第10話 悪役令嬢、たたかう!


「はぁーっ! 咆牙掌!!」

リリーの放つ挌闘技に魔法を絡めた攻撃で、ゴブリンたちが吹き飛ぶ。

リリーの格闘用ナックルにはめられた魔法鉱石が闇の中でキラキラと輝き、その輝きと比例してリリーの咆牙掌にも勢いが付与されていった。

「ファイヤーっ」

アタリが魔法を唱え、洞窟中から襲い来るゴブリンたちに火の玉を打ち込む。

火球はゴブリンたちに命中したが、マジックピグミー族の鎧が魔力を減衰させ、弾き飛ばして無効化する。

だが幾分かのダメージは与えられているようで、アタリのファイヤが直撃して行動不能になったゴブリンが数体はいた。

「だいぶ数が多いわね。思ったより苦戦するかも!」

「リリー、ちょっとだけ後ろにさがろう!」

「くっ、こんなやつらに苦戦させられるなんて屈辱だわ!」

リリーとアタリが数歩引くと、それを見たゴブリンたちはさらに興奮してリリーたちに対して特攻を仕掛けてきた。

その目はすでに充血してほぼメクラとなりつつあり、言動も「吼える」か「唸る」「支離滅裂なことばをわめく」か、聞いたこともないような古代呪文めいた言葉を発して生き絶えるかのどれかくらいしかなかった。


ゴブリンたちはすでに理性を失っており、洞窟の中でまるで一体のウロボロスや大蛇、巨大な粘菌のように、意思疎通の取れたうごめく黒い影となりつつあった。

パニックになったゴブリンたちが、訳も分からないと言った風にがむしゃらにリリーに突っ込んでくる。リリーはヒュっと突きなのかパンチなのか分からない構えでゴブリンを突き刺し、振り払う。

ゴブリンの死体から血が噴きこぼれる。それが他のゴブリンたちにかかり、さらにパニックとめちゃくちゃなゴブリン特攻を誘発する。

「ファイヤ! ファイヤ!! す〜ぱ〜ファイヤ!!」

アタリがファイヤを連発する。それらが鎧に弾かれて、幻想的なオーロラを洞窟内に再現した。

洞窟が、ゴブリンと外れたファイヤの衝撃で大きく崩れだした。

リリーについてきた重装ゴブリンはすでに敵対するゴブリンたちに飲み込まれ、姿も見えなくなっている。

老ゴブリンはみがまえていた!


「リリー! これ、まずいよ!」

「もう、ちょっとよ! もう少しだけ耐えれば、勝てるはずだわ!!」

「リリー! 見て、上のほう!!」

アタリがうえを指差しリリーの視界を上に向けさせる。

アタリのファイヤ連発が、ついに洞窟の天井崩落を誘発していた。

グラグラになった鍾乳洞がすでにいくつも落ちてきており、脆い岩盤が砂をバラバラと落としていた。


いつ天井が崩壊してもおかしくない。

リリーは、妙案を思いついた。

「はぁ〜〜〜!!!! す〜ぱ〜〜〜〜〜〜っ、咆牙掌!!!!!!!」

壁に向かって一撃必殺!

衝撃波が岩盤を支える石柱の一番脆い部分にヒビを入れ、そこから崩落が始まった。

「逃げるわよアタリ!」

「うん!」

「ま、待って! わ、ワシも!!」

「ジジイはさっさと死ねっ!!」

リリー、アタリ、他ジジイ一名は天井崩落と衝撃から身を守るため、一ブロックほど通路を戻って態勢を立て直した。

リリーは相変わらず前衛を。アタリは後方から強力な攻撃魔法で。ジジイは いのちを だいじに していた!


いのちを だいじに!

それを すてるなんて とんでもない!


「ウガアアア!!」

「ゴオオオ!!」

理性を失ったゴブリンたちがリリーたちに飛びかかる。

洞窟内に、リリーたちを追いかけるゴブリンの蛇のような列ができる。

洞窟のあちこちで、ついに落盤が始まった。

「あっ、落ちるよ!」

「はあああ!!!」

リリーは最後のゴブリンを強めに弾き飛ばして、身を低くする。

吹き飛ばされたゴブリンは肉の球のようになって崩落しかかった空間まで飛ばされたが、そのひょうしに仲間数名を道連れに奥までいってしまう。

崩落が、巨大落石から始まり一気に始まった。

「頭を守って!」

リリーは後ろにひかえるアタリたちに叫んだ。その瞬間、細かい石と砂利、風と砂煙が身に降りかかる。

大きな崩落の音。

真っ暗な中。


リリーは、身をかがめて頭を守った。

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