第15話「いただきます」
秘密結社「油連合」のテロは半ば成功したが、結局は失敗に終わった。大量のレストランが営業停止に追い込まれ世論は反発、ふざけた法案を撤廃する動きを見せたが、政府はそれを弾圧した。それでも、民主主義の崩壊に声を上げる者も多かった。
反発する者達を黙らせるために政府は法改正を発表。「カップラーメン」であれば、販売と喫食する事を許可した。一人で一日に買う個数が制限されているが、全てなくなるよりは幾分マシだった。
局長の言ったこの「妥協」でラーメン派が完全に黙った訳ではないが、一先ずは落ち着く事となる。
と言うのは小泉は油連合を一時的に解散に見せかけた。密かに他にも狙われている海外勢を取り込む計画を企てていて、再び連合を結集させることを約束しなければこうは収まらなかっただろう。
白河は三カ月の謹慎処分で事なきを得た。久野は秘密結社同志全ての汚名を被ったたため、留置所で拘束されている。
ただ、彼に関してはそれほど心配してはいなかった。今後仮に極刑になったとして、局長が何とかしてくれるだろうと言う安心があったからだ。
白河は三分経ったカレーラーメンの蓋を開ける。カップラーメンとは言え、本当に自宅でラーメンを食べられる日が再び来るとは思っていなかった。
「いただきます」
手を合わせ、割り箸を握る。一口食べると、カレーラーメンが大好きな堅物の友人を思い出した。
香川の告別式はつい先日に行われた。
ラーメン取り締まり部隊、隊長と戦い、その本隊まとめてたった一人で殲滅した。彼のおかげで作戦は大分進み、同志達もかなり逃がす事が出来ただろう。
「もう、三人でラーメン巡り、出来ませんね」
白河は辛うじて残っていた香川の眼鏡を、遺族に無理を言って手に入れた。幼馴染である彼女に遺族が嫌な顔をする事はなかった。ラーメンを愛していた彼を、一番理解していたのだから。
「あれ」
彼の眼鏡を眺めていたら、自然と目から水が溢れていた。二度と会えない悲しさと、何もできなかった悔しさが涙となって流れて行く。
「カレーラーメンを食べていたはずなのに、いつのまにか塩ラーメンになっています。不思議ですね」
その後、殆ど味のしなくなったラーメンをテーブルへ置いた。代わりに、壊れかけた香川の眼鏡を愛おしそうに手に取る。
彼の遺品を頂いたのは、この悲しさを忘れない為と、決意を揺るがせない為だ。
「涙で、視界が……曇るなぁ」
泣くのは今日で最後だから、と眼鏡を胸に抱く。ラーメンを取り戻すだけではない、もう戻らない彼の為の復讐を、白河は強く誓うのだった。
ラーメン禁止法 高田丑歩 @ambulatio
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