第4話 終了の合図

「さて……東京拘置所で遭遇したヤツの捕獲は大前提として。君たちはエリアスについて知っている、とのことだな。どういうことなのかね?説明してもらおうか」


安藤警視総監直々に尋問を受ける鏑木と横井。


「わかりませんよ。エリアスのことは私達も分かりません。信じてください」


「しかし、通り魔犯が君たちはエリアスを知っていると言っていたそうじゃないか」


「エリアスは国民みんなが知っている名前です。ヤツがかけたブラフに違いありません」


「まぁ、なんの確証もないしなぁ。君たちは保護観察化に置かせてもらう。それで良いかな?」


「もちろん構いません」


「相わかった。それでは心苦しいが監察下におかせてもらう」


そう言うと安藤警視総監は部屋を離れていった。



「それにしても参ったな。なぜヤツは我々にエリアスを知っているなんて言ったのか」


「いえ!そんなことより!なんで私が鏑木先輩の奥さんなんですか!いつ私は先輩と結婚したんですか!」


「えぇ……そこなの……それにそんなに嫌がることなの。こうして家に来るような間柄なのに」


「違います!私は鏑木先輩がなにかしないか見張ってるんです!」


数日後、再びヤツに殺された者が出た。拘置所で保護している者達ではない。ジャッジメントボードによるとこの人物も殺人犯だと言うのだ。我々の確認できていない殺人犯ということなのか。

どうせ監察下に置かれるならいっその事、対策本部で寝泊まりすれば良い、という横井の提案に従って今はここで寝泊まりしている。結局、捜査はなんの進展もない。ヤツについても行方は分からないままだ。

そんな時にジャッジメントボードが自動起動した。また新たなルールの追加だろうか。


「こんにちは。皆さん。エリアスです。私の知る限り、日本での犯罪数は劇的に減っているはずです。いかがでしょうか鏑木様、横井様」


周囲がどよめく


「今日は新たにルールをお知らせに来たのではなく、みなさんが『ヤツ』と呼んでいる者についてご説明申し上げます。彼は私が異分子と判断した犯罪者を処分するように作り出した執行者です。私自身の判断でしたがよろしかったでしょうか。余計なことでしたら停止いたしますがいかが致しましょうか?」


「エリアス……なぜ俺たちを指名して聞く?教えてくれ!」


「大変申し訳ございませんが、残念ながらその権限は持ち合わせておりません」


「鏑木様、横井様、ここで終了されるなら『終了の合図』を出してください。本日は以上です」


「待ってくれ!『終了の合図』とはどういうことだ!?なぜ俺たちを指名する!?答えろ!」


その返答はなくエリアスは沈黙してしまった。


「鏑木くん、横井くん。ちょっとお話を聞かせてもらえるかな?」


またしても詳細な取り調べを受けるが、本当に知らない。なぜ俺たちが指名された?俺たちはなにか知っているのか?思い当たる節はない。整理して考えろ。


事件が起きた日、俺は遅刻をした。報告書によると俺が起きる少し前に銀座で初めてジャッジメントボードの出現が確認されている。横井も自分を起こしている以外は本庁にいたとのことだ。

記憶……それ以前の記憶はどこだ。遅刻する以前の記憶があやふやだ。別室にいる横井にあの日以前の記憶があるか聞いて欲しいと要望を出すと同じくあやふやだという。


俺たちはなにかこの事件に関わっている?


俺は自分の職場での経歴や学歴、生まれについても詳しく調べて欲しいと要請した。が、上がってきた情報は何一つ詳しい記憶はない。要所要所の記憶だけが存在し、詳細な記憶がない。

そのことを報告し、横井も同じではないか確認して欲しいと伝えた。


鏑木先輩に言われて気がついたけど、確かにあの日、事件発生以前の記憶があやふやだ。自分の経歴さえ危うい記憶しかない。一体何が起きてるというのか。それになぜ私は鏑木先輩の配偶者なのだろうか。エリアスの作り出した執行者がそう言ったのはどうしてなのか。考えるが思い当たる節はない。


互いに考えるが結論は出ないままで数日が経過した。


そして鏑木は考えた。仮に自分たちが執行者と同一の立場だとしたら、ペナルティを受けることなくルールを破れるのではないか?管理官にそのことを伝え、横井に面会を要請、横井が私を殴るとどうなるのか確認して欲しいと提案した。

手がかかりのない捜査本部はその申し出を了承し、実験を行うこととなった。


「鏑木先輩、本当によろしいんですね?思いっきりひっぱたきますよ?」


「構わん思いっきり……ちょっと待ってくれ。仮にルールが適用された場合、横井にその対価が帰ってくることになる、これで合ってるよな?逆にしたほうが良いな。私が横井をひ殴ろう。我々は無実だ。確実に私に対価が帰ってくる」


「よろしい。変更を認める」


「さて、横井、準備はいいか?」


「はい。思いっきり来てください。鏑木先輩が自分でひっぱたかれるのが楽しみです」


「それじゃ、いくぞぉっ!」

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