想像していけば一概に軽々しく口にして良いものではないが、アニメや漫画に出てくるあいつらに関してはあの尋常でない強靭なメンタルとぼっちと謳う割には高水準のコミュケーション能力を持ってすれば今頃もっと友達が出来ていても良い気がするのだがどうなのか。


 まだ少し肌寒い朝の気温の中、そんな余計な事を考えながらも耳は傾けつつ時々相槌も打ちつつ、隣で楽しそうに話す少年の横顔を見ていた。

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