会社員とJK

 未成年の隣人JKとあらぬ疑いをかけられた俺は、無事自らの善行の甲斐もあり、今回は不問となった。


 でも七葉なのはとこれからも一緒に居るということは、いつ同じ疑いをかけられてもおかしくはないだろう。


 結果完全になかったことにはならなかったけど、とりあえずは問題にはならなくて、条件を与えられた。


 一つ、軽度のスキンシップ含め、周囲を勘違いさせるような行動を慎むこと。


 二つ、他人にこの関係のことを話さないこと。


 そして最後に、これはこの問題とは全く関係ないが、次のテストで赤点ギリギリセーフの七葉を、平均点を採れるまで勉強させること。


 今回のことを利用して、学校側から上手く条件を足されてしまった。


 これを聞いた時七葉は一番辛そうな表情をしていたな。


 あいつが越してきてから俺の生活は一変した。


 幼馴染のあおいじゅん以外に、家に人が来ることがこれまでなかった。


 七葉もそうだが、会社の後輩の森下もりしたもその一人だ。


 七葉と同じように俺にウザ絡みしてくる。なんだよ、流行ってんのかよ。


 あいつらもしかすると結託して俺をおちょくってる可能性すらある。


 七葉がしてきたウザ絡みを、翌日森下も同じ内容でウザ絡み、なんてこともよくあるし。


 今日、俺がスーツを着ていることにしても、七葉ならいじってきそうだ。


 だって、初めて葵以外の女の部屋に行くんだから、何着ていけばいいかわからないだろう。


 約束の時間が近づき、俺はネクタイを締める。


「っし。行くか」


 行くか。と言っても、行く先は隣。七葉の部屋だ。


 全てが解決して、御礼がしたいと本人から招待を受けた。


 俺が女子高生であるあいつの部屋に入ることはなんだか悪いことをしている気分になってくるが、今日だけだ。それに疚しい気持ちは一切ない。断じて。


 インターホンの前で深呼吸。なんだかんだいっても、これが初めてなんだ、あいつの部屋を訪れるのは。


 ピンポーン。


 鳴った。鳴らした。鳴らしてしまった。


 なんで俺こんなに緊張してんだよ。手汗やばっ。


「はーい」


 中から聞き慣れた女の声がする。あれ? おかしいな、こいつがなんでいるんだ?


 扉が開いて、俺が来るはずだった場所じゃないんじゃないかと思い、もう一度表札を見る。


「間違いない。七葉の部屋だよな」


「何言ってるの、みんな待ってるよ」


 俺を出迎えてくれたのは七葉ではなく、葵だった。


 俺の手を引いてリビングへと連れて行く。明らかに七葉と葵以外にも居ると思われる靴の量、低い声、そして俺と葵を除いてもおそらく三人は居るであろうリビングの活気。


「他に誰かいんのか?」


「見たらわかるよ」


 廊下を抜けてリビングに顔を出すと、見知った顔が一緒にお酒を飲んでいた。七葉はジュースだけど。


「おーっす! 蓮太郎れんたろうおせーぞ!」


「そうですよせんぱーい! もう私達出来上がっちゃってますよ~!」


 顔を真っ赤にして缶ビール片手に純と肩を組む森下。


 森下が七葉と仲が良くなっていたのは知っていたが、まさか知らない間に純とも仲良くなっていたなんて。


「お前ら仲良かったんだな」


「それがね、今日が初対面なの」


 横で呆れながら葵が言った。え、じゃあこいつら今日会ってもうこれ? は?


「先輩の子供の頃の恥じゅかちい話とかいっぱい聞いちゃいました~! あははっ、思い出すだけで笑えるんだけどーっ!」


「ばっか純てめぇなに話しやがった!」


「なんも話してねぇよ! 信じてくれよ友達だろ!?」


 俺が純の胸ぐらを掴んで身体を揺する。


 後で森下も頭を強く殴って何もかも忘れさせよう。


「ちょ、蓮太……オェェェェ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 うん。揺すってごめんね。もうしません。


 純の汚物を処理して、純に汚されたジャケットを七葉に洗ってもらった。


 たしかに揺すったのは俺だが、スーツだぞ? 勘弁してくれ。


 と、ふと周りを見てみると、葵も純も森下も、そして家主である七葉は勿論、みんなが普段着だった。これは困った。


 気付かれないうちに汚れたからとか言い訳つけて着替えに帰った方が良さそうだ。じゃないと……。


「そういえば、なんでお兄さんスーツなの? もしかして、女の子の部屋にお邪魔したことなさ過ぎてなに着ていけばいいかわからなかった? そうなの? そうなんだよね!?」


「…………」


「やっぱそうなんだー! ぷーっ! お兄さんのどうてーい!」


「…………」


 ほらな、こうなる。


 俺も馬鹿だな。わかってただろ、こうなることくらい。どうして何か対策を立てておかなかったのだろう。いや、今からでも適当に嘘をつけば誤魔化すことはできる!


「今日、会社に行ってたんだ。ちょっと大事な書類を忘れてな」


「え、先輩会社行ってたんですか? 休みなのに?」


「……おう。忘れ物があってな」


「無事回収できましたか?」


「……あ、ああ。なんとかな」


 森下はその返事を聴くとなにやら俯いてヒクヒクし始める。こいつ、笑ってるのか?


「先輩、残念でしたね。今日会社は設備点検の為入社不可です! ザマァ! あははははっ!」


「じゃあお兄さん、やっぱり女の子の部屋に入るからってわざわざスーツ着てきたんだ……ぷっ、あはははっ!!」


「あぁもううぜぇ! お前らダブルでいじってくんじゃねーよ!」


「蓮太郎ったらほーんとお茶目さんなんだからぁ!」


 純も結託してトリプルだった。うぜぇ。


「でもさ、お兄さん」


「なんだよ……」


 笑い終えて、笑い過ぎの涙を拭いながら、微笑む七葉。そして、俺に語りかける。


「こうしてまた、揶揄えることが、私本当に幸せだよ。色々あって沢山みんなに迷惑かけちゃったけど、ありがとう。これからも、よろしくね」


 それは七葉が見せた、揶揄い無しの本音。薄く微笑んだ表情が、いつもの七葉とは別人に見えるほど愛らしく映って。


 だから、俺も俺の本音を、恥ずかしがらずに伝えてやるべきだ。


「ああ。俺も、こっちの方が性に合う。それに宜しくすんのは当たり前だ。俺たちは、隣人だろ?」


「…………ぷっ!」


「……?」


「あははははっ! ……隣人だろ? キリッ。あははははっ!」


「てめぇほんとうぜぇな!! 今のタイミングは揶揄うとこじゃねぇだろうが!!」


 これからも、俺たちの関係は続いていきそうだ。


 家族のような幼馴染や、ウザい会社の後輩、そしてうざくて少し可愛い、隣人JKと共に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

会社員とJK、お隣さん歴一年目。 ナナシまる @fumizuki_Usaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ