第50話 何かをするため何かを捨てて

「――どういうことだ、サンゴ・エイ」

「他の魔法があるということです。そもそも私がここにぶちこまれている理由、あなたなら知ってるでしょう」

「俺は知らねえぞ」

蚊帳の外となったシオンは声を荒げる。

「知るはずがないし知ってたら消されるから。重要機密だし」

サンゴはシオンにだけ気を許した言葉遣いをする。

無言で促され、サハラは口を開いた。

「サンゴ・エイには双子の兄弟がいた」

?」

「もう故人だ。名前はアイ・エイ。今ではタブー視扱いでその名前も抹殺されているが、エイの一族は魔法世界でも特別だった。彼ら自身は主だった魔法を使えない。魔法を記録する。そんな魔法を先祖代々受け継いできた」

「意味が、解らねえよ。魔法を受け継いでいくのは、魔法世界では、当たり前のことだろ?大体、俺たちはサンゴのサポートを受けてやってきたんだ」

ふふ、とサンゴの笑い声が響く。

「お褒めにあずかり光栄だよ、シオン。でも、ユイさんの言ってることは間違ってない」

「じゃあおまえの魔法は」

「私の行使する魔法道具の位置づけに近い。ただ、もっと上等なんだ」

「わかりにくいかな。受け継げる魔法は一つじゃないんだよ。……そうだな、ゲームに例えようか。RPG。例えば、たくさんの魔法が種類としてはある。だけど、キャラクターによって使える魔法が決まっている。どうしても覚えられないものがあるって感じ。ゲームバランスを保つためにね」

「そして、エイの一族は、現実の魔法世界の秩序を揺るがす存在だった。彼らは見聞きした魔法を記録する。なにかの物体に、魔法道具として。書き残して魔導書として。あるいは、掛けあわせて新たな魔法として。もしくは自分自身に」

「魔法道具って、エイの一族が作ったともいわれるんだって。まあそうだよね。初代は使える魔法がないから、見稽古、聞き稽古みたいな感じで他者の魔法を憶えるしかなかったんだから」

「それがどうして、こんなことになってるんだ。バランスを崩すからぶちこまれたっていうのかよ」

「いや、エイの一族は常に清廉潔白であり続けた。そして、サンゴ・エイは魔法を唱えられないために、魔法道具の研究や大魔法図書館の司書として、アイ・エイは魔法を唱えることができたために、魔法少女の相棒として長く働いていた」

「……な……」

「ある日、アイ・エイがついていた魔法少女が死んだ。そこでアイ・エイは壊れた。アイ・エイが造り上げたのか、もともとあったなにかが取り憑いて融合したのかはわからない。事実として、アイ・エイは消滅し、カヘンがばらまかれた。それだけだ。だが、エリーがあれだけの魔法を使っているのは、カヘンがアイ・エイの一部に他ならないんだろう」

「……」

「アイ・エイがカヘンをつくった。そして、ばらまいた。魔法政府はそう判断した。

だから時間の概念が曖昧な場所に幽閉されて、閉じ込められている。カヘンを回収し、なくすために」

サハラの声はどこまでも無機質だ。

「そんな、ことって……だっておまえは!サンゴは!なにも」

「うん、なにもしてない。だけど、そのままにはしておけないから」

「…………話を戻そうか。他にどんな方法があるというんだ」

「別の呪文がある。ぼくも最近発見した。カヘンを長期的に中和させて、問題ない性質に戻す方法」

「そんなことは早く言えよ!今まで悩む必要なかったろうが――」

「ただし、エリーさんのカヘンは規模が大きすぎる。二人の回収キャパは大きく越える。溢れた分は、誰かが引き受けなきゃいけない」

「そりゃ、誰だって大丈夫だし、なんならみんなで」

「引き受けられるのは一人だけなんだ」

「――――――」

「そして、エリーさんが再びカヘンに取り込まれるようなことがあれば、エリーさんも、引き受けた側も、両方とも、死ぬ」

「そんな、こと」

「悪いけど、荒っぽくても確実性をとって記憶を消して無理やり滅するか、爆弾抱えながら穏やかに中和させる博打をするか、どっちかしかないんだ」

「そんな……」

「だから、選んで。サクヤくん。君にこそ選ぶ権利がある」

「……ぼくは」

「………………防御魔法も、もうあまりもたない。じっくり考える時間がとれたらよかったんだけど、選んで。君がエリーさんをどうするか、決めて」

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