第11話 機会

 帝国は、この時代、戦争に明け暮れていた。

 周辺諸国に侵攻し、その版図を確実に広げていく。

 血筋にこだわらない魔術士の育成に勝因があったのだろう。


 魔力は遺伝する。


 この時代、それが常識だった。

 だからこその貴族。


 鮮血帝マリウスは、貴族社会に一石を投じたのではないか?

 家柄に囚われない平民の登用に貴族が不満を持ったのは容易に想像できる。


 私の知らない歴史。

 解放記念日に流れる映画の中で、鮮血帝は解放軍に倒される。

 自由のない貴族社会の象徴、それが、私にとっての鮮血帝。


 帝国末期の国内は、敗戦国の犠牲で思いのほか豊かだった。

 孤児院でも食事は贅沢とは言えないが十分な量が食卓に並べられた。


「はいはいはいはい! はーい!」

 隣のステラがやかましい。


「そ、それじゃ、学級委員長はステラ様にやってもらいましょう」

 先生から様付で呼ばれるステラは、さぞかし高い地位の貴族の娘なのだろう。


 だけど、この子は……。


 目を輝かせてステラが私を見ている。

 興奮しているのか鼻息が荒い。

 勝った負けたが好きな子だから、悔しがった方が良いのかなと思い、少し残念そうな表情を作ると、彼女も同じ表情になる。


 前々から思ってたけど、この子……。


「流石、ステラ様、凄いです」

 ふっふーんと彼女はめっちゃ嬉しそうにご機嫌だ。

 あら、やだ、この子たら犬ぽいっ!

 きっと、尻尾があればブンブン振ってる違いない。


「では、副委員長の立候補はいるかしら?」

 先生の声、

「はいはいはいはい、はーい!」

 もう、ステラ、先生が困ってるわよ。

 ぽんっと頭を叩くと両手でそこを抑え、子犬のような目で私を見つめてきた。

 堪らず撫でてやると目を細める。


 それを見ていた先生はポンと手を叩き、

「それじゃ、副委員長はステラさん、お願いね」

 と言った。


 反論する隙を奪ったのはステラだった。

「それじゃ、勝負ね、リズ」

 何の勝負よ、バカ!


 それから、その他の雑事が終わり、校庭に移動する時間になった。

 新学期恒例の校長先生の挨拶があるからだ。


 昨年の12月、後期終業式の悪夢を思い出す。

 雪の降る凍えるような寒さの中、長々とどうでも良い話を、あのハゲ……。


「今年は校長先生の話は短めだから安心して」

 あーあ、この先生、言っちゃったよ。


「そして、今年は何と十二魔導士の一人……」

 十二魔導士、その言葉が私の脳に響く。

 そいつは、私が殺すべき相手だろうか?


 バッと飛び上がるように席を立つと名前を聞き逃したまま校庭へと急いだ。


「おい、まてよ、ブス!」

「私の前を歩くのは許さないわよっ!」

 背中からトムとステラの声が聞こえた。


 どうやって復讐相手を見分けるか、それが、一番の問題だった。

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報復のマリーゴールド 小鉢 @kdhc845

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