第42話 兄の思い

フェルナンドに剣を最初に教えたのは、兄・バティスタだった。


彼は、フェルナンドが幼い頃から、フェルナンドの才能を見抜いていた。

型にはめない、フェルナンドにあった剣の技を教えて、伸ばしてくれた。


バティスタは、フェルナンドは剣を生業にしたらいいと思っていた。


だが、剣で生きていくということは、戦いに身を投じるということ。

常に命の危険がそこにある。

バティスタには、弟をそんな世界に導いてしまったことに対する、深い後悔があった。



この聖国家エルドロットにおいて、主要な戦闘職といえば、2種。

聖騎士か、傭兵。


聖騎士団は国が管轄している。

体系的で、統制がとれた、秩序の組織。

どう考えても命の危険しかない、といった案件には、自軍の兵士を放り込むようなことは絶対にしない。


対して傭兵はどうか。

様々に舞い込んでくる依頼は予測がつかず、危険かどうかすら、最終的には現地に行かないと分からない。

どんな危ない依頼でも授受できてしまう。

当然だが、犠牲になる戦士の数は、聖騎士団より圧倒的に多い。


バティスタは、フェルナンドに勧めた。

傭兵にはなるな。

聖騎士になれ─────。


どうしても、かわいい弟を傭兵にしたくなかったのだ。

剣が向いているのは分かっているが、死の危険からは遠いところにいてほしい。

そんな矛盾したような思い。

聖騎士になるよう促すしか、思いつかなかった。


バティスタが一生懸命考えて勧めてくれた、聖騎士という道。

フェルナンドは一度そこに乗ったものの、ちょっと色々あって、程なくして退役してしまった。

そのことに対して、フェルナンドはもうあまり悲観していないが────

バティスタはやっぱり今でも、フェルナンドに合わない道を勧めて申し訳ないことをした、と思っているようだ。


気にしなくていいのに。



「さて、なーに湿っぽくなってんの?

オレ抜きで二人で感傷に浸ってさー。許さないからね」


アメリアが、元気よく横入りしてくる。


「ほら、フェリィ!

剣、直すんじゃないの?」


そうだ。


フェルナンドは、石化した剣を腰からはずす。

アメリアが差し出した手に、託した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人身御供のフェルナンド~今日の仕事も蘇生前提です~ ポラリス @polaris_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ