エピローグ

 或る満月の夜、小人達が丘の上で焚き火を囲んで酒盛りをしていました。

 あのガラスの棺(ひつぎ)が有った丘の上です。ガラスの棺は白雪姫を乗せたままお城に運ばれていました。間もなく元気な白雪姫が棺(ひつぎ)から出てくることでしょう。

 煌々と光る満月の下、小人達の笑い声が響きます。

 そこに、「小人さん達、出前に伺いましたよ」と空から声が降ってきました。

 門番です。魔法の鏡に乗って屋台を引いた門番が空から声をかけてきたのです。

 鏡は小人達のそばにふわりと着地しました。


「おお、待ってました!」


 小人達のリーダー、デルサム・トップが声を上げます。

 鏡から屋台を引いて降ろした門番は、早速ラーメンを作り始めました。あたりにいい匂いが漂います。


「できたよ。ラーメンは出来立てが一番だからな」


 門番が次々に小人達にラーメンを渡して行きます。


「うーん、うまい!」

「うまいよ。レジェンドラーメン!」


 門番も自分用に一杯作るや食べ始めました。旨そうに麺をすすります。

 一郎はニコニコとその様を見ていましたが、急にラーメンが食べたくなりました。ラーメンの出汁の香り、麺の歯応え、チャーシューやメンマの味、そんな記憶がどっと蘇りました。しかし、魔法の鏡に変身した一郎にはラーメンどころか、どんな食べ物も食べられません。一郎は悲しくなりました。涙があふれます。

 その時、声が聞こえました。


(鏡よ、聞こえるか? 妾じゃ)


 お妃様です。お妃様の声が響いてきました。


(鏡よ、聞こえたら返事を致せ!)


 一郎は急いでお妃様の声がした鏡を探しました。お妃様の私室の鏡から聞こえてきます。


「お妃様、何か御用でしょうか? 私はこちらに控えております」

「そなた、今、ラーメンが食べたいと強く思わなんだか?」

「……、はい」

「だろうの。妾の鏡にラーメンの画像が突然出てきたからの。何故、食べたくなった?」

「よくわかりません。小人達がラーメンを食べる様子を見ていたら急に食べたくなったのです。こんなこと、一度もなかったのですが」


 お妃様はしばらく考えていましたが、「鏡よ、じっとしているのじゃ」と言いました。

 一郎は何事かと思う間もなく強い衝撃を受けました。衝撃のあまりぼんやりしているとお妃様が言いました。


「咥えている銀のスプーンを吐き出してみよ。元の人間に戻れるであろう」

「ええ! 本当ですか?」

「ああ、本当じゃ。試してみるが良い。ただし、月の力を借りたのでな。満月が空にかかっている間だけじゃがな。月が沈む前に鏡に戻りたければ銀のスプーンを咥えるがよい。さすれば、魔法の鏡に戻るであろうよ」


 一郎はお妃様に何度も礼を言って銀のスプーンをプッと吐き出しました。

 シューッと音を立てて一郎の体は元の人の体に戻っていました。


「一郎さん!」

「一郎さんだ!!」


 門番と小人達が喜びの声を上げます。


「お妃様が月の出ている間だけ、人の体に戻してくれたのです。これでラーメンが食べられます!」


 早速、門番がラーメンを作って一郎に渡します。

 一口食べた一郎は「ああ、幸せ!」と言ったとさ。



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お妃様と鏡とラーメン 青樹加奈 @kana_aoki_01

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