よだれ

愛創造

よだれ

 増える。増える。増える――此処が奈落なのか楽園なのか。騒々なのか静々なのか。誰にも理解不可能な茫々。脳味噌に広がる極彩の回転は、幻覚の類に違いない。破滅的な現状を誰かは脱したいと抗うだろうが、果たして私は如何なのか。簡単に掴めた吐き気のような甘ったるさ、幸福を手放すほど賢くはない。天地がぐるりと嘲笑し、緑色が目玉を注いだら、総ては素晴らしく恍惚的だ。故に。私は逃げられない。逃げる必要がない。神々の慈悲深い魚面が、じんわりと血管に――いあ。いあ。誰が大祭司様の奴隷だ。此処は海の底でも宇宙の外でも何でも在らず、夢の境と記すべきか。旧き支配など未だ眠り。眼前で踊るうねうねよりも現実的とは言い難い。少しは考えを変えるのだ。貴様等が真実、ヒトガタなのは解せるのだ。盲目に陥った魔王など敵では在らず、私は今宵も酩酊に堕ちる。垂れた粘りは透明だ。拭っても拭っても拭っても、奉仕する胞子どもが鼻腔を擽り。嗚呼! アァー!!! 成程。此れが原因だ。己の思考回路を詰まらせる極小の粒々。こぼれた眼球が目玉を視て、渦を描く代償は凄まじいと訴えた。ハッハ……愉快だ。自らの脳天に。頭蓋に。中身に。根を張った菌類の膨張。増える増える増える――落ち着け。深呼吸だ。此処が楽園か奈落なのか。静々なのか騒々なのか……気が付いた。漸く私は同じ話を幻覚相手に続けて在ったのだ。全く。忌々しい不浄の群れ。私は常々人間の輪郭だぞ。なあ。なぁ。なあぁ――ぽたり。ぽたり。


 それで『此れ』が噂の個体。幻覚を視続けて現実を侵蝕した人型。観察するのは構わないが、注意すべきは『此れ』の体液だ。毎分数的地面に落ちるよだれ。増えた生物を悉く同じ状態に連れ去る菌類――ああ。大丈夫だ。部屋の中に入る際は防護服を――え? 防護服が妙に濡れている。ネバネバ……おめでとう。君が最後の『純粋』な人類だったのだ。誕生に感謝して。増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える――お母さんだ。お母さんが貌を晒したぞ。我々は遂に救われるのだ。咀嚼される為に、人類は、菌類として育まれる幸せ! お母さんを称えるのだ――いあ。いあ。いあ。


 むしゃり。もぐもぐ。

 まずい。やり直した。

 ――マグナ・マータがを撒く。

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よだれ 愛創造 @souzou_Love31535

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