第3話 勇者の少女
……今日は異常な一日だと少年は痛感した。
だってそうだろう? 自分の小学校に授業中に変な世界が発生した挙げ句巻き込まれ、皆と散り散りなんて人生でそうそう経験できるものじゃない。
「あらあら~。中々良い育ち具合ですね~」
……それに加えて。極彩色の奇妙なオブジェクトに腰掛け読書をしている美少女が居るという、とんでもない一日だ。
「あのぅ……お姉さん誰?」
少年は恐る恐る問いかける。何故なら、こんな所にいる少女がまともな人間には見えないのだから。
「あら~。貴方まだ『こんな所』にいたの~?」
読んでいた絵本――『わたしのいもうと』を閉じて顔を上げて、少女はやんわりと間延びしたまるで粉砂糖をまぶしたような甘い口調で少年に喋りかけた。
綺麗な少女だ。肩口まで伸びた紺色の髪に音一つ無い静かな夜のような美貌。咥えた棒キャンディーに丈の短いプリーツスカートとちょっと臍出し気味の黒衣――それから右手の甲に『翼ある太陽』の紋章のアザが刻まれた、魅力的な少女である。
「早くあちらにいきなさいな~。貴方のお友達みんな、そっちにいるわよ~」
頬杖をついて退屈そうに、人差し指で先を示す彼女。彼女の指差す先は極彩色の闇。キャンバスに様々な絵の具をぶちまけて、その上から黒で覆い隠したような、汚い黒色。
そんな先を、彼女は指差し、躊躇いなく行けと言っている。
「いや……無理だよお姉さん……」
ふるふると、涙を浮かべてかぶりを振る少年。彼の気持ちは良く判る。幾らなんでも心細いという次元の話ではない。
「なるほど~。まぁ~それもそうね~。
いいわよ~。私が送っていってあげるわ~」
彼女はそう返すと、脚を揺らして勢いをつけて。
「私は冬月ルナだよ~」
音も無く、しなやかに着地した。春のお花畑で濃い目のカルピスでも飲んでるような気分になれる口調と本人のマイペースさも含めて猫みたいだった。
「まぁしばらくの間しかいないから、憶えてくれなくて結構よ~。
ほら、早く行くよ~」
冬月ルナは少年を待たずに先を進む。
「あ、ま、待ってよー」
少年も慌てて駆けていった。
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