宣伝効果の発表なのです

 畳みが敷き詰められた広々とした部屋の中央に時田赤子は正座の姿でいた。和装に身を包み、木製の書見台しょけんだいに置かれた書物の頁をはらりと捲る。

 墨筆ぼくひつで書かれた文字を目で追い掛けて、おちょぼ口に微かな笑みを浮かべた。書物と対話をするかのように静かな時間を過ごしていた。

 すっと障子が開いた。小鬼が目を伏せた状態で中央に歩み寄る。赤子の耳元に口を寄せて小声で用件を伝えた。頁を捲る手が途中で止まる。


「この間の宣伝のことなのです。PVとやらが六なのです。赤子の宣伝に六人が引っ掛か、耳を傾けてくれたようなのです」


 赤子は黒目勝ちな瞳を小鬼に向けた。相手は一瞬、身をすくめて頻りに頷いた。少しの手振りを交えて話を続ける。


「ハートとやらは一つなのです。星は三なのですか。まったく酔狂な人間もいたものなのです」


 役目を終えたのか。小鬼は後退り、一礼して部屋から出ていった。

 元の静けさに戻った。赤子はキョロキョロと目を動かすと、すっと立ち上がった。

 緩やかに両手を挙げてゆっくりとした摺り足で円を描くように歩く。夕闇が迫る中で行われる盆踊りを思わせた。左右に手を振り、軽くおかっぱ頭を傾けながら調子付いてゆく。

 再び障子が開いた。先程の小鬼は驚嘆の表情で固まってしまった。

 赤子は両手を振り上げた姿で動きを止めた。ただ、漆黒の目を小鬼に向けている。

 均衡が崩れた。赤子は両手を下ろした。色白の頬をほんのりと紅に染めて滑るように動き出す。

 小鬼は障子を開けたまま、慌てて駆け出した。


「逃がさないのです」


 やや震える声で赤子は速度を上げた。

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翠子さんの日常は何かおかしい(宣伝) 黒羽カラス @fullswing

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