別れたらいいのに

snowdrop

別れさせモンスターが あらわれた!

 わたしには、好きなひとがいる。

 想いを伝えたら、断られた。


「ごめん! 無理。他に好きなひとがいるから。そもそも、そういう目でみたことないし、あなたのことはよく知らないので、付き合うなんてできない」


 どうして、あんな酷いことを、いうのだろう。

 自分がされたら嫌なことを、どうして、相手にできるのだろう。

 つきあっているひとみんな、爆発すればいいのに。

 でも……ほんとうに爆発したら困るけど。


 好きだったひとが、嫌いになりました。

 嫌いというキモチがあることを、教えられました。

 これからも、どんどん嫌いになっていくのでしょうか。

 嫌い嫌い、ぜんぶ嫌い。

 みんな、キライになってしまえばいいのに。


 振られたせいで、ぜんぜん楽しくない。

 忘れていた嫌なことが、どんどん出てきてしまう。

「わたしってダメな子なの?」って、ますます自分が嫌いになってくる。

 

 よりそって、ならんで歩いているひとたちがいる。

 指をからめる恋人つなぎをしているひとたちがいる。

 腕を組んで、笑いあっているひとたちがいる。


 あー、だれかを嫉妬している時間がもったいない。

 リア充をみると、頭のなかで、両手でパーンとたたきつぶしてしまう。

 嫌なことがあった日は、わたし主演のいちばん悲劇的シーンを撮影している、と考えることにしている。

 スポットライトが当てられ、泣きくずれてしまう。


「きみね、感動して泣くのと、悲しくて泣くのはちがうんだよ。失ったものが自分にとってどれだけ大切なものだったのか、意識をするんだ。その考えに飛び込んでいく、勇気とやる気が必要なんだ。『泣けるかな?』ではなく『泣くんだ!』、だからといって、涙を流そうとしてはいけない。涙を流そうとしている女優をみたいか? 気を配るなら、きれいな泣き方をしなさい。いいね? それじゃあ、いまのシーン頭からもう一度」


 監督からリテイクを受けると、何度もくり返さなくてはならない。

 なんども泣いていると、涙もとまってしまう。

 なにが悲しかったのか、うすらぼんやりしてくる。

 それなのに、悲しみだけは消えやしない。

 可愛そうな目にあったら、ポイントが貯まればいいのに。

 ほしいものと交換できるのなら、どんなにいいだろう。

 たまったポイントで買いものすると、さらにポイントがつけばいいのに。

 よろこんで、可愛そうな目にあいに行くかもしれない。

 嫌なことがあって、どん底のグズグズな日は、どうすればいいのだろう。 


 どうしてこんなめに……タピオカミルクティー、うまいな。

 かなしいおもいを……仔犬がじぶんの尻尾を追いかけてくるくる廻ってる。

 なみだがとまら……あ、風に飛ばされたカツラをおっちゃんが追いかけてる。


 ふとした瞬間、気がまぎれるってこともあるよね。

 だけど、ダメなときは、何をやってもダメだよ。 

 このキモチをたとえるとしたら、どんなだろう。

 とつぜん降り出した鬼雨みたいなものかな。

 どばーっと、はげしく打ちつけられ、ずぶぬれ。

 びしょびしょになれば、からだが震えてちぢこまるだろう。

 雨みたいなものなら、やむまで、しのぐ場所をよういしておく必要がある。

 わたしだけしかしらない、わたしだけの隠れが。

 いまからでも遅くはない。

 ひみつの場所をつくろう。


 古色による奥ゆかしくも力強い重厚な雰囲気。

 黒く煤けた色のむき出しの構造。

 梁や柱、大黒柱などに太い材料を使用。

 土壁や漆喰など自然素材の塗り壁仕上げ。

 アンティークなインテリアをそろえた古民家風秘密基地。

 猫を飼ってごろごろくつろごう。


 涙雨なら、ぎゃくに濡れてもいいかもしれない。

 なんにしろ、雨なら、いつかあがるはずだから。

 夜だって、かならず朝はくるのだから。

 失恋や嫌なことは、いつやってくるかわからない。

 おいしいマカロンやチョコにケーキ。

 ふわふわもこもこのヌイグルミ。

 笑顔をくれる映画や音楽。

 きれいでかわいいコスメやアクセ。

 いつでもはげませるよう、好きやたのしいをあつめて、準備しておこう。


 そういえば、お風呂に入ると、すこしだけスッキリした気になる。

 汚れみたいに、まとわりついているのだろうか。

 ということは、失恋で嫌やな思いをしたとき、からだにくっついているんだ。

 手や足、からだだけでなく、顔にもべったりくっついている。

 だから、楽しいことがみえなくなってしまうのだろう。

 だとしたら、ごろごろ転がったり、ジタバタ暴れたりすればいい。

 からだから離れていくかもしれない。

 それとも、頑固な汚れみたいに、こべりついたままかもしれない。

 それでも、おいしいものを食べたり、友達とおしゃべりして笑ったり、素敵な星空を眺めにも行けるはず。


 通行人を眺めてみる。

 背中をまるめてうつむいていたり、ため息もらしてぼやいていたり。

 みんな、どこか疲れてみえる。

 あー、そうなんだ。

 大人だって失恋をして、嫌な思いを引きずっているんだ。

 うまくいきそうなプロジェクトがダメになったり、面接で断られたり。

 営業にいって追い返されたり、商談がまとまらなかったり。

 みんな大変なんだ、わたしも大変なんだ。


 かなうとおもっていたのに、断られてしまうのはどうしてなんだろう。

 ひょっとしたら、妖怪の仕業かもしれない。

 ことわったひとは、なにかに操られているんじゃないのだろうか。

 そいつは、なにか理由があって、わたしを悲しませているんじゃないだろうか。


 仮に、別れさせモンスター、と名付けよう。

 もしかしたらそいつは、美味しい目にあうために、関係ないひとを操って、わたしを悲しませているんじゃないかな。

 わたしが好きになったひとをみつけては、さきまわりして取り憑いていたんだ。

 悲しみと怒り、涙をながさせ、嫌な気持ちをあつめている。

 悲しみポイントが貯まると、ほしいものと交換してもらえるにちがいない。

 きっとそうだ。

 そいつはいまごろ、うっほっほーいとたこ焼きをたべて、よろこんでいるにちがいない。 

 おのれ、溜息や悲しみが大好物の、別れさせモンスターめ。

 片思いの人間をみつけるための、つのがはえているにちがいない。

 ストーカー並みの執念深さで尾行し、SNSチェックも日課としているのだ。

 失恋映画でわらいころげるそいつは、『片思いが、みのりそうなタイミングで、大どんでん返しをおこし、失恋させる』ことを経営理念にしているはず。

 すきあらば、わたしの友達まで、まきこもうと企んでいるにちがいない。


 そうだ、そうにちがいない。

 なんてヤツなんだ。

 すべての元凶は、別れさせモンスターだったのか。

 だとしたら、はやくなんとかしなければ。


 あいつを、よろこばせてはいけない。

 悲しくても、泣きたくても、泣いてはいけない。

「そのうち、なんとかなるんじゃないの?」

 なんていいながら、ハナウタまじりに、好きなことをみつけてやるんだ。

 アロマ炊いて、ふんわりふとんでまるまりながら、すてきな夢をみるの。

 まいにち、たのしいキモチですごすんだ。

 どうすれば、あいつがひどいめにあうのか、必死になって考えよう。

 手始めに、声をあげて笑ってやる。

 好きなひとをみつけたら「いまからいっしょに、これからいっしょに、あいつを嫌いになってやろうじゃないか」ともりあがって、さわいでやろう。

 あいつが嫌いな、おもしろいことをたくさん考え、楽しんでやるんだ。


 ジェットコースターにのってはしゃぎまわる。

 スカイダイビングをしてせかいをながめる。

 ダイビングをして深海の生物とたわむれる。

 おいしいごちそうをたべながら、いっしょに花火をみるんだ。


 でも、あいつがいるとは限らないんだよね。

 そもそも、そんな妖怪がいる証拠なんてどこにもない。

 だけど、こんなことを考える日があっても、いいよね。

 きっとこの先も、だれかを大切に思うのをやめない。

 だれかを好きになって、だれかに嫌われて。

 嫌いなひとに出会っても、またいいなと思うひとに出会うかもしれない。

 大人になるって、そういうことなんじゃないかな。

 嫌われたっていい。

 嫌いなひとがいてもいい。

 逃げるのか向き合うのか、どうするかは、じぶんで考え決めることだから。

 じぶんを表現できるようになろう。

 そして、またチャレンジしよう。

 なぜなら、わたしは別れさせモンスターが、だーい嫌いだから。




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