第8話 神田さんのシンクロニシティ その3
神田の話は続く。
「竹内さんの頭の出来が良くないのは授業中の態度を見て重々承知しています。これからはすこし易しい言葉遣いでお話しますね」
カッチーン……と、頭にきたが何も言えない。神田はこの学校の主席らしい。確か、うん。そのはずだと思う。入学当初、秀哉が指をさして「あいつ主席で合格したらしいぜ」と言っていた…気がする。それが神田だったのか、顔と名前が一致していなかった時点で怪しいが、どの道分かりやすく話してもらえるのはありがたい。
「まず、神器とは何か。簡潔に申しますとカミのことです。
神田にコクリと頷く。もちろん早崎もだ。なぜか「神なんているのか?」と言う愚直な質問はできなかった。
「神器もそれに似ています。要は物の核に結びついて様々な種の力を与えるんです。ただ、決定的な違いがありまして……」
神田は話を止めた。いや、沈黙を作ったという方が正しいのかもしれない。きもちわるいぐらいに自然と背筋が伸びてしまう。なんて言えばいいのか、これ以上聞いたら引き返せないような、それでいて冒険の入り口に立ったような緊張感が作法室一帯に溶け込んでいる。
遂に我慢できなくなり隣を見るとそこには早崎の顔があった。彼女は俺の顔をまじまじと見つめうんうんと二回ゆっくり頷く。それは何を意味しているのか。わからなくてもわかった気がした。俺も一回だけ頷く。
「神器は黄泉の国で生まれたんです。ある種の呪いと言ったほうがしっくりくるかも知れません。実態を持たないものの自我を持って生まれたそれらは、ある意で扱いやすくある意で厄介な存在でもあります」
厨ニくさくなってきたなと、さっきの緊張感が少しほぐれた。と、同時にのどが渇いていたことに気づきリュックから水筒を取り出し麦茶を口に含む。
さて、続きをきこうじゃないの。と思ったところ早崎が口を開いた。
「ねぇ、さっきまでの話の流れで厄介そうな感じはしなかったんだけど、どこらへんが厄介なの?」
早崎の質問に神田は真顔で答える。
「神器達は無性に女の子が、特に美少女に目がないんです」
ぶふっーーーーー
これには吹き出してしまった。麦茶が喉を過ぎていたが幸いモザイクをかけなくてすんだが、ほんとよくない。そもそもなんで美人好きかなんてかわかr…
「あぁぁぁーーーーーー!」
何かが一つにつながったのを感じ大声を出してしまった。次に考えるよりも先に口が動く。
「だから早崎か!」
「その通りです。よくその小さい脳で辿り着けましたね」
馬鹿にされた気がするがまぁそれはいいだろう。
「神器は古来より美少女に吸い寄せられる習性を持っています。これを利用して代々神器の管理をしてきたのが私達神田家なのです」
そうか。だから神田は神器とやらにやたらと詳しいのか。また一つつながった。まだいくつか気になることがあるが、それは聞いていけばいいだろう。
「俺からも質問。なんでわざわざ管理してるんだ?美少女の願いを叶えてくれる奇跡を起こしてくれるんだろ?別にほっとけばいいじゃないか」
神田はゆっくりと口を開く。
「美少女のことが無性に好きと申しましたね。神器は美少女の願いを叶えてくれる奇跡的な存在…裏を返せば美少女の願いであればどんなことでも叶える存在なのです。例えば…2020年と言って何か思い出すことがありますか」
歴史は不得手だ。早崎に頼もう…と、隣をみると世界史の教科書をめくる早崎の姿があった。なんかずりぃ。
「なにこれ?」
早崎に「みてみて」と言われ覗く。距離がすんげぇ近くてドキドキしたのはおいておこう。
そこにあったのは真っ黒に塗りつぶされた一枚のページ。2019年の次のページが見られない状態になっていた。
だめじゃないか、こんなことして
俺は若干引いた目で早崎を見た。しかし、早崎は首を横に降る。
「私こんなことしてない!……そだ、竹内くんの教科書も見せて」
テンパる早崎がかわいい。そんな俺の教科書が真っ黒に見えるはずがないのに。
俺は世界史の教科書を開く。パラパラとめくり、あるページで目が止まる。
そこには真っ黒なページがあった。今度は早崎が覗き込む。
「嘘だろ…」
声が自然と漏れてしまった。ゆっくりと神田の方を向く。神田はこっちを見つめていた。
「おわかりいただけましたか?2020年は存在しなかったことになっているんです。いや、されたと言うのが正しいかもしれません」
早崎さんは上履きで滑稽なタップダンスを踊り始める いまそかRe: @0213117
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