朽ちる我らと歌でもどう?

naka-motoo

埋もれて終わってしまう寂しさに耐え切れないよ

・・・苦悩する人に手を直接差し伸べることができないから。だからわたしは小説を書く・・・


 あーあ。


 どうしてこんなことになったんだろ。


 特に悪いことしてしてきたつもりはないんだけどなあ。


 日曜の夕方になると寂しさで溢れかえるよ。心が。

 彼女がいたらまだ寂しくならないのかな。

 でも、もし日曜の夕方に会うことができなかったら。

 じゃあ、LINEで言葉を交わせば紛れるのかな。


『明日からまた仕事だね』

『うん。やだね』


 でも、LINEが既読にならなくて、段々と寝る時間が近づいてきてさ。


 結局話せずじまいだったら、余計に辛さが募るような気もするな。


「ねえ、キミ」

「は、はい?」

「大丈夫? 目元が辛そうだけど」

「え? え、ええ。大丈夫です・・・」

「全然安心できないねえ。そっちの席に行っていいかな?」

「え!? は、はい・・・別にいいですけど・・・」


 なんだろな。

 もしかして、逆アプローチ?

 ちょっと年齢不詳だけど、結構美人かな。でも、凄いツリ目だなあ・・・


「キミ、大学生?」

「いいえ。社会人です。1年目です」

「ふうん・・・日曜の夕方に一人でハンバーガー齧ってるってことは彼女いないんだ?」

「ええ、まあ・・・」

「それにしたって夕食がプレーンのハンバーガーだけじゃ体に悪いよ?」

「そ、そういう貴女だって」

「わたしはコーヒー飲みに入っただけだからさ」


 薬指に指輪してるな。奥さんなのかな。


「なんで僕に」

「わたしの彼に似てたからさ」

「彼?」

「そう。同棲してたんだけどね。いなくなっちゃった」

「え。別れたんですか?」

「ううん。今病院にいるよ。ケガしちゃって入院してる。逢いに行くこともできないけどね」

「へえ・・・ケガ?」

「そう。橋から落ちたの」

「え!? なんですか。工事の仕事かなんかで?」

「ううん。欄干ていうのかな、手摺りっていうのかな。ほら北っ側の大橋あるでしょ?」

「ああ。市役所の手前ですね」

「その手摺りの上に登ってね。それで落ちちゃった。自分で。日曜の夜に」

「・・・なんでですか」

「理由は分からない。でも引き金はわかる」

「引き金?」

「手を繋いであげなかったの」

「え。それだけで?」

「そ。それが多分引き金。あと、その前触れはずっとあったんだけどね」

「なんですか。その前触れって」

「うつ病だったんだ。彼」


 うつ病。

 そういえば僕も五月の10連休のあと、もしかしたら自分もそうじゃないかって思うぐらい憂鬱だったな。でも病気まではいかなかったんだろうけど。


「大丈夫なんですか、彼氏さん」

「河に落ちてね。頭からじゃなくて足から落ちて、しかもどういう訳か着水する時にちゃんと足を屈めてたらしくて。でも、前の日が雨でかなり増水してたから流される時にあちこちぶつけて全身傷だらけ・・・」

「お見舞いに行けないんですか?」

「うん。彼の両親からもう来ないでくれって言われた」

「あの・・・もし言いたくないんならおっしゃらなくてもいいんですけど。手を繋がなかったから、って結局なんなんですか?」

「あのね。彼がうつ病の早朝覚醒で毎日午前2:00とか3:00に目が覚めてさ。そのたんびにわたしはね、彼を抱きかかえてね。赤ちゃんにするみたいによしよし、ってしてあげてたんだよ。毎晩毎晩」

「はい・・・」

「でも、その夜はもう無理だった。わたしも仕事してたからさ、毎晩彼を慰めてわたしも眠れないまま仕事して帰って。彼はその時休職してたけど、ずっとアパートから出ずに体育座りでわたしが帰るのを待ってて・・・だからその夜はね、『ごめん。寝かせて』って言って彼がとなりの布団から伸ばしてきた手をね、払ったんだ。ほんの、軽くだよ?」

「・・・」

「わたしはそのまま眠っちゃって夜中に気がついたら彼が隣に居なかった。どうしたらいいか分からなかったから街をめちゃくちゃに走ってさ・・・その橋の上も通ったよ。でもわたしに分かるわけないよね? そこから飛び降りたなんて」

「は、はい! わかる訳、ないです・・・」

「朝まで探して会社に休む、って連絡入れて、布団に横になったら警察から電話がかかってきて。中洲の朽木に引っかかってたのを釣りに来た人が発見したんだって。ねえ」

「はい」

「キミにもし彼女ができてキミが仕事とか色んなことが苦しくて眠れない夜を過ごすんだとしたら、絶対に手を繋ぐんだよ? 病気で沈み込んで『ああ。僕はもう見捨てられたんだ』なんて気分になるかもしれないけど、そんなことないから! キミの彼女はただ疲れてるだけだから! だから、強引に手を握るのよ! いい! わかった!?」

「わ、わかりました!」

「そうよ・・・どうしてあの時、もっと強引に握ってくれなかったのよ・・・」


 僕とそのひとは結局ハイカロリーなダブルのハンバーガーと甘ーいチョコシェイクを2人して追加注文し、涙目のままに完食した。


「ねえ。キミ。今流れてる曲、知ってる?」

「知りません」

「あ、そ。これね、ずうっと前のアメリカの曲。マドンナって知ってるでしょ?」

「えーと。レディ・ガガみたいな感じの人?」

「全然違う。ま、いいよ。マドンナの『マテリアル・ガール』って曲」

「へえ。なんかキュートな感じですね」

「おや。キミ、意外とセンスあるね」

「どうも」

「ハンバーガーにマドンナ。気分はアメリカンね」


 よく分かんない。

 でもなんだろな。


 お腹が膨れてマテリアル・ガールを聴いてたら、寂しいのが消えた感じだな。


 このひと、僕とまた逢ってくれる気、あるかな?



FIN

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