第9話 魔導少女をPTから追放しようとしていたら自分がアカBANされていた件について(第2部 ハデスの地下神殿/地下第一階層)

旧坑道を抜けて地下神殿へと入ると、そこはたしかに地下神殿だった。

だがいつもとは雰囲気が違いピリッとした緊張感に包まれている。

リリーはここ地下神殿地下一階の守護者だった。とうぜん、リリーがこの地下神殿に着いたときには、出迎えのゴブリンたちが出迎えてくれてもいいはずだった。

「おかしいわね。雰囲気が何か妙だわ」

ゴブリンの出迎えがあるどころか、魔物一匹すら出迎えに出てこない。それどころか雰囲気的に、敵意すら感じる。

まるで地下神殿に敵がやってきたときのように。

「アタリ、なんだか様子がおかしいわ」

「うーん。なんか変な感じだね」

「もう少し先に行ってみましょう」

「それには及びませんよ、ご両人」

とつぜん洞窟の天井あたりから声がしたかと思うと、顔色の悪い老ゴブリンが上下逆さまになって顔をのぞかせリリーたちを見下ろした。

「戦闘には使えない他のものどもには、すでに奥へ下がるよう伝えてあります。あなた方二人がお越しになるのを、ジジイは待っておりましたぞ。キヒっ! ヒヒーヒヒヒッ……」

不気味な笑い方で、白濁した眼を大きく見開き老ゴブリンは笑った。

逆さまの姿勢で右手を振ると、影から幾人かの重武装Assassined Goblin(選りすぐりのゴブリンの中でも、特に隠密や暗殺に特化した武器と特訓を施された小部隊)が現れて、逆さの姿勢のままリリーに一礼した。


「爺。これは、どういうことなのかしら?」

「キヒッ、どういうことと言われましても」

「ここの地下神殿は私がボスよ。部下が私に上から目線って、ずいぶん無礼じゃない」

「あ、あう、それはその、リリー様がそこの人間なんかとお付き合いになってりましてその……」

「ゴブリンの分際で言い訳なんかもする気なの」

リリーは、表情こそ笑顔ではあるがその雰囲気には殺意のようなものがにじみ出ている。

アタリがリリーの殺意に気がつきオロオロしていると、リリーはキッと頭上の老ゴブリンたちをにらみつけた。

「下に降りてきなさい」

「は、ハハーッ!」

ドスのきいたリリーの一声に、老ゴブリンと重装ゴブリンたちは慌てて地面に降りてきた。

「さて。地下神殿一階を取り仕切る、魔王様の配下にして地下神殿の守護者、格闘の女王とは誰?」

「あ、あなた様でございますゥ!」

「それで? おまえたちはいったいなんなんだい?」

「ち、地下神殿を守る女王様の部下です!」

「うんうん、よろしい」

リリーは満足そうにうなずくとつかつかと老ゴブリンたちに歩み寄り、その頭をヒールで踏み潰した。

「で?」

「で、でででで……」

「おまえたち地下に棲む醜いゴブリン供が、この私に何の用だって?」

「あああああ、わ、ワタクシめは、ワタクシたちは……」

「オビエルヒツヨウ ナイ!!!」

とつぜん洞窟の奥から複数の影がやってきて、たいまつを掲げてリリーたちを取り囲んだ。

「ゴブリン、ツヨイモノニ ツク。オマエ モウ ツヨクナイ。オレタチ オマエニ ズットイイヨウニ ツカワレテキタ ゴブリンハ オコッタ!!!」

「あ?」

リリーの顔から、笑い顔がスッと消える。

「ご容赦くださいリリー様! 止めたのです! ワタシはあやつらを止めようとしたのです!! ワタシ供はもががっ!?」

余計なことを言おうとする老ゴブリンをアタリが取り押さえ喋れないようにした。

リリーは高飛車に顎を上げながら、新しくやってきたゴブリンたちに対峙する。

「で? 反乱ってわけ。100年前もおんなじようなことをして負けたのに懲りないじゃないの」

「ゴブリン アタマワルイ ダカラ モットアタマイイヤツ キイタ」

「はん? もっと頭がいい奴?」

「モットアタマイイヤツ! キイタ!アタマイイヤツ ニンゲン キライ! ゴブリンモ ニンゲンキライ! アタマイイヤツ オレタチニ チカラクレタ! ニンゲン クウ チカラ アタマイイヤツクレタ!」

ビシーッと、ゴブリンがアタリを指さす。

「オレ、オマエキライ! ドウクツデ オレタチイジメル! アタマイイヤツ ニンゲンコロセ イッタ! オレ オマエコロス!!」

コロス! コロス! コロス! と洞窟ゴブリンたちが一斉に声を上げる。

「ちょ、ちょっとまーった! じゃあアンタたちはこの子に強い恨みがあって、そのアタマイイヤツになんか言われてるわけね!?」

「リリー様モ イツモゴブリンイジメル! ユルセナイ!」

イジメル! イジメル! イジメル! と洞窟中のゴブリンたちが叫んだ。

「アタマイイヤツ アタラシイ守護者 ナル。アタマイイヤツ オレタチイジメナイ! ゴブリン アタマイイヤツニ ツイテイク! リリー様 モウイラナイ! オカタヅケ!!」

オカタヅケ! オカタヅケ! オカタヅケ! とゴブリンたちが騒いだ。

「わ、私をお片づけェ!?」

「ゴブリン リリー様 オカタヅケスル! アタマイイヤツ オレタチ タスケテクレル! アタラシイチカラ!!」

ゴブリンたちは一斉に雄叫びをあげると、とつぜんいそいそとその場でお着替えを始めた。

と言っても、腰にボロ布を巻いたほぼ全裸の小さいゴブリンのおっさん的な感じだったので、単純に鎧を着込むとすぐにお着替えは終了した。

「オキガエ オワリ!!」

オキガエオワリ! オキガエオワリ! オキガエオワリ!!

「オレタチ ツヨクナッタ!!」

ツヨクナッタ! ツヨクナッタ! ツヨクナッタ!

「なにあれ。見たことない鎧ね……」

「あ、ああー!」

アタリがとつぜん声を上げた。

「アタリ、何か知ってるの?」

「知ってるよ! あれ、東方三大遺跡の最深部に眠ってたマジックピグミー族の鎧だよ! けっこうつよかった!」

「それを、あなたはもう倒したことがあるのね……」

「うん!」

アタリは元気よく答えた。

「でも、あの時は3体くらいしか見なかったよ。あれでもけっこうギリギリだったけど」

「ふーん? いち、にーさんしーごー……10体以上はいるわね」

「10体どころではないですぞリリー様! 洞窟の奥にもゴブリンたちは控えております! 若手のゴブリン戦士たちは、みんな蜂起してますじゃ!」

「ってことは、ざっと100体くらい?」

「ひゃく……たい」

アタリの顔からさーっと血の気が引く。

もちろんリリーも一瞬固まったが、その顔には未知に挑戦する戦士の顔が浮かびつつあった。

「100体の古代戦士たちの鎧とそれを着たゴブリン。上等じゃないの」

リリーはサッと前に歩み出ると、腰を落とし、戦装束の裾をまくしあげ、戦いの構えをとった。

先ほどまで地面にひれ伏していた重装ゴブリン2名が後に続き、リリーの脇を固める。

後方には呪文詠唱の準備を始めたアタリと老ゴブリンが。


リリーが大きく声を上げる。

「さあ、かかってきなさい!!」


老ゴブリンは みを まもった!

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