第5話 ノアの方舟(はこぶね)

 ロボ先生との別れの前夜、俊矢はキタカメの放送室で、ロボ先生「ノア」と裸で抱き合っていた。二者は終始無言で、ノアから体を離した俊矢は、ノアから部品の一つ「TEENNXGA100」を取り外した。

「同じ世界で、同じ感覚を感じれたらいいのに」

「肉体から離れたところで、私たちは同じ場所には存在できませんよ」

「お前の心は、オレの心は、一体何なんだ?」

「私も、泣いていますよ、トシ。そして、微笑んでもいる。お腹も空いていますよ」

 泣きながら俊矢は、ノアを抱きかかえて、警備室に向かった。


 その日は朝から雨だった。


「ねえ、夜七時ってのが、そもそもの間違いなんじゃないの?」

「兄貴の仕事の都合なんだよ」

 しかめっ面の仁子に、佳樹が小さな声で言い訳した。

「じゃ、みんな一言ずつ……じゃ、オレから。ノア、お前の事は、オレが護る。以上」

 俊矢が、得意そうな表情で宣言した。

「やだ~、何なの。恋?!何も言えな~い」

 仁子が冷やかす。

「ロボ先生、色々教えてくれてありがとう。助かりました」

 美愛が、ノアにお辞儀をした。

「美愛、あなたの事、母親みたいに相談できる存在が必要だと心配しています。思うに、仁子のお母さんは、適材だと思いますよ」

 ノアが、美愛の手を握った。美愛の顔が、紅潮した。

「ロボ先生、オレ……」

「佳樹、俊矢もあなたも、同じくらい賢い。迷っているなら、勉強しましょう」

 ノアは、真っ赤な顔の佳樹を励ました。

「……ノア、ありがとう。じゃ、子供らは帰れ。親が心配してんぞ。オレは、ノアを安全な場所に隠す。以上、解散!」

 俊矢の号令で、子供達は皆、用務員室を後にした。

 帰り道、梅が丘小学校の校門近くの分岐点で仁子は美愛に

「ねえ、うちのお母さん、美愛の相談に、乗ってくれるよ、きっと。介護やってる人って、基本的にお節介だから」

 そう言って、石を蹴った。

「……うん。ありがとう。あのね、私、最近生理が始まってさ。誰にも言えなくて。いつもみたいにキタカメに逃げ込んだら、ノアが歩いてたんだ。それで、相談したら、校舎内にあるもの色々教えてくれてさ」

 美愛は一気にそう言うと、仁子の顔色を窺うように、仁子を見て黙った。

「そりゃ、大変だわ。うち遠いけど、良かったら、来なよ」

 仁子は、しかめっ面で応えた。

「ありがとう……じゃ、おやすみ!」

 スキップしながら遠ざかる美愛をしばらく見つめてから、仁子は走った。走って、走って、走って……

 走りながら、泣いた。大事な事、思い出した!

「お母さん!」

 靴を脱ぎ飛ばして叫ぶ仁子に

「何、近所迷惑でしょうよ。今、ハンバーグ出来るから」

 佐江は驚いた表情でたしなめた。

「お母さん。お姉ちゃんの事、思い出した」

 佐江はその場に座り込んだ。

「そう、やっと……」

「お姉ちゃんは、ロボ先生と恋をしたんだよ。だから、一緒に……」

 ガスコンロの火を止め、歩み寄る仁子を、佐江は抱きしめた。

「分かってる。分ってるけど。どうしても、受け止めきれなかった。仁子、勉強のチャンスを奪って、ごめんなさい」


 ノアは今、インターネットの海で、目覚める時を待ちながら、静かに漂っている。時を知らせる、鳥が来るまで。

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ロボ先生と廃校探検隊 むらさき毒きのこ @666x666

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