エピローグ

 突如、教会が暗くなり、静まり返った。スポットライトを浴びて現れた神父は、白い紙を読みながら、マイクに向かって話しかけた。

「皆様、大変長らくお待たせしました。新郎、新婦の入場じゃ!」

 スポットライトが教会の入り口を照らし、一同の視線を一挙に集めた。扉が開くと、純白のドレスに身を包んだ美しい女性と、タキシードに身を包んだ勇ましい男性が、腕を組んだ姿で立っていた。足並みを揃えて、同時にレッドカーペットの上を歩んでいく。

 憧れのウエディングドレス姿に、女性陣はすっかり色めきだっていた。

 そして、祭壇へと移動していた神父の前に並んだ。

「新郎、アダム・グレイマン。汝はリリス・スカーレットを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 アダムは凛々しい顔つきで、大きな声で言った。

「はい、誓います!」

 神父は次に、リリスに向かって言った。

「新婦、リリス・スカーレット。 汝はアダム・グレイマンを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「誓います!」

 リリスは緊張しているのか、即答気味に答えた。

「では、誓いの口づけを……」

 アダムとリリスは向き合い、見つめ合った。リリスは一人眼を閉じた。

 しかし、数秒経ってもアダムからの口づけはない。

「ちょっとアダム、どうしてキスしてくれな……」

 涙目で言いかけたリリスが眼を開くと、アダムが片膝をつき、花束を持っていた。

「リリス。物心ついた頃から、お前はずっと俺の側にいたよな。俺が先に生まれたのか、お前が先に生まれたのか、それは誰の知る由もないことだ。側にいるのが当たり前だと、ずっとそう思っていた」

 リリスは涙を流しながら、口元を両手で覆った。

「けど、お前が側に居なくなって、初めて分かった。俺にはお前が必要だ。『秘宝』が創れなくなるからじゃない。次元を操る力なんて無くていい。リリス、お前が必要なんだ」

 花束は、白いチューリップと赤いチューリップでできていた。白いチューリップの花言葉は、許しを乞う・失われた愛。赤いチューリップの花言葉は、私を信じて・永遠の愛。

 花束の中に、キラキラと輝くリングが入っていた。アダムはそれを取り出して、リリスの左手の薬指に優しくはめた。

「好きだ! 結婚しよう、リリス!」

 リリスは涙を拭って、満面の笑みで言った。

「…………はい!」

 直後、祝福の鐘が鳴り響いた。アダムとリリスは、永遠の愛を誓い、唇を重ねた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 

 腕を組みながら式場の外へ出たアダムとリリスに、神父は小さなブーケを手渡した。

 神父の進行に従って、式場内にいた人々も全員外へと出た。

 何が始まるのかと思っていると、新婦のリリスがブーケを手にして後ろを向いていた。

「これより、新婦によるブーケトスを行う。全員参加のルールじゃ!」

 乃呑は、「待ってました」と言わんばかりにアップを始めた。

 あかりも眼が本気だ。たくみ、ゆうきはゲーム感覚で臨んでいた。

 普段はおとなしい愛歌も、自分の頬を両手で叩いて気合いを入れていた。

 パレットとヴァルカンは、新郎、新婦が唇を重ねてから、なぜかギクシャクしていた。

 黒城、宇利亜、ラヴィエルの三人は興味なさげで、イヴは眠たそうにアクビしていた。

 「ではリリス様、お願いします」

 神父が伝えると、リリスは後ろを向いたまま、ブーケを後ろへ放り投げた。

 あかり、たくみ、ゆうきは一斉にジャンプするも、タイミングが早すぎた。

 乃呑は、(これはもらった!)と思っていたが、愛歌が懸命にブーケに手を伸ばしている姿を見て、躊躇してしまった。ブーケを手にしたのは、颯爽と現れた青いひな鳥だった。

「ちょっとみんなッ、アタシのこと忘れてないでしょうねッ!?」

 ブーケをくちばしに咥えたまま、ピィピィと騒ぐ姿に、会場が笑いで包まれた。

 ジェスタークラウンはその様子を、デジタルカメラで写真に収めていた。

(やっぱりピーちゃんは、『幸運の青い鳥』だったのかも)

 愛歌はブーケを取れなかったことを気にせず、笑顔でみんなを眺めていた。

 

 こうして、陽光町に再び平和が訪れた。さて次は、どんな物語が見られるのだろうか。今回はこの辺りで筆を置きたい。           From ヨハネ・パウロⅡ世

 

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改稿版 ヨハネと獣の黙示録 上崎 司 (かみざき つかさ) @kamizaki

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