第9話 消えない感覚
いつも嫌になる。
完璧な愛情表現なのに。
芸術に近しいものを作っているのに。
貴方が恐ろしいと歪(ゆが)む顔。
懇願する顔。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔。
切り裂いた時の痛烈な表情。声。汗。涙。鼻水。
そして血。
生臭い匂いが部屋に充満する。
これは好きだ。
でも。
切り裂く時の感覚。
皮膚を裂き。肉を断ち、骨まで達する。
この時の。この時の刃が骨をかすめる、骨を削る感覚がいつまでも掌(てのひら)に残って!!
そう。まるで。
骨付きの鶏肉をナイフとフォークで食べているとき、フォークで誤って骨を切っているような不快な感覚。
石鹸が爪と指の間に入るような不快な感覚。
チョークが爪と指の間に入る感覚。
自分で黒板やガラス板をぎいーぎいーと、背中に寒気が走り、鳥肌が立つほど爪や指で音を立てるような感覚。
吐き気がする。
皮膚を裂くことも、肉を切ることも、血管をぶつりと無理やり断つことも。苦にはならない。顔や服、至る所に生暖かいものが飛び散ることだっていやじゃない。
痛みや恐怖に耐えられずに吐瀉(としゃ)してしまったその匂いも、その処理も嫌じゃない。
なのに!
あの感覚は!
あの感覚だけが!
ずっと、ずっと嫌な感じに残っているんだ!!!
ごりごりと骨を削るあの感覚が!
刃先から持ち手、手へと伝わる。そして脳髄まで手響いて、まるで頭蓋骨をも震わせるようなあの感覚!
吐き気がする。
まるで拒絶されているみたいだ。
世界のすべてに。
まるで否定されているみたいだ。
自分という存在が。
だから欲しい。見つけたい。
自分だけの最高の理解者を。
そしたらきっとこの感覚はきれいさっぱり消えるはずなんだ。
いや。
消えるんだ。
ああ。
ところで、ずっと見つめている君。
そう、
こっそりと、もしくは堂々と。
それとも恐る恐るかい?
いや、わくわくしながらかな?
まあ。なんでもいい。
とにかくずっと熱い視線で見つめてきているのに気づいていたよ。
気になるんだろ?
だからずっと見つめてくれていたんだよね?
見つめられるのも、覗かれるのも趣味じゃないけれど。
君にならいいよ。
だって最高に興奮したんだもの。
こんなこと初めてだよ!
もしかして君は人生で二番目の運命の人なのかな!!!
そうか。
いや、そうだ!!そうに決まっている!!
君は最高の理解者になってくれるかい?
いや、君こそが最高の理解者だ!!
絶対にそうに決まっている。
今までもそう思って思いをぶつけていたけれど、君は段違い!!
だから、こっちに。
さあ、早くこっちに。
何をしているの?
恥ずかしがらないで。こっちに。
ね、早く。
なに?
心配しないで。大丈夫。今までで一番の愛を君に。
だから今までの“モノ”に嫉妬しないで。
ね?
こっちに来て。
早く隣に。
愛しているよ。
君は今までで一番の…
いや。
最高の理解者だ。
最高の理解者 氏姫漆莵 @Shiki-Nanato
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