野分 のわき

雨世界

1 ……私の手を握って。

 野分 のわき


 登場人物


 野分育 陸上部所属 体育教師志望の元気で明るい女の子


 若菜色葉 陸上部の顧問の先生 真面目で優しい人


 プロローグ


 ……海の匂いがするね。


 育の目標


 努力すること。頑張ること。諦めないこと。最後の最後まで、……きちんと自分の足で、限界まで走り抜くこと。


 本編


 ……私の手を握って。


 高校二年生の野分育は恋をしていた。

 十七歳の女子高生である育にとって、誰かに恋をすることは、別に変なことではなかった。(友達のみんなも、誰かに恋をしていたし)


 でも、育の場合、相手がちょっと問題だった。


 それは育の恋の相手の人に問題がある、という意味ではなくて、二人の関係に少し問題があったのだ。

 それは、育の恋をしたい相手が、自分の所属している陸上部の顧問の先生である、ということだった。

 育の年頃の恋をする少女が、こうした大人の男性に憧れるということは、よくあることなのかもしれないと思った。

 でも、育の場合、それは憧れではなくて、本気の、本気の恋だった。(否定すればするほど、それがよくわかった。だって、否定しきれなかったから)

 

 なので、こうと決めから、行動の早い(心より体が先に動くタイプの)行動派の育は、あれこれと悩まずに、本人の陸上部顧問の先生に、自分の気持ちを正直に打ち明けることにした。


 その先生の名前は、若菜色葉と言った。


 郁は色葉先生を、進路のことで相談があります、と嘘をついて(まったくの嘘というわけじゃないけど。恋も進路のうちだし……)呼び出した。

 

 優しい色葉先生は「わかった」と言って、わざわざ忙しい仕事の合間に時間を作ってくれて、育のところにまできてくれた。


 二人が放課後に話をしたのは、学校の『進路相談室』だった。


 そこで育はありのままに「好きです。私と付き合ってください」と色葉先生に告白をした。

 

 すると色葉先生はとても驚いた顔をして育を見た。(まあ、当たり前かな、と育は思った)

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