第6話:名も無い景色に、僕だけが滲む
僕の好きな紅葉シーズンが始まった。
星浦駅から二駅目、
買っておいたサイダーを一口飲み、喉に弾ける気泡の感触を確かめる。無機質な味がした。
踏切が近付いて来た。明滅する赤いランプを見やる。線路に沿って伸びた道を、高校生の男女が自転車に跨がり走っていた。
サイダーを一気に飲み干し、折角の紅葉も今日は色褪せて見えたので、僕は目を閉じてみた。
何が思い浮かぶ事も無い。暗黒だった。
ふと……目を開けてみる。僕は初めて、山間に覗く青い影を認めた。丁度この位置ならば、一瞬だけ、海が見えるらしい。
見て下さい。貴女の好きな海が見えます。
喉奥で呟き、もう一度、僕は目を閉じた。一五分もすれば、僕の降りるべき駅に到着する。今は目を閉じ、明日の授業について考えるだけだ。
今まで通り、不細工な一両編成の列車は今日も走る。
僕だけを乗せて。
今日も、君は居ない。
ロマンスカー 文子夕夏 @yu_ka
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