かまいたちの夜
私は少年時代、両親の仕事の都合で良く、引っ越しをした。
ひどい時には半年と経たずに、県をまたいで移動した事もある。
そのせいで、小学生の自分は顔も名前もクラスメイトになかなか憶えてもらえず、何時しか私は、友人を作ることを諦めていった。
そんな私が放課後、家に引きこもっては、テレビゲームに精を出すようになった事を一体誰が責められよう。
当時はスーパーファミコン全盛期。
ドンキーコング、カービィ、マリオ、FF、ドラクエ。
それはそれは多くの名作が生まれた。
その中で私は、人生を大きく左右する作品に出会った。
1994年にチュンソフトから発売されたスーパーファミコンソフト『かまいたちの夜』である。
かまいたちの夜はADV。
いわゆる文字を読み進め、分岐を選択していくゲームである。
吹雪で閉ざされたペンション『シュプール』を舞台に、主人公『透』、ヒロイン『真理』を始めとした個性豊かな人物達が繰り広げるサスペンスを解決していく。
私はこの作品の世界観に魅了され、実際にモデルとなったペンション『クヌルプ』に一泊するほどのファンとなった。
かまいたちの夜、このゲームの最大の魅力はその選択によって大きく主人公の行く末が変わってくるという点である。
更に、この作品にはシナリオライターを務めた、『殺戮に至る病』で有名な推理小説家、我孫子武丸氏のメタ隠しシナリオが存在する。
その内容をざっくり話すと、
1.シナリオライター我孫子氏は、制作会社チュンソフトに幽閉され、強制的に仕事をさせられている。
2.我孫子市はチュンソフトと言う会社の真の姿に気が付いた。それは、ゲームを通じて子供たちを洗脳することだった。
3.チュンソフトはゲーム会社の枠を超え、将来、宗教法人、政治結社、多国籍企業の複合体、チュンソフ党となり、洗脳された国民はチュンソフ党のインスタント食を食べながらチュンソフ党のゲームを廃人のようにプレイし続けるだろうといった、ディストピアがほど近い事を案じさせるものだった。
私はこの文面に衝撃を受けた。
ゲームの隠しコマンドからしか読めぬこの文章には、妙にリアリティがあり、さすがに本当ではなかろうが、実にワクワクさせられるではないか。
私はこれがきっかけで、将来ゲームシナリオライターになる事を決めたのだった。
そして、大学を出て就職した先は……チュンソフトだった。
この選択は、私の人生で最も愚かなものだった。
結局、私はこうして、あの隠しメッセージは嘘でも、ネタでも、そしてゲームの中の話でもなく、ただひたすら、真実であったと突き付けられ続けている。
あの我孫子氏も、かつて、この部屋に幽閉されていたのだろうか。
チュンソフトは2012年、スパイクを吸収し、スパイク・チュンソフトとして更に拡大した。
このメッセージを読む人間がどれほどいるかわからない。
だが、信じて欲しい。
あの予言は真実であった。
チュンソフ党は存在する。
名前を変えて、国民に気付かれないようにしているだけだ。
そう、あの党である。
奴らは今は野党としてなりをひそめているが、もしも政権を握る事になれば、25年前に我孫子氏が予言したディストピアが必ず訪れるだろう。
頼む、私はこのメッセージを残す事で精いっぱいだ。
未来は君たちにかかっている。
まもなく夜の配膳だ。幸運を祈る。
チュンソフ党の残党2019 いずくかける @izukukakeru
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