第35話【VS〝万足〟現れし闇その2】
セリエの腕を力なく掴むと、風魔法が突然消失し宙へ浮かんでいた体は地面へ着地したタイミングで、反対に翠色の頭を鷲掴みにし、ようやく立ち上がるノーメン。
最早、立っているのが奇跡と呼べる状態であり、満身創痍な体の魔力は、いまだ安定せず周囲の魔力を全て消してしまいそうだった。
喉は焼け、片耳は崩れ、喋ることも、ままならないノーメンだが、協会内でもマスクと大柄な体のせいもあって周囲から恐れられているが、そんな彼の理解者であり、現存する唯一の【友】であるセリエに思いを告げる。
「迷惑を掛けたが、お前に借りは……作らないつもりだ。ここは任せろ……相棒――――」
セリエの周囲には、
今、1人の男が死ぬ決意をしたのを指を
身体中の毒が退いていくのが、分かる……だが状態は依然として変わらず、歩みを進めるごとに崩れ行く肉体を力ずくで動かし
これまで、獲物を横取りしてきた【
今まで隠れて生きてきた
光り届かぬ
互いの距離は腕を伸ばせば届く程近くにあり、体力や精神的にも限界を越えていたノーメンは先手を打ち、右の拳を固く握りしめると型の整った正拳突きを放つ。
衝撃波が鋭く立つが、万の足を器用に使い威力を殺すと右を封じられ、残る左手で攻撃を仕掛けるが同じように拘束される。
万を超える足に、2本の腕で立ち向かうなど【数千球のボールを一本のバットで打つ】に等しく、それはまさに無謀と呼べるだろう。
文字通り手も足も出せず、密着するように体を捕まれ、もはや策は尽きたかに思えたその時だった。
ノーメンは血反吐を吐きながらも、ありったけの力を振り絞り叫ぶ。
「セリエー!!
瀕死の友に守られ安全地帯でその言葉を聞いたセリエは、一瞬の迷いもなく全身全霊を込めて撃つ。
【levelⅡ-
強烈な光を放つ
自慢の足をまるで【
先程の場所は周囲が複数箇所も
閃光のような光が徐々に弱まるとそこに立っていたのは、右手を天に向け、左手は
「お前は、その命尽き果てるまで脇役のままだ。何故なら――――俺が【主役】だからだ!!……さらばだ、友よ――――」
左手からは、セリエから貰い受けた【level-Ⅰ&Ⅱ】を宿し、人生最後の一撃を放つ。
【
この日、【深淵の渓谷】には、世にも珍しい光景が広がっている。
闇夜を貫く光の道は、強固な岩を削るほどの激しい風を巻き起こしながら敵目掛けて放たれる。
生きとし生ける物、全てにおいて【時】は無限ではなく有限であり、どんな事象も干渉不可とされていた……そう、【ヤツ】が来るまでは――――
ノーメンの命を賭した最後の一撃は、万足を捉える直前にその動きを止める――――否、全ての時が止まっており、音もなく静寂に包まれた状態が漂っていた。
それはまさに時を自在に操る力であり、この世の森羅万象、あらゆる事象に干渉可能とされる、この世で最も規格外な力である。
【
突如として現れた謎の人影は、防御に撤し固く身構える
年齢不詳、男女さえもわからぬその声の主は時の静止した中、平然と消え行く命に歩きながら語りかけ、
「
【
黒地の手袋を外しそう言って、元の姿など見る影もないノーメンの頬を優しく触れ、まるで元から傷がなかったかの様に治る。
「ほら、これで元のイケメン顔に戻ったじゃない!!それとこれを着けてお仕舞いね!!」
粉砕していたマスクもついでに復元させると早々に顔に着け、一周回って身だしなみを整えると満足そうな笑みを浮かべる。
元通りに治癒したノーメンを後にし、鳥籠の中のセリエに触れようとしたその時、弾かれる様に手が後方へいく。
「痛った~い!!
まるで自動ドアが開くように解除されるとそこには、友に最後の別れを告げるように左目から大粒の涙を流しているセリエの姿があった。
「君達をここで殺すのは容易いんだけど、今は止めとくね。だから――――もう少ししたら
戦いの
止まった針は再び規則正しく動き始めると、まるで夢でも見ていたかのように
意識朦朧の中で名言を残し格好良く倒れる準備をしていたノーメンだが、目が覚めるように起きると状況を理解できないのか、【整えられた服装】 、【元通りのマスク】に【腐敗していた筈の体】を隅々まで確認しどこにも異常がないことに嬉しさはなく、得たいの知れない恐怖を感じ硬直してしまう。
一方セリエは、涙で歪んだ目の前の事態を憶測と仮説で組み立て、納得したのか再び風魔法で宙へ浮かび、呆然と立ち尽くすノーメンの肩を叩き暗闇の中笑みを浮かべ、「次は勝手に死ぬんじゃねぇぞ……相棒」と一言告げるとそれに答える様に【友】とハイタッチを交わす。
「ところで何が起こったんだ?」と言いたげなノーメンに対し、少し間を空け自分なりの解釈で返答する。
「この、見の毛もよだつような感覚に瞬間的な出来事……間違いなく【
「奴?」首をかしげ、顎を擦りながら考えるが答えは一向に出ず、数秒経って痺れを切らしたのか続け様に話す。
「6分割された大精霊の一部にして最強と言われている、【時を司る セントキクルス】の使役者がここに居たんだよ。恐らく偶然ではなく、
冷静沈着で頭の回転が速いセリエは、自分の仮説をこう告げる。
「俺たちが来る少し前に
「この意味わかるか?」と問いかけると、再び硬直したためマスクの奥の眼を琥珀色の瞳で見ながら得意気に話す。
「一見何の変哲もない骨なんだが、あるところにしか生息しない生物の一部なんだよ。そこは一流の魔法使いですら立ち入りを禁じられていて、その昔、あまりの死者を出したため協会内部ではこう呼ばれている―――【
そう言って協会へ情報を持ち帰るため、歩きで渓谷を
「ちなみにこれ【推定危険度】な」
頭を抱え、「やれやれ」と首を振ったノーメンは、子犬の灯りを便りに、そそくさと先へいくセリエの後を追いかけた。
片や一時的だが瀕死の状態まで追いやられていた一方で、そんな事が起こっているとは露知らず、慣れない子育てをしている一人の成人女性が居た。
いつだってあなたが私を強くする【2000文字版】 泥んことかげ @doronkotokage
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