この小説は皮肉という言葉がよく似合う。洗練された少ない言葉に、主人公の狡さも弱さもよく現れている。喧騒を避け感情の動きから逃げ無難に安定を選び、主人公が手にしたものは納得のできるものであったのだろうか。潮と言う流れの中に身を置き、そこに無心の境地を求めているようで、なんともまあ腹立たしくも愛おしい人間の姿だなと思う。そしてそれを掌編で書ききってしまう作者の筆力が見事である。読んで何を受け取るかは読者により違うだろうが、胸がざわめくのは同じではないだろうか。
まさに純文学の香り高い作品でした。うまく言葉が出てきません。美しい表現、選び抜かれた芸術的な言葉たち。しんとした闇の中、ぼうと浮かび上がる光が脳裏に浮かびました。主人公の男は何をしたのでしょう。何を求めてここに来たのでしょう。最後の一行まで読み終えると、解けないミステリーのように闇が迫ってきます。静かな作品がお好きな人にぜひ読んでほしい。
フィクションだとは思うのですが、実話のような臨場感や説得力があります。作者さまの確かな筆力がなせるわざでしょう。ナイトダイビングの静謐さや、水の温度まで感じそうな描写も、物語にいっきに引き込んでくれます。皆さんもぜひ読んでみてください。
主人公は夜の暗い海に潜ることで喜びを得るダイバー。主人公は暗く、静寂な夜の海の中が好きだった。そんな主人公には、一緒に夜の海に潜る相手がいた。相手は主人公の趣味を理解して、夜の海には欠かせないライトを隠してくれる。 しかし、今日は何かが違った。記憶が夜の海の中を邪魔するのだ。 付き合って、消去法的に結婚した彼女の記憶だ。 果たして、彼女と主人公の間に何があったのか? そして、何故主人公はこんなにも夜の海の中に惹かれたのか? ラストには読者を試す描写が待っている。 是非、御一読下さい。
一人の男の彷徨う心、過去と現在を夜の海のに身を沈めるダイビングとともに描く。とても文学性の高い作品です。作者の言葉通り読んだ方の心にどんな思いが残るか、どのような景色が映るかは読んだ方に委ねたいと思います。それが作者の思いでもあると受けとめました。ぜひ!多くの方に!