第51話 最後のまほう
朔夜の思いはただ一つだ。
枝里子を死なせたくない。
でも。
忘れられるなんて、いやだ。
「ぼくは……」
ひゅん。
氷のつぶてが枝里子だったものへと投げつけられる。
ローブをまとった集団があらわれていた。
「目に余る。魔法政府、巨大カヘンを滅っしに参った」
「黙れ外野」
サハラが雷を放つ。
小型の携帯電話が手にあった。
「支援は遅いし水を差す。防御魔法の増強に徹していろ!」
怯んだ一瞬で、腹は決まった。
「サンゴさん!僕は、背負うことを選びます!」
人は完璧ではないから。すべてを消しさっても、きっとまた、悩むから。
なら、ともに生きよう。笑って、泣いて、また歩こう。
「わかりました!呪文、流します。サハラさん、魔力の援護を!」
「了解。シオン、備えを!」
堂々巡りの苦しみから、抜け出せないなら頼ればいい。
助けてって言えない優しいあなたは、一人黙って死ななくていい。
「アルハット……アラハント。悟りを得たもの輪廻を抜けよ。
ラカン・ラカン、ラカン・ラカン。化生となりぬは誰がため。
カカカカカ、カカカカカ。某は何者にもなれる者。
可変を得て真理を開け。
扉を開いて変化せよ。
エリー・サンジ・ツキカゲ
アス・サンガ・アス
ジーヴァン、ムクティ
アラカン」
――――。
――――――。
――――――――――。
「枝里子、起きて。あの二人がこっそりでようとしてる」
「ほんとに!?ありがと、朔夜」
二人は古城の部屋を出て、隣の隣、枝里子の隣のシオンらの部屋へ向かう。
「開けるよ!」
鍵はかかっていなかった。
そこには、二人の魔法使いの姿があった。
「お、おはよう二人とも。あ、エリー。部屋に仕込んでた魔法は全部消したから、心配すんな」
「そんなのはいい、シオンは」
「よくはないだろ。こっちも終わった。いつでも出立できる」
「……ほんとにもう、いっちゃうの」
「そりゃあな。魔法が使えなくなった相棒たちに用はない」
「っていうのはサハラの建前だ。まあ、理由の一つであることは間違いじゃないけれど、エリーやサクヤの体調も安定したから、俺たちの見守りはもう必要がない」
「…………」
「本当ならここで記憶はなくすはずなんですが、いかんせん、二人の中には沈静化したとはいえカヘンが眠っています。だから、記憶はもったまま、二人はこのまま暮らしてください。くれぐれも、私たちと、また会うことのないように」
「……迷惑かけて、ごめんなさい」
「いや、エリー、こっちこそ、気づけなくて悪かった」
シオンがうなだれる。
「ううん。……ありがとう」
「別れは済んだか?そろそろ出立する」
「ユイ!」
朔夜が呼び止めるものの、サハラは決して振り向かない。
「ユイのおかげで僕は変わることができた。本当に、ありがとう!」
「……マノ」
「ん?」
「感謝されるって最高の報酬だな」
「本人に直接言えよ」
「…………」
魔法陣が発動する。
別れの合図だ。
「私は二人に救われた!これからの道行きに幸あれ!」
二つのリングが投げ出される。
そして、魔法使いの姿は消えた。
後には、もう魔法が使えなくなった二人が残された。
30歳、魔法少女はじめました。 香枝ゆき @yukan-yuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます