がたん、ごとん。列車はひたすら進む。その中に、少年が一人で座っていた。そんな少年に、白いコートの男が声をかける。トンネルに差し掛かった時だった。
少年と白いコートの男は、互いに名乗り、ひと時の間、語らう。少年も男も不思議な雰囲気を持っていたが、この列車自体が不思議だった。
列車に乗ったからには、目的があるはずだった。しかし、男はその当初の目的を失ってしまう。列車を降りる際、男は少年に自分の白いコートをかけてやった。
何故なら少年の正体は――。
そして男の当初の目的、そして列車に乗っていた人々の目的は――。
どこかノスタルジックな雰囲気の作品で、大きな事件などは起こらないものの、文章自体に魅力を感じる作品でした。
是非、御一読下さい。
目的地のない、透明で不思議な列車の旅。
少年は男性と出会い、会話をし、別れる。
列車の旅は、人生の一ページと似ています。多くの人が一期一会を繰り返しながら、自分でもはっきりしない終着地へと向かって生きている。
少年は思います。
「その扉の向こう側にはどんな景色が広がっているのか、教えて欲しい……」
あなたならどう答えますか?
同じ景色でも、何を見て何を感じるかは一人一人違う。それは人生の感じ方とも共通している気がします。
「あなたの人生は何を見て、何を感じましたか?」
そう問われているようです。
この読後感は私のもの。この作品から何を感じるかは人それぞれでしょうね。
読み取り方が無限に広がっている、味わい深い作品です。
とある、誰もが向かわざるを得ない目的地への旅の途上が、ワンシーンで、ある乗り物の中で、描かれています。
登場人物も可能な限り少なくしてあり、その旅の途中では、たとえどのような者であるとしても、温かな言の葉、やさしさを表現することだって、できるのです。
ある扉を開けたとき、そこにどのような世界が待っているのかは、解りません。
それでも、いつかこの人たちは扉を開けるかもしれません。
でも、そうしないのかもしれません。この乗り物が、停まり、そこから降りる場合だって、あるかもしれないからです。私はそうして欲しいし、降りてから視る世界を、新しい世界を、体験してほしいからです。
世界を回すのは、お金ではありません。世界を回すのは、愛です。
この乗り物が停まった場所から、愛を求めて、この人たちは行くべきだし、そうなるのだと思います。
と、勝手ですが、そう言った感想を、抱きました。