第90話 集まって相談

 

大変長らくお待たせいたしました。

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 お店の個室に新たな三人が加わった。見た目が若い女性と四十代くらいの渋い男性、そして、気だるげな雰囲気の定年くらいのおじさんだ。シェリーとスレッドとアマルガムの三人だ。

 アマルガムが席に座りながら気怠げに頬をポリポリと掻く。


「早いって言われてもなぁ。たまたまだ。偶然店前を歩いていてな」


「私たちもなの! デート中だった」


 シェリーがスレッドと仲良く座って、繋いだ手をアピールする。


「呼び出してごめんなさい! お邪魔だったわよね」


「ううん。いいよ、ペーパーちゃん! ある程度街を回って、何しよっかってスレッドと喋ってたところだったから」


「えぇー! 出歯亀したかったわ!」


「もう! ペーパーちゃんったら! ストーカーは犯罪だよ!」


「ごめんなさーい!」


 シェリーとペーパーの女性二人が盛り上がる。それを見ていたスプリングは、誰にも聞こえないようにボソッと呟く。


「カミさんは俺たちの出歯亀をしていた気が…」


 その呟きは女性二人の盛り上がる声に紛れて消えていった。


「それで、これはどういう集まりでしょうか?」


 スレッドが渋い声で問いかけた。トッププレイヤーばかりの集まりだ。ただ喋るために呼んだのではない。

 スプリングが話し出す前に、ペーパーが先に喋り出した。後から入ってきた三人の前に画面を出す。レアアイテムの名前が載ったリストだ。


「こういうことね」


「ふむふむ。なるほどぉ~」


「わかりました」


「ふぅ~ん」


 情報を纏められていた画面を呼んだ三人が顔を上げた。三人とも楽しげに笑っている。

 代表としてアマルガムが再確認する。


「そこの坊主と嬢ちゃんが、取ってきたレアアイテムを使って新装備を作りたいってことでいいのか?」


「はい、そういうことです」


「お願いできますか?」


「俺はいいが。合成だけだしな」


「私も大丈夫」


「私も大丈夫ですよ。お得意様ですし」


 アマルガム、シェリー、スレッドの三人は快く承諾した。スプリングとアストレイアはホッと安堵の息を吐く。

 この三人はそれぞれの分野のトッププレイヤーだ。あらゆるプレイヤーから仕事が舞い込み、とても忙しいのだ。

 了承したのはいいが、アマルガムは画面を人差し指でコンコンと叩く。


「だが、『宝石シルク』やら『ライオネルの毛皮』、『青龍の鱗』、『龍鉱石』なんか手に入るのか? 超絶レアドロップが混ざっているが?」


「二人のことだから、もう持ってるんじゃない? ライオネルと戦ったって話が出回ってたし」


「スプリングくんとアストレイアさんならあり得ますね。この港町に来る前に『宝石シルク』は手に入りますし。頑張れば、ですが」


「私の予想を遙かに超えてたわよ、この二人は。三人に見せてあげて」


 アストレイアが操作をして、アイテム名とその数を三人に見せる。その画面を見た三人は、驚きよりも呆れの感情が大きかった。全部材料はそろい、その中でも、超絶レアドロップと言われる『宝石シルク』は大量に手に入れている。呆れるのも無理はない。


「何だこの出鱈目な数は・・・。お前らはアホか? 市場が大混乱になるぞ」


「いやいや! 流石にわかってますよ、それくらい。ゆっくりと売るつもりでしたし、こうやってカミさんに相談しに来たんですから」


「どれだけ時間がかかったんだ? 恋人と仲良くイチャついていれば・・・おいおい、まさか」


 アマルガムがとある答えにたどり着く。

 超絶レアドロップをこんなにも大量に手に入れる方法はいくつかある。時間をかけるか、不正なバグを使用するか、もしくは、攻略法を見つけたか、だ。

 話を聞いていたシェリーとスレッドもハッとする。三人がスプリングとアストレイアに注目するが、答えたのはペーパーだった。


「そのとーり! 二人はなんと『宝石シルク』を手に入れる方法を見つけてしまったのよ~! どやぁ~!」


 何でカミさんがドヤ顔してるんですか、とスプリングは心の中で呟く。心の中なのは、声に出しても無駄だからだ。ペーパーはこういう性格である。


「やっぱりね・・・」


「そうだと思いました」


「いくつ新たな攻略情報を見つければ気が済むんだ?」


「それほど見つけてないと思うんですけど。なあレイア?」


「そうですよ! 私たちは普通にプレイしているだけです!」


 どこが普通なんだ、とスプリングとアストレイア以外の四人は思うが、大人として口には出さない。ニッコリと微笑むだけ。

 はぁ、と呆れ顔のアマルガムが、手を差し出してクイックイッと要求する。


「アイテムを見せてみろ。合成ならこの場でも出来る」


「あっ、お願いします。渡しますね」


「おーう・・・って、なんだこりゃ! 俺のスキルレベルでも成功率が一割だと!? どんなレアリティだ」


「アマルガムさんで一割なら、私もそう簡単に装備を作れそうにないですね」


 ふ~む、とスレッドも悩む。どうやら、スプリングたちが入手したアイテムは、トッププレイヤーの彼らでさえ使用が難しいものだったらしい。


「坊主に嬢ちゃん。スマンが少し時間をくれ。スキルの熟練度をあげてくる」


「私も頑張りましょう」


「じゃあ、スプリングくんにアストレイアちゃん。服のデザインを決めよっか。デザインはスレッドじゃなくて私の役目だから」


「シェリーさんお願いします! 先輩を悩殺できるデザインで!」


「私も混ぜなさ~い! 可憐で可愛くて綺麗で色気漂うデザインがいいわね」


 女性陣が盛り上がって、あーでもないこーでもない、と意見を出し合って、新たな装備のデザインを決めていく。目の前のことに夢中で、もう既に男性陣のことなんか忘れ去っていた。

 残された男性陣は、ははっと悟った笑い声を漏らし、カンッと乾杯するのであった。

 哀愁漂う小さな乾杯の音は、女性陣の盛り上がる声に飲まれてあっさりと消えた。

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