レッツ、爆裂クイズ!

snowdrop

爆裂爆裂♪

「当てろ、エクスプロージョンクイズ~」


 進行役の気合のこもった声が教室内に響き渡る。

 横並びの席に座る三人は、「おっ」と声を上げつつ軽く拍手した。

 いつものように机上には、早押し機が三台、用意されていた。


「本日は、みなさんご存知の『このすば』に登場するめぐみんの攻撃魔法に関するクイズを、出題していきたいと思います。全部で五問用意いたしましたので、わかった人から早押しで答えてください。一問正解すれば一エクスプロージョン、正解数が多い人が勝利となります。誤答しても減点はありませんので、どんどん押してください」


「エクスプロージョンって、単位がやばくない? 爆発だよ爆発」

 会計が笑いをこらえきれず、手で口を押さえた。

 そんな笑いのツボにはまった会計をよそに、

「あー、『このすば』ね。よく知ってるよ」

 部長が涼し気に答える。

「新潟県魚沼地方発祥の、つなぎに布海苔を使い、杉や檜の接ぎ板で作った器に盛り付けた切り蕎麦のことですね」


「それは、へぎそば。『ば』しか合ってないじゃないですか」

 進行役の言葉に「違ったか」と笑いつつ、部長は口を閉じた。


「このすばと言ったら、ラノベですよね」

 書紀は嬉しそうな顔をした。

「二〇一六年、二〇一七年にアニメ化された作品、『この素晴らしい世界に祝福を!』の略称が『このすば』です。原作は暁なつめ先生、イラストは三嶋くろね先生が書いていらっしゃいまして、角川スニーカー文庫発行のライトノベルで、シリーズ累計発行部数は六百五十万部を超えるヒット作品を、皆さんご存じない? しかもですよ、二〇一九年夏、映画『この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』が公開されるのを、まさかご存じないのですか?」


 知らないなあ、と首をかしげる部長は、会計に目を向ける。

「僕はラノベは読んだことはないけど、アニメはちょっと見たことがあります。牧歌的なエンディングが、昔放送されていた市原悦子さんと常田富士男さんが何役もの声を使いわけて語っていた『まんが日本昔ばなし』のエンディングを彷彿させるような、そんな印象だったのは覚えてる。最近流行りの、異世界転生した主人公が可愛い女の子たちと中世ヨーロッパみたいな舞台でRPGみたいな冒険する話ですね」

 会計の話を聞きながらうなずき、

「めぐみんというのは、ヒロインの一人なの?」

 部長が問いかける。


「そうそう。三人いるうちの一人で、黒い髪に赤い瞳を持ち、黒マントに黒ローブにとんがり帽子といった、いかにも魔法使いっぽい服装で、視力が悪くないにも関わらずファッションとして左目に眼帯を着けている女の子」


 会計が答えると、書紀が口を出した。


「めぐみんは、主人公カズマたちのパーティに加わっている紅魔族という、中二病だらけの部族のアークウィザードです。おまけに、めぐみんというのはニックネームではなく本名です」


「本名かいっ」

 おもわず部長はツッコミを入れた。


「ちなみに母親の名前はゆいゆい。父親の名前はひょいざぶろー。ペットの黒猫の名前はちょむすけ、といいます」

「ひどい名前だ。キラキラネームだらけの部族という設定なんだろうけど、どうかしてる」


 そうなんですよ、と笑いそうな顔で頷いて書紀は更に続ける。

「頭がおかしい紅魔族とも呼ばれていて、彼女の特徴といえば最強の攻撃魔法である爆裂魔法の『エクスプロージョン』しか使えないことです。しかも一日に一発だけ。使うたびに魔力だけでなく体力を失ってしまう欠点もあるんですよ」

「へえ、一撃必殺の最終兵器的なキャラなんだ」


 笑みを浮かべる三人に、進行役が話しかける。


「書紀から、めぐみんの説明がありましたので、クイズの内容を説明したいと思います。中二病的な性格をもっているめぐみんは爆裂魔法の詠唱も中二病的で、毎回詠唱内容が異なっています。そんな爆裂魔法に関する問題を出していきますので答えてください」


「さすがに見てない俺が答えられるわけがなかろう」

 笑いながら部長は語気を強める。


「僕も無理な気がする」

 会計は軽く上げた右手を振った。

 みてた僕も無理、と書紀も追随した。


「みなさんがそういうと思いましたので、難しいと思った問題には選択肢を用意してあります」


 それならば、と三人は早押し機を手に持ち、ボタンに指を乗せた。


「問題。『黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ! 踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ! これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法、エクスプロージョン!』を唱えたのは何期の何話でしょうか。A:一期一話。B:一期二話。C:一期三話」


 選択肢が出たところで書紀が早押しボタンを押した。

「Bの、一期二話」

「正解です」


 ピポピポーンと気持ちのいい正解音が鳴った。


「覚えてましたか?」

 進行役の問いかけに、いやいや、と書紀は笑顔で首をかしげる。

「覚えてはいないけど、クイズの傾向と対策から、一問目から難しいのは出ないと思っていたので、アクアに次いで、めぐみんの登場は二話からだったのを思い出し、Bだと思いました」


 ふうん、と部長は頷きながら聞いていた。

「そういえば、ヒロインが三人いるって言ってたよね。他には誰がいるの?」

 部長と問いかけに、会計は口を開く。

「頭のおかしい爆裂娘のめぐみんの他には、アクシズ教の御神体にして水を司る自称・女神で宴会芸担当、アークプリーストのアクアと、超弩級の不器用から攻撃を全く当てられないが鉄壁の守りでどんな強敵も恐れない真性マゾ、クルセイダーのダクネスがいます」

「度し難いほどポンコツばかりじゃないか。おそらく、互いの短所をそれぞれの長所で補っているのだろう。とにかく次は当てるぞ」

 よしっ、と部長は声を上げて気合を入れた。


「問題。『光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ! エクスプロージョン!』を唱えてめぐみんが倒したモンスターで、ラテン語の『頭』に由来している、ビタミンCとビタミンUを豊富に含んでいる」


 問題文の途中で、書紀が早押しボタンを押した。

「キャベツ」

「正解です」


 ピポピポピポーンと甲高い正解音が鳴った。


「問題文の続きを読みます。『ラテン語の『頭』に由来している、ビタミンCとビタミンUを豊富に含んでいるアブラナ科アブラナ属の多年草は何か?』答えはキャベツでした」

「そういえばあった」

 会計が手を叩いて笑った。

 部長は腕組みをして首をひねる。

「キャベツがモンスター?」

 そうなんですよ、と書紀が嬉しそうな顔をした。

「このすばの世界では、新鮮な野菜は動き回ることがありまして、キャベツの場合は跳びはねたり葉で空を飛んだりするんですよ。旬の季節になると畑を離れ、無数の群れを作って各地を移動するので、冒険者たちはそれらをつかまえて収穫するわけです」

「へえ、キャラだけでなく世界も変わってるんだね。次は当てるぞ」


 笑みが消えた三人は、早押しボタンに指をかけた。


「問題。一期の見せ場である、暴走する古代兵器・機動要塞デストロイヤーと戦った時、本来一日に一度しか使えないめぐみんのエクスプロージョンですが、アクアの魔力回復を受けて二度目のエクスプロージョンを使いました。さて、二度目につかったときの詠唱は次の打ちどれでしょうか。答えるときは大声で詠唱してください。

A:『我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者。我が力、見るがいい! エクスプロージョン!』

B:『光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。他はともかく、爆裂魔法のことに関しては私は誰にも負けたくないのです! 行きます! 我が究極の破壊魔法、エクスプロージョン!』

C:『黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が真紅の金光を望みたもう。覚醒の時来たれり無謬の境界に堕ちし理、無暁の歪みと成りて現出せよ。エクスプロージョン!』」


 真っ先に早押しボタンを押したのは部長だった。

「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。他はともかく、爆裂魔法のことに関しては私は誰にも負けたくないのです! 行きます! 我が究極の破壊魔法、エクスプロージョン!」

 右手を突き出し、唸るような声を上げて、部長は答えた。

「正解です」


 ピポピポピポーンと甲高い正解音が鳴った。

 書紀と会計は、微笑みながら手を叩いた。


「よく当てましたね」

 進行役の言葉に部長は、クイズプレイヤーですから、と自慢げに親指を立ててみせる。

「クイズ作成者の視点になって考えてみただけですね。三択問題を造ったとき、一番に答えを置きたがらないものです。なので、はじめからBとCのどちらかだと決めてました。それに選択肢があるときは、一つだけ浮いている選択肢を選ぶのが定石。一見すると、Cを選びそうになりますが、Bの詠唱には『私は誰にも負けたくないのです』と、めぐみんの気持ちが込められていましたので、Cを選びました」


「それにしても、よく覚えれましたね」

 会計が感心して部長を褒める。

「どの詠唱も、一度聞いただけでは復唱できそうになかった」


 部長が微笑んでうなずく。

「実を言うと、Aが一番覚えやすかったけど、はじめからAはないと決めてたので、Bを聞きながら、外れてもいいからこれを覚えようと決めて、必死になって聞いて覚えただけなんだ」


 まぐれとはいえ、正解は正解。

 気を取り直して、三人は早押しボタンに指を乗せた。


「問題。二期五話の詠唱シーンの『空蝉に忍び寄る叛逆の摩天楼。我が前に訪れた静寂なる神雷。時は来た! 今、眠りから目覚め、我が狂気を以て現界せよ! 穿て! エクスプロージョン!』は、台本には呪文とだけ記載されていたため、めぐみん役の声優である高橋李依さんのアドリブで唱えられました。では、『叛逆の摩天楼』とは何のことでしょうか? A:メイズ B:ラビリンス C:ダンジョン」


 早押しに競り勝ったのは、会計だった。

「Cのダンジョン」

「正解です」


 ピポピポピポーンと正解音が鳴り響く。

 書紀と部長は、微笑みながら手を叩いた。

 

「よくわかりましたね」

「見てましたから」

 進行役に、会計は得意げな顔で答える。

「摩天楼は天を摩するほどの高楼のことで、その叛逆ということで、ダンジョンです」

 そうなんだ、と書紀と部長は感心した。


「つぎが最終問題です」

 進行役の言葉に、三人は早押しの用意をする。

「問題。二期の見せ場でもある魔王幹部ハンスとの戦いで、『爆走……爆走……爆走……最高最強にして最大の魔法、爆裂魔法の使い手、我が名はめぐみん。我に許されし一撃は同胞の愛にも似た盲目を奏で、塑性を脆性へと葬り去る。強き鼓動を享受する! 哀れな獣よ、紅き黒炎と同調し、血潮となりて償いたまえ! 穿て! エクスプロージョン!』と詠唱して爆裂魔法を放ちました。そんなめぐみんの代名詞ともいえる爆裂魔法ですが、彼女に教えた師匠がいますがだれでしょうか。A:ウォルバク B:ゆいゆい C:ウィズ」


 三者一斉に早押しボタンを押した。

 押し勝ったのは、会計だった。

「Aのウォルバク」

「正解です」


 ピポピポピポーンと正解音が鳴るな中、書紀と部長は疲れたようにうなだれた。


「というわけで、今回のクイズの勝者は、三エクスプロージョンを獲得した会計です。おめでとうございます」

 進行役から告げられ、会計は両腕を天井へと突き上げた。

「祝杯にはシュワシュワが飲みたいですね、無理ですけど」

「ジュースのシュワシュワで我慢してください。ところで会計はご存知でしたか?」

「偶然にも、このすばの小説を全巻持っています。めぐみんが幼い頃、賢者レベルの大人でも解けない邪神ウォルバクの封印をおもちゃ代わりにして解いてしまい、このとき何故か女神と魔獣に分離し、魔獣がめぐみんを襲おうとするところ、ウォルバクが爆裂魔法をつかってめぐみんの危機を救ったのです。その後、めぐみんからせがまれ、ウォルバクは爆裂魔法をめぐみんに伝授したというわけです。いわば師匠みたいなものなので、めぐみんの髪型もウォルバクに似ているわけです」


「そうだったんだ」

 書紀は感心しながら手を叩く。


 頷きながら拍手していた部長は、おもむろに口開く。

「つまり幼少期には、その後の人生を決定づける出来事があるということですね。そんな出会いを忘れなかった人は、その道を極められるのかもしれないということを、『このすば』という作品に登場するめぐみんは、読者や視聴者に伝えようとしているのかもしれません。見たことないから知らんけど」

「知らんのかい!」

 部長は会計と書紀に笑いながらツッコまれた。

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