第3話 執行者

それからしばらくは降ってきた廃棄物の撤去と交通事故の対処に追われることになった。

廃棄物は簡単に持ち上がり、被害者を収容した後にだるま落とし方式で回収した。

交通ルール違反事故は保険会社が単独事故扱いで保険適用するのかどうかで協議しているようだった。

被害の方はペナルティの重さからか被害者の報告は急激に減っていった。中には職場でタバコの吸い殻や吐き捨てたガム、空き缶等が大量に降り積もって大変なことになったやつもいたらしい。警察官としてあるまじきやつだ。


本件は海外からの報告も上がっていた。対策本部のボードには記録は出ていなかったが、どうやら日本国内で犯したルール違反ペナルティは海外にいても適用されるようだ。

そのニュースが世界を駆け巡ってから日本は渡航レベル2指定(不要不急の渡航はやめてください)となってしまって、観光業界は大打撃だ。


連鎖的に他の犯罪数も減っていった。何らかのペナルティが発生するのを恐れたせいだろう。特に外国人犯罪は目に見えて減っている。


「このまま犯罪がなくなれば良いですねぇ」


「そんな事になったら俺たちの仕事がなくなるな」


「良いことじゃないですか。警察官が暇になるって」


「まぁ、そうなんだけどさ」


対策本部はエリアスなる管理者を追っていたがなんの手がかりも掴めないでいた。

そこへ更なるルールの追加が来た。今度は一つではなく複数のルール追加だ。


「殺人禁止ルール」

・殺人を犯したものおよび、このルール適用後に警告を無視して実行しようとした者は生命をもって対価を支払う


「窃盗禁止ルール」

・過去10年間に金合計10万円以上の罪を犯した者および、このルール適用後に警告を無視して実行しようとした者は犯罪に利用した腕について自由の権利をもって支払う


「暴力禁止のルール」

・過去10年間に暴行の罪を犯したものおよび、このルール適用後に警告を無視して実行しようとした者はその威力を自身の対価によって支払う

・痴漢、強姦についても暴行とみなし、同様にその威力を自身の対価によって支払う

・また、麻薬、覚せい剤についても同様である


今度は3つか。殺人は自身の命がなくなる、窃盗はおそらくは腕の自由が効かなくなる、暴力はそのダメージが自分に帰ってくる、までは分かるが痴漢強姦と覚せい剤はどうなるんだ?覚せい剤は自身が中毒になって死に至るのか?痴漢は自分が触られるのか?いや、そんな生ぬるいものではないだろう。悔しいが手がかりのない今は被害報告を待つ以外に確かめる方法はない。


そのルールが例によって30分後に適用されると同時に捜査本部の大型ボードに次々に表示が更新される。


殺人と窃盗、暴行に覚せい剤は思った通りだ。痴漢強姦に関してはやはり大きなペナルティだった。去勢されたのだ。しかも麻酔もされずにその場で。ショック死したものも出たようだ。女性に関しては……とても報告書に書けないな……。

やはりかなりのハイレベルペナルティだった。死に至るものが多数出た。刑務所に収監されている犯罪者もその対象となった。刑期による軽減もなく一律のペナルティを負っている。


エリアス……貴様は何者なんだ。なぜ犯罪者が誰なのか分かる?なぜこのようなことが出来る?


「鏑木さん!緊急入電です!殺人を犯した通り魔がペナルティを受けることなく逃走したとのことです!」


「なんだと!?他にそのような報告はあるか!」


「現状はこの1件のみです」


「そうか。その容疑者を徹底して追え!絶対に検挙するんだ!くそ、、エリアスめ、、例外を出すのか。これは俺たちへの挑戦なのか……」


通り魔の容疑者はなかなか捕まらなかった。そして殺された被害者は過去に殺人を犯していた者達だった。今までのルール時効10年を遡ってのペナルティをヤツが下していることになる。

過去の殺人犯を張り込めば通り魔犯を検挙できる可能性がある。


「横井!俺たちも出るぞ!過去の殺人、交通事故の加害者も含めて死亡人数の多い順にリスト化して持ってこい!準備ができ次第出る!」


リストは前方不注意で8人の死亡者を出した運転手がまだ生きている。その人物を保護し、ヤツが現れるのを待つ。その他の刑期を終えた殺人犯、交通事故誘引者にも事情を説明して東京拘置所にて保護を行った。


「ヤツは現れるか……。横井、どう思う?」


「そんなの私にはわかりませんよ。鏑木先輩はどう思うんですか?」


「現れる。これは挑戦状だ。きっと現れる」


そして案の定、ヤツは現れた。監獄の中に。悲鳴を聞いて駆けつけると首への一撃で絶命した被害者が横たわっていた。


「くそっ!どうやって檻の中に入ったんだ!他の者についても警護を強化しろ!」


保護対象者に同伴して完全防備で檻の中に入り警護にあたる警備官達。

それをあざ笑うかのように圧死する者が現れた。警護していた警備官は無傷だが保護対象者のみが押しつぶされて死んでいる。この被害者はトラックで乗用車に追突、被害者は圧死している。

どうやら他者を殺した方法で殺害しているようだ。徹底しているな。


「鏑木宣親!こっちだ。私はここだ」


「鏑木先輩!あそこ!!」


拘置所の庭に誰かが立っている。


「貴様は誰だ!なぜ私の名を知っている!」


「簡単なことさ。エリアスに聞いたのさ。さっき処分した者達もエリアスに聞いた」


「なぜエリアスのことを知っている!?エリアスとは誰のことだ!?」


「なぜ君がそんなことを聞く?私はエリアスから指示を受けただけさ」


「私はエリアスが誰なのか知らない!なぜ犯罪から10年を超えた者を殺す!?」


「また奇妙なことを聞く。エリアスについて君は知っているはずだ。それに……殺人禁止ルールは10年間の期限はない。よく確認することだ」


私がエリアスを知っている?どういうことだ。


「それに……そこにいる君の嫁さんもエリアスを知っているはずだよ?おっと、次の仕事に行かなくては。それでは失礼するよ」


そう言ってヤツは消えた。


「俺が……横井がエリアスを知っている?どういうことだ……」

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