雨の日に、また、1人

三石 警太

雨の日に、また、1人

ざあざあと雨の音が、僕の部屋をうるさくする。

僕は静かなところが好きなのに。

雨の音が僕をイラつかせる。

僕は友達がいない。友達がいると、うるさい。学校にも行ってない。

だから、一人で家にひきこもっている。

世間は、夏休みだ、と浮かれているが、僕は今日も部屋で一人、本を読んでいる。なのに、雨が僕を邪魔する。

7月も中盤だと言うのに、雨は場違いに降り続く。

雨は嫌いだ。どこにいたって、いろんな音で僕を刺激する。

ある時には、ポツポツと。

ある時には、だだだだと。

ある時には、ざあざあと。

だからって、晴れも嫌い。

とにかく明るくて、ウザい。ひたすらに、笑顔を振りまける、太陽が嫌い。

だから、僕はくもりが好き。

明るくも、うるさくもないし、朝から晩までずっと同じ調子で空から見守ってくれる。

僕の陰鬱とした心象にも合ってる。

でも、今日は雨。

騒音に耐えながら、本を読む。

するとドタドタとうるさい足音が聞こえ、ドアが突如として開かれた。

「あんた、暇ならおつかいに行ってきてちょうだい。夕飯の材料が足りなくて困ってるの」

母さんは、ノックなどしない。自分のペースを貫く。相手のペースなど省みさえしない。

だから、僕は母には忠実なしもべとなる。

なかば、母に抵抗することに諦めたのである。

従いさえすれば、ある程度は僕の生き方を尊重してくれる。

僕は、おつかいのメモを手にドアを開けた。

少しばかり騒々しかった、雨の音は、本領発揮と言わんばかりに、泣き叫ぶ。

まるで、地面に落ちるのを怖がっているかのように。

おつかいの品を近所の商店街で買い、家に戻ろうとすると、商店街から路地にかかる十字路の角で傘を差さず、つぶらな瞳で僕を見つめる一人の少女がいた。

年は僕と同じくらい。背は僕より一回り小さくて、まるで、ずっとその場所で僕を待っていたかのような印象を受けた。

僕は、一旦は通り過ぎようとしたが、少女が僕にすがるような目で見つめてきたので、いたたまれなくなって、声をかけた。

「僕に、何か、よう?」

話し慣れていないのがバレバレだ。

「私、雨。あなたは?」

名前か…?いきなり名を名乗り、相手の名前を求めるなんて、変わっているなあと思った。

「僕は…佐藤」

「サトウくんか。よろしくね」

雨は、少し雨に濡れしっとりとした、それでいて細くて、ひねったらすぐにも折れそうな腕を差し出してきた。

「よろしく…」

雨は悪戯っぽく微笑むと、僕のことを聞いてきた。

そして、僕らは意気投合した。

何故かわからないけれど、運命的な何かを感じることができた。

雨はそこまでおしゃべりな類いではなかったが、だからこそ言葉では伝わらないことを、心で通じ合うことができた。

僕は自然と喋ることができ、雨は唯一の友達になった。

毎日のように僕はその場所に通い、雨も毎回そこにいた。

やがて、雨の日が終わり、太陽が顔を出した。

僕は、いつも通りその場所に向かったが、雨はいなかった。

突然風が吹き、僕は不安に苛まれた。原因はわからないが、直感的に何かを感じ取ることができた。

8月も終わろうとしていた。

久しぶりに雨が降り、僕は一筋の希望を信じ、いつもの場所に向かった。

雨は、そこにいた。

いつもと変わらないような佇まいで、そこに立っていた。

「私ね、もう、サトウくんと会えない」

「え…どうして?」

「人生ってね、理不尽なんだ。出会いがあると必ず別れがある。」

「答えに…なってないよ」

雨は苦しそうに、でも一生懸命に笑った。

「今まで、ありがとう。サトウくん。この夏、楽しかったよ」

雨は泣きながら、言った。雨の目には、たくさんの水が含まれていた。

通り雨だったようで、少しずつ晴れ間が見えてきた。

雨はいつもいた場所から一歩、また一歩と踏み出し、日の当たる場所に出るとサラサラと光り輝く砂のように溶けていった。まるで、砂糖のように。

僕はただ、その光景を呆然と見つめていた。

雨の中に1人、僕は立っている。

彼女の温もりが、匂いが、あのしっとりとした感触が、脳裏を駆け巡る。

また、1人になってしまった。

雨の日、僕は傘を差し、雨がいた場所に立っていた。

彼女を探したが、もういない。雨のように、消えてしまった。

だけど、僕は彼女からプレゼントをもらった。

雨が好きだという感情をもらった。

雨の中にいると、彼女と過ごした夏を思い出す。

だから、今日も僕は、雨を待つ。

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雨の日に、また、1人 三石 警太 @3214keita

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