翠子さんの日常は何かおかしい(宣伝)

黒羽カラス

くどいくらいの宣伝なのです

 豪壮な日本家屋が暮色に染まる。庭園に面した障子が小鬼の手によって恭しく開けられた。

 中から一人の少女が音もなく歩み出る。黒々としたおかっぱ頭に相応しい、晴れやかな着物に身を包んでいた。手毬の柄が愛らしさを際立たせる。


「あなたはどこから迷い込んできたのですか。ここは逢魔時おうまがときが永遠に約束された狭間の世界なのです」


 黒目勝ちな瞳で小首を傾げる。物言いたげなおちょぼ口で相手を見下ろす。


「あなたの不安そうな顔で理解したのです。こちらから自己紹介をするのです。時田赤子ときたあかこなのです。

 赤子には姉様ねえさまがいて名を翠子みどりこというのです。異形の者を引き寄せる才能の持ち主なのです。父様ととさまの後継者に目されているのです。

 姉様にその気はないのです。赤子には都合のいい展開なのですが、素直に喜べないのです。実力で父様の跡目を継ぎたいと考えているのです」


 赤子は耳を傾ける仕草をした。軽く頷いて姿勢を正す。


「詳しい説明をしたつもりはないのです。赤子は『翠子さんの日常は何かおかしい』に登場する、愛くるしくて気高い孤高の美少女に過ぎないのです。

 あくまで主役は規格外の化け物、大酒飲みの鉄板胸の翠子姉様なのです。作者が錯乱して主人公の選択を間違えて腹立たしいのですが、天地を引っ繰り返すことは出来ないのです。

 長話のせいであごが怠くなったのです。赤子は役目を果たしたので、これで失礼するのです」


 ほとんど表情を変えず、赤子は踵を返す。直後に顔だけを後ろに向けた。


「帰り方がわからないのですか。簡単なのです。『ブラバ』を実行すればいいのです。赤子が初めて聞いた呪文なのです。作者はやはりアレなのです」


 赤子が部屋に戻ると控えていた小鬼が障子を閉めた。

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