第11話-伴走者
「俺がこっちの席座る日が来るとはなぁ」
二人して同じ制服を着て向かい合う。珍しいことじゃない、と返せば、そらそうだ、と机に肘をついた。
「ここはそういうモンに遭いやすい奴が集まってるんだからな」
***
俺、趣味でマラソンやってるんだよ。知ってるって? ああ、そういや入職したときアンケートに書いたっけ。うん、毎日走ってる。
そんで、時期が合えば近くでやってる大会にも申し込んで出場してるんだよ。
この前も、自宅の隣町が開催してるマラソン大会にエントリーして、走ってきたわけだ。フルマラソンだよ。他はハーフと、10㎞と5㎞があったっけな。
給水ポイントには水とスポドリ以外に、ご当地の名産品が置いてあってさ。面白系の大会だったんだけど、ちょくちょくよその大会でも見かけるガチ勢も来てて燃えたなぁ。
ともかく、エントリー受付やって、出走準備したわけだ。で、時間になったら走り出すだろ?
まあまあいいペースで走ってたんだけどなぁ。
後ろをピッタリつけてくる奴がいたんだよな。キツくなってきてペース落としたり、回復してペース戻したりしても、ずっと同じくらいの距離でついてくるんだ。給水ポイントで水を取る音がしなかったから、変だなと思ってよくよく音を聞いてみたら、足音しか聞こえないんだな、これが。
フルマラソンを2時間ちょいで走るペースで、息を切らしてる呼吸音も聞こえないなんてのは、さすがにおかしいだろ。なにに後ろを取られちまったんだか……ただ、振り返ると良くないってのだけはわかったから、俺はそのまま走り続けた。ンン、まあ勘だよ。見たら追っ払える奴と、見たらまずい奴、どっちもいるだろ。なんとなく追っ払えるほうじゃないと思った。
いるって気づいたのが折り返し前の給水ポイントだから、15㎞くらいか? んじゃざっくり27㎞くらい、そいつをくっつけて走ってたのか。我ながら頭おかしいな。
あんま生きた心地しなかったぞ。追いつかれたらなにが起こるかもわからんし、レース終わったらいなくなるのかどうかも不確定だし。おかげさまでいつもよりペース上げっぱなしになってたくらいだ。疲れたぜ。
ゴール直前で急に足音が遠くなったから、気になって仕方なかったけど、そのまま前見て走って、ゴールしてから振り返ってみた。けどまあ、案の定なんもいないんだよな。
それだけだし、それっきりだ。
***
「その後足を故障したとか、やたら不運だとか、そういうのもない」
彼は大会の終了からこの机につくまでを思い返すように視線を巡らせ、一人うなずいた。
「多分レース中に、ゴール目前で体調急変して死んだとか、そういう奴だと思うんだよな。いつかゴールできりゃ、いなくなるような気はするけど」
仕事中に世間話みたいに話すのは慣れねぇな、と言って、彼は現地調査には自分が行きたいと述べ、部屋を退出した。
一人百物語 きよみ @shiou_kiyomi
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