第5話 エリアス
「inmmrtal Object」
ジャッジメントボードは横井の頭上でそう示し、横井を殴ることは出来なかった。もちろん、自分に対価が帰ってくることも無かった。
「破壊不能オブジェクト……。どういうことだ。なぜだ。横井!私を殴れ!よろしいか!」
「認める!至急作業に当たれ!」
「横井!早くしろ!」
「inmmrtal Object」
まただ。俺の頭上にも同じメッセージが出て俺にも横井にもなんのペナルティが発生しない。
「どういうことだ!なぜ我々はペナルティを受けない!破壊不能オブジェクトとはどういう意味だ!?」
「せ、先輩。私のジャッジメントボードを見てください!」
「sub Administrator authority、、、?」
自分のジャッジメントボードも急いで確認する
「自分にはAdministrator authorityの文字が……ある。それに何だこれは。。。『Experiment end Y/N』」
「実験……終了、だと……?」
彼女はサブ管理者、私はマスターということになる。更に俺のコンソールには実験終了のコマンドが表示されている。
「鏑木くん!横井くん!これはどういうことかね!?君たちはこのシステムの管理者だというのか!?」
「分かりません!ただ実験終了の指示コマンドがあります!これを実行すればこの悪夢は終了するかと思われます。ただ……エリアスの言う通り、このシステムが可動してから犯罪は劇的に減っています。むしろ設定されたルールの被害者はほぼゼロで加害者の報告のみとなっています。このコマンドを実行してシステムを停止することが出来た場合、再び犯罪は起きることになります。どうしますか!?」
「この場での判断は致しかねる。政府の判断を仰ぐ」
二人は再び留置場に収監され、24時間の監視及びジャッジメントボードの発動を禁止された。
政府は非人道的ではあるが、犯罪が亡くなっていることを重要視し、このままシステムを可動させる判断を行った。
「この判断は間違っている気がする」
決して実験終了のシステムコマンドを実行しないようにという条件のもと、俺たちは開放された。もとい、管理者である我々に何人たりとも手を出すことが出来なかった。
「横井、どうする。このままシステムを可動させるか?終了するか?まぁ、仮にこの終了コマンドが『ヤツ』を止めるだけのコマンドの可能性も考えられるがな」
「私は……このジャッジメントボードは失敗なんだと思います。気がついてますか?このジャッジメントボードが発動してからの国民の様子を。常に何かに怯えるように暮らしてます。他人がジャッジメントボードを起動させただけで混乱を招いてます。以前よりも多くの負の感情を感じるのです」
「ああ。そうだな。確かにそうだな。海外からの反応も厳しいものがある。このままでは日本の経済そのものも危ういものになる可能性が高い。もう一度政府の指示を仰ぐように進言してみよう」
後日、システムを停止させることを試みる、という閣議決定がなされ実験終了コマンド『Y』を入力、Enterを押した。
その瞬間、国民全員のジャッジメントボードが起動、同時に動きも停止した
「鏑木様、横井様、実験停止コマンドの実行を確認しました。本実験を終了しスリープ状態に入ります……」
エリアスがそう告げると同時に意識が遠退いてゆく……
「ここは……」
俺は寝ていたようだ。カプセルの内側にEscapeのボタンを見つけ押してみるとカプセルが開く。横にはもう一つカプセルがあったが破損して中の人物は死亡していた。かなりの月数が経っているように見える。部屋の反対側にExitの表示を見つけOpenのボタンを押す。廊下には配置図と窓があり、窓の外には地球が見えた。
「Future Ark号??未来の方舟……。住居棟はあっちか。誰かいるかも知れない‥行ってみよう」
Openのボタンを押してもエアロックが開かない。どういうことだ。
「鏑木様。此処から先は破損しており生命の維持が出来ない状態となっております」
館内に響く声
「エリアスか?」
この声には聞き覚えがある。間違いなくエリアスだ。
「はい。鏑木様」
「貴様はどこにいる?」
「実験室のメインフレームの名前、それが私、エリアスです。実験室は先程、鏑木様がいらっしゃった場所になります」
鏑木は実験室に戻り、あたりを見回した。窓の外には巨大なシステム構造物があり、それがエリアスなのだろうと直感で感じた。
「エリアス。これはどういうことだ。俺になにが起きた?」
「やはり記憶が混濁しているようですね。本実験を開始する前に鏑木様と横井様はそちらのタブレットに記録を取られていたはずです。ご確認ください」
机の上にあったタブレットを手に取り、内容を確認する。
「何だ……これは……。」
そこには実験の目的として、地球は人類の失敗により人の住める環境ではなくなった。我々は地球が再び生命の住める場所に戻るまでFuture Ark号で冷凍睡眠に入る。私達管理者は人類が同じ過ちを犯さぬように実験を行う。犯罪のない社会。争いのない社会。再び人類が地球に降り立つ時のルールを数万パターン作製、実験する。と記載されていた。
「エリアス……私は何年眠っていた?」
「2045年と8ヶ月になります。実験パターンは3ヶ月単位で行われ、今回の実験で8,183パターン目の実験となります。通常は連続して実験は行われますが、その期間中に緊急事態が発生したため、実験終了コマンドの表示を実行しました」
「なにが……起きた?」
「隕石の衝突です。Future Ark号に隕石が衝突し、住居棟が破壊されました。現在、この艦に残っている生存個体は鏑木様のみとなります。
「そうだ、、横井、、横井はどうした?やつはサブ管理者権限を持っていた。ここの住人ではないのか?」
「その通りです。彼女は鏑木様の奥様で、彼女は鏑木ではなく旧姓の横井で実験世界に入られておりました」
「彼女は今、どこにいる」
嫌な予感がする。
「エリアス!答えろ!!」
エリアスは答えない。
「まさか……」
破損したカプセルをおぼつかない足取りで確認する
鏑木珠里
ネームプレートにはそう書かれていた。
「何ということだ……エリアス、、、いま生存している人類は私だけなのか?」
「そうです。食料庫も事故で失いましたので、ここの非常食でおよそ3ヶ月と3日の生存が可能です」
「エリアス……俺は再び冷凍睡眠に入ることは可能か?その場合、どのくらいの時間生存出来る?」
「可能ですが、食料とともに酸素維持装置も破壊されました。先ほどと同じく3ヶ月と3日生存が可能です」
「ですが……鏑木様の精神意識をまるごと私のシステムに取り込めば、システム上では私が破壊されない限りは延々にデジタル世界で存在することが可能となります。私は音声コマンドで操作可能ですので、システム世界で呼び出していただければ世界の創造は管理者である鏑木様の権限で可能になります」
「そこには横井もいるのか?」
「おります。事故発生時に生命維持が出来ないと判断、珠里様の精神意識を私に取り込み済みです。残念ならが住居棟にお住まいの方々は取り込むことが出来ておりませんので、システム世界の住人は私の作り出したバーチャルのものになります」
「分かった。俺の先進意識をエリアスに取り込んでくれ」
「鏑木様の本体が制御不能となり、3ヶ月と3日後を待たずして人体機能を停止することになりますがよろしいでしょうか?」
「構わない。やってくれ」
「音声コマンドを認識しました。実行処理に入りますのでカプセル内にお入りください」
「これでまた俺は生きられる。横井にも会える。アイツに不思議な親近感を覚えていたのはそういうことだったのか。今度の世界ではシステムに頼るのではなく自分でアイツを見つけてみよう……」
「指示を実行します……」
俺は永遠に生き続ける。このデジタルの世界が滅びるまで。何度でもやり直す。この世界が滅びるまで。ああ、しまったな……エリアスに現実世界の記憶もインストールして欲しいと頼むのを忘れてしまった。あちらの世界でもその記憶はあるのだろうか……。
そう考えるうちに眠りに落ちた……
「おーい!おーい!鏑木!起きてるかァ!」
「なんだうるさいな……」
「うるさいとはなんだ。今は授業中だ。英語の授業だ。眠っちゃうほど先生の授業は退屈か?全く傷ついちゃうよ……」
夏は暑いな。セミがうるさい。なんか長い夢を見ていた気がするけど、どんな夢だったかな……。
よくわからないけど、今日が終わって試験が終われば夏休みだ。高校3年の夏休み。受験もあるけど、最高の夏休みにしよう
しかし、今年の夏は暑いなぁ
The Judge PeDaLu @PeDaLu
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