第5話 奇妙な安心関係


 天皇陛下が執務室で押印する姿が公開されました。


 お若く見えますが、ご年齢は、まもなく六十のお歳になられます。

 私たちからすれば、人生に一区切りをつけて、第一線から退く頃合いなのですが、天皇陛下は、そのお歳から、第一線に立たれて、お役目をなさるのですから、ご苦労様なことだと思って感謝申し上げているのです。


 でも、あのようなお姿を拝見しまして、安心するのはなぜなのだろうかって、そんなことを思うのです。


 先だって、コアラの国で暮らすGOKUからWhatsAppがあって、私のメガネを壊したことを、GOKUが謝るのです。

 だから、GOKUのおうちに来ていいよって、そう言うのです。


 私がGOKUのところに滞在していて、そして、ふざけていて、私のメガネの耳にかかるアームが広がってしまったのを、私が大げさに言ったものですから、それを気にしているのだと、娘が言葉を足してくれます。

 そんなことを思い出すのには、それなりの理由が、GOKUの中にあるはずです。

 

 言うまでもなく、妹ができて、その妹が歩けるようになり、次第に、GOKUの領域を侵し、周りの大人たちも、自分より、妹の方に関心が移ったことを、彼は感じだしたに違いないのです。

 

 そう言う時に、助け舟となるのは、私と言うわけです。


 何をされても、怒られないし、ちょっと言えば、大抵のものは買ってくれる、疲れたと言えば、抱っこもしてくれる、そんな唯一の味方が、私なのですから、当然です。


 GOKUにとっては、私は、安心そのものの存在なのです。


 しかし、GOKUの身の上には、さまざまな問題がこのところ起こっているようです。

 先だっては、キャシーというガールフレンドからフラれたと言います。

 なんでも、別の男の子の方にばかり、キャシーが行ってしまって、遊んでくれないと言うのです。ところが、キンダーの先生から言わせれば、GOKUもメグという新しく入ってきた女の子と仲良くしているといいますから、どっちもどっちだといいます。


 あのように小さな子でも、男女関係は複雑怪奇なありようであるようです。


 それに、GOKUを悩ませるもう一つの問題も起こっているのです。

 日本語がおかしくなってきている自分にGOKUも気づいているのです。

 形を勉強するおもちゃで、「サンカク」と言う単語が出て来ずに「トライアングル」しか言えないのです。

 そんなことしょっちゅうなのです。

 GOKUは、コアラの国で暮らすことになるのだから、英語ができなくては困るだろうから、それでいいではないかと思うのですが、娘にしてみれば、日本語が喋れないと日本に帰った時に困ると、そんな心配もしているのです。


 GOKUからすれば、日本語を喋ることより、平仮名に片仮名、それに、あの漢字を覚えるのはとてつもなく大変なことです。

 それらを教えてくれる学校がないのですから、それを一人で学ぶのには当然困難が生じてきます。

 反面、アルファベットはAからZまで、まるでアマゾンのように簡単です。

 

 コアラの国に暮らすGOKUにとっては、尽きせぬ問題をなごましてくれるのが、どうやら、今の所は私であると言うわけなのです。


 GOKUと私の安心関係を、天皇陛下のそれと比べるのはいささか問題もあるかと思いますが、私、それでも、それに近いものがあるのではないかって思っているのです。


 私たちが、折々に、神社に行って、祈りを捧げることも、折々に、子供たちと会って食事を楽しんだりすることも、天皇陛下のありようを真似ているのではないかって、もっと言うなら、天皇家のありようを手本に、古来より、わが国に暮らす民びとがそれを真似て、同質のありようを形成してきたのではないかって、そう思っているのです。


 少子高齢化は、今の日本が抱える大問題となっていますが、天皇家においても、それは言えます。

 先だって、ヘンリー王子に男の子が生まれ、その子が7番目の王位継承者になると報道されていましたが、天皇家ではさほどに皇位継承者がいません。


 まさに、天皇家ご自身が、少子高齢化の中にあるとも言えるのです。


 だからと言って、天皇陛下が焦っているとは到底思えません。

 周りがあれこれと騒いでいるだけで、きっと、なるようにしかならないし、百二十六代続く天皇家には、その危機を乗り越える策もあるのだ、そんな自信が見て取れるのです。


 そんな安心感を、私は、あのお姿に見て取れるのです。

 それが、天皇家と国民の安心関係ではないかしらって、そう思っているのです。

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おいらも世界もオイル切れ 中川 弘 @nkgwhiro

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