第6話 最後に残った者
辺り一面を抽象画のように滞空していた銀糸達が明確な意志を持ち、彼女の気持ちに従い少年や生き残り達に纏わりついて神経を支配してゆく。
「ぎゃあああああっっ!!」
神経を全て奪われる激痛に泣き叫ぶ少年や生き残り達。
「よ~しよし。お人形さんゲットだよ~」
相変わらずの脱力口調で銀糸を手繰る冬月ルナ。何十何百の銀糸達は彼らの毛穴から体内に入り込み神経から身体の自由を根こそぎ奪う。
「そんじゃ次は突撃だぁ♪ がんばれ、がんばれぇ♪」
ルナはにこにこ笑って手元の銀糸達を操る。その銀糸の震えに反応して数人の生き残りと少年が拳を振り上げ魔獣に突進してゆく。
「た……助けて……!」
「いやだぁ……!」
各所から悲痛な声が洩れるも、
「うちの弟はなんにも言えないし抵抗も出来なかったよ~♪ だから君たちが言えた義理じゃないよ~♪」
ルナはけらけらと笑うだけ。
「ほ~ら、ほ~ら♪
気づいた魔獣の噛みつきを、すんでのところで回避させる冬月ルナ。空中高く放り投げたりいきなり左右に振り回したりする、人体が砕けるような急回避だが彼女は安否などまるでお構い無し。
「あらぁ? 一体壊れちゃったよぉ~?」
雑に、乱暴に、扱い。壊れて動けなくなった者から先に。結界の外へと投げ出していく。
「とうとう君だけだぁ~♪」
……そして遂に、少年だけになる。
「よぉ~し。いけぇ~」
投げやりな掛け声で、無理やり魔獣と対峙させられる少年。
「も……もういやだよぉ……」
涙まみれの頬を弱々しく振って、少年は拒絶しようとする。
「じゃあ糸ちぎって逃げなよ~♪ まぁ『助けて』って言われた時点で殺す気は絶無なんだけどね~♪」
銀糸を手繰り少年を動かして。冬月ルナは少年を餌に、まるで釣りでも楽しむかのように魔獣を左右に弄ぶ。
「……さて。そろそろ良い塩梅に壊れたかな?」
少年を引き揚げて。ルナは顔を覗きこむ。そこにはあの時怒鳴りつけた態度は見る影も無くなっていた。
「……よし。良い感じね。
そんじゃバイバイ。達者でね」
冬月ルナは少年を、結界の外に投げ飛ばした。
「あいつら生き残っているかな~? いるよね~。ちゃんと生きてるようにしといたし。
――さて? 最後はお前だぁ」
ひとしきり呟いてから。彼女は唸り声を上げる魔獣と対峙する。
「あの時は倒しきれなかったが……今度は違うよ~……せっかく予定通りに状況を転ばせたし、お前相手に負ける訳にはいかないよ~」
銀糸が不規則な螺旋を描いて虚空に舞い上がる。一部は波のような波紋を描き、結界内に広がってゆく。
グルルルルッッ……と頭を低くして唸る魔獣。
「祈りな~、そのくらいの時間ならあげるから~。お前や私も、生まれて来た事を悔いて、そして死ね」
冬月ルナは。銀糸と己に命令した。
一歩も引くな。奴を殺せと。
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