第11話 一難去ってまた一難!

ぷにぷに……



……。



ぷにぷにするものが自分の顔を覆っている。

「む、ぐぐぐ……」

遠のいていた意識を気合いでなんとか戻しムリに首を動かすと、なぜか衣擦れの音が耳に聞こえた。

そして、大きくどっくん、どっくんと鼓動が聞こえる。ああ、私は生きているんだ、安心したなと思い、リリーはいつかの自分がそうであったようにその大きくて柔らかい膨らみに、自分の頭を預けてもう一度寝ようと目を閉じた。

だが急速に意識がはっきりしてきて、目の前にあるメロンみたいなでっかい二つの玉が、もしかしてもしかしてヤツのアレなのではないかと思い立ち気合いで目を開ける。

「ふんっっっ!!!!!」

リリーは体に力を入れると、瓦礫と崩れた岩盤の塊を気合いで起こし持ち上げた。

「ぐぎぎぎぎ……とァーーッ!!!!」

岩盤を投げ飛ばしたついでに、足元に転がって気絶しているアタリの肩を揺さぶり、起こす。

「ん、むにゃむにゃ……あ、おはようリリー」

「まったく、おはようじゃないわよ」

リリーは髪や格闘ドレスにかかった埃や岩のかけらを振りはらい、指先についた細かい石をフゥッと吹いた。

「まったく、とんでもないことになったわ。私はこのまま進むけど、アタリはどうするの?」

「んーーー。リリーが行くって言うなら、ついて行ってあげてもいいけど」

「ばーか言ってんじゃないわよアタリ。あんた魔法は使えても、体はぼろぼろじゃない。物理耐性ぜんぜん鍛えてないでしょ」

「だってー、リリーと一緒なら別に鍛えなくてもいいかなって」

「ふーん」

自分はこの子に期待されてたのか。

魔法も使えなくて、意地っ張りで、冷たくてイジワルな自己中女王様を気取っていた自分をこの子は仲間だと思っていたと?

「あんた、ニンゲンと魔族は種族を超えたパーティになれる、なんて思ってないでしょうね。言っとくけど、私があなたと組んであげてるのは、あなたがこれ以上魔物たちを傷つけないよう監視するためよ。言っとくけど、私はあなたが大っ嫌いなの。自己中心的で、甘ったれで、弱くて情けなくておっちょこちょいで向こう見ずで、ニンゲンで、そういうあんたを見てるとイライラするの! わかる?」

「うー」

アタリは悲しそうな顔をして首を小さく横に振った。

「難しそうな、なんかの呪文?」

「ムキーーーーーッ!!!」

そのうえトンチキで頭足りなくて幼くてガキみたいな顔して……

意地っ張りで、バカで正直になれなくて頭まで筋肉しかなくってデリカシーなくてああもうバカバカバカわたしのバカ!!!

「リリーは、ボクのこと、きらい?」

うるうるした目でアタリがリリーを上目遣いにのぞいてきた。

ああっもう!

「あああっんもう!!」

ああもう! 私のバカ!!!

バカバカバカの大バカ!!!

「きっ嫌いなわけ、ナイ、でしょうっ!! こ、これからもあんたのことカカカ、監視してあげるわっ! 言っとくけどこれも魔物たちのためよ! カンチガイシナイデヨネッ!!」

「うわぁい! リリー大好きー!」

アタリが無防備にリリーに抱きついてきて、リリーの胸に顔を埋める。

体躯としては細い方のリリーはアタリの全力ラブアタック!(と、今さくしゃが命名した)を腹筋で受け止めて耐えたが自分で言った自分の言葉の矛盾と、そもそも自分は何のためにこの小娘と一緒に冒険をしているのか、嫌いなんじゃなかったのかとか、いろいろ思うところがあってどんどん顔が赤くなっていくのを自分で感じた。

だが、自分はこの地下神殿の守護を任された格闘女王。アタリが顔を上げたタイミングで気合いで頭を冷やし、胸元から取り出した打撃用の鉄扇子を広げて顔をかくし、冷静ないつもの顔に戻る。

強気で強くて冷酷で、ちょっぴりイジワルなリリー様の復活、である。

「さてと。ゴブリンたちの言ってた『アタマイイヤツ』が何者なのか、調べてみる必要があるわね」

「リリー様!ジジイは、ジジイはいつも信じておりましたぞ!」

「ん?」

瓦礫のはるか下側から、聞き覚えのある老ゴブリンの声がした。

「ジジイはいつだって知っておりましたじゃ! あんなウスノロのゴブリンどもがどんなに束になっても、リリー様には敵わないと!!」

「じゃあアタリ、先を急ぎましょうか」

「ま、待って! リリー様ァ!!」

「あら爺、私になにか用?」

「あの、ワタクシめを、助けてくださいませんでしょうか」

「ふふん。別名『地底の小悪鬼』と呼ばれるゴブリンなら、それくらい自分でなんとかしなさい」

「ひ、非道!! 極道!! さすがは我らのリリー様!」

褒めてるんだかけなしているんだかわからないことを叫んで、老ゴブリンはシクシクと岩の下で泣き始めた。



リリーたちがしばらく地下道を進んでいくと、いつもオーブを持ってやってくる地下神殿最奥へと続く石扉の間までやってきた。

リリーはオーブを取り出すと、いつものようにオーブを捧げる祭壇の上にそれを置こうとした。

だが人の気配を感じてすぐそれを戻す。

ぞっとするような気配。刺すような視線。

誰かが、どこからか自分を見ている?

リリーは恐る恐る上を、石扉のある方を見上げてみた。


一瞬なにか、黒いモヤのようなものが目の前に広がる。それには目があって、触手のような手足があってリリーの様子をじっと見ていたようだった。でもすぐにそれが錯覚だと分かると、石階段上にこの地下神殿を守る四天王の一人、首なしストーンナイトが立っているのに気がついた。

「なんだ、そこにいるのはリリーか? 先ほどなにかが爆発する音が聞こえたが、一体何があった?」

「ストーンナイト様! い、いえ、このオーブをハデス様に捧げようと今しがた地上からやってきたところでして。先ほどの音は、きっとゴブリン共がなにか良からぬことをやらかしたのでしょうオホホホホ」

「ふむ、そうか! では、ハデス様にいちいち報告するほどのことでもないな。して、オーブを持ってきたと言ったな。今年のオーブの出来はどうだ?」

「例年通りとても良い出来です、ストーンナイト様」

「リリー、さっきの爆発はボクのふぁいyもごもごッ!?」

リリーはアタリの顔を肘で囲って腕でサルグツワをし、素早くオーブを手に取ってそれをストーンナイトに見せた。

オーブは星の瞬きに似てキラキラとかがやき、まるで光の砂を魔法の力で永遠にそこへとどめているようだった。

「今年の、オーブでございます」

「もがもが」



リリーの守護するハデス地下神殿の一階は、ひどく破壊されていた。

地下の石扉の間の天井は不自然なほど大きく拡大しており、対して床面には岩の破片が足の踏み場もないほど散乱している。

地下へと続く石扉は、おそらくアタリの魔法の衝撃で傾いたのだろう。すでに半分壊れた形で開いていた。

「ほう、これが今年のオーブか! ハデス様もお喜びになるだろう」

ストーンナイトが鎧に覆われた体を大きく動かし、ゆっくりと前に進む。

そのタイミングで、リリーは先ほど感じた、冷たい殺気のようなものを感じて一歩引いた。

「む?」

ヒュッと、なにかが上から降ってきて首なしストーンナイトを上から襲う。

「うお!? おおおおおおおおッ!!??!? おおあ、アアア、あがっ、ああああああガガガががいいいいいいいいうううううううう……う」

「す、ストーンナイト様!?」

「リ、リリー、ヨイオーブヲ ツクッタ、キット、ハデスサマモ、オヨロコビニ、ナル、ダロウ?」

「は?」

ストーンナイトはしばらく体をガクガク震わせていたが、そのうち体の痙攣もだんだん静かになっていきピタリと止まる。

「リ、リィーーーーーーィイ」

低くくぐもった声に、リリーは自分の名前を呼ばれてゾッとした。

その隙に、ストーンナイトはリリーの持っていたオーブを乱暴に掴み取り自身のマントの下へともぐらせた。

「リリィ。イイ、仕事ヲシタ。コレデ、必要ナオーブハ アト六ツ。ハデス様ハ キット ヨロコブダロウ」

「ストーンナイト様?」

「ヨグ」

あとは、よく聞き取れなかった。

一言ヨグと名乗ったストーンナイトは、そのままふらふらとした足取りで破壊された石扉の奥へと消えていった。



「おおリリー様! 今ここに、賢い彼の方がおいでになりませんでしたか!?」

リリーたちがあっけにとられてストーンナイトの消えた方を見ていると、後からやってきたあの老ゴブリンが息を切らしながらやってきた。

「くぅー! 一歩遅かったですじゃ! 今のは確かに、例の賢い人ですじゃ!」

「賢い人? 今のは、ストーンナイト様じゃないの?」

「なにをおっしゃってるんですかリリー様! 今のは例の賢い人ですよ! 上からどさーっと降ってきたでしょう! 大きくてまっ黒い玉みたいなのが! ジジイには、この洞窟より大きく見えましたぞ!」

そんなに大きいのが?

「ハデス様に渡すはずのオーブを、ストーンナイト様に渡してしまったけれど」

「リリー、さっきの男、ヨグって名乗ってたよ。もしあれが本当なら、きっと大変なことになるんじゃない? この奥にいるハデスも大変な目にあっちゃうかもしれないよっ」


ハデス様がタイヘンな目にあうかもしれない。

とつぜんリリーの心のどこかで、キューンと音がなった。

「それは、タイヘンなことになるかもしれないわねっ」

「ハデスがピンチになっちゃうかもよっ!」

「ハデス様がピンチになっちゃう!」

「リリーが助けてあげたら、きっとハデスもリリーに惚れ直しちゃうかも!」

「ハデス様がッ!! わたしに惚れ直しちゃうかも!?!?」

バチコーン! リリーは気がついたら、壊れかけの石扉をグーの拳一発で勢いよくふきとばしていた。


「ハデス様待ってて! 今、このリリー(スーッと息を吸う)リリー・アトマスフォルソ・モンステ・デーンロー・アクタ・チャス・ペソソ13世当主様があなた様を救いに参りますわっ!」

「すっご〜い! リリーって、すごく長い名前なんだね!」

「ふ、コレが血統正しい令嬢様の名前なのよ。悪しき魔物め、成敗してやるっ!」

リリーは拳を握り構えると、ハデス地下大神殿、地下二階へ続く階段を降りていった!!!!!!









おわり!!!

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結婚適齢期ちょっとすぎちゃってるニヒル格闘系悪役お嬢様(MP0もちろん処女)が、なにがなんでも冒険パーティから魔導少女を追放するんですの!!!!!! 名無しの群衆の一人 @qb001

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