結言〜福音書〜
陽光町に帰った後、以前の誕生日会の続きをみんなで楽しんだ。
愛歌ちゃんは、帰って来たあたしたちのために手料理を振舞ってくれた。
ラヴィエルの怪我も、順調に回復しているらしい。ヴァルカンの話によると、あたしが病院で眠ってる間、心配してくれていたみたい。敵だと思ったけど、意外といいやつ。
アダムの会社、TRG社は、『秘宝』の製造を再開したんだって。ピーちゃんやリリス様との仲も良好に戻ったそうで、そして今日、ここで結婚式が行われる予定だ。
パレットは教会の椅子に座りながら、黒い手帳の新たなページに文字をつづっていた。
「パレットさん、何を書いているんですか?」
「なになに、うわっ、意味わかんねぇ……」
「ちょっと、勝手にあたしの手帳を読むな!」
パレットは黒い手帳を閉じて、ゆうきが届かない位置まで上げた。
たくみは、黒い手帳の表紙を見て、首を傾げた。
「あれ? それって書き間違えでしたか?」
「ああこれ? 書き直したのよ」
黒い手帳の表紙に書いてあった『黙示録』という文字には斜線が引かれ、『福音書』と改められていた。
「なるほど、そうなんですね……あっ」
「パレットさん、ピエロの人が『金のハッピーチケット』をくれたんです! みんなで一緒に遊園地で遊びませんか?」
おとなしい男の子は眼を輝かせてパレットの右腕を掴んだ。
「パレット、早くジェットコースター乗りに行こうぜ!」
元気な男の子はパレットの左腕を引っ張った。
「ちょっとお姉ちゃん! たっくんとゆうくんをたぶらかさないでよね!」
そこにあかりが登場し、教会は修羅場と化した。
「ウハハハ、相変わらず騒々しいやつらだ!」
「お前がそれを言えるのかよ……」
「宇利亜! ラヴィエル! あなた達も招待されてたのね!」
「ヴァルカンから事情を聞いてな。それと、俺たちだけじゃないみたいだぜ」
ラヴィエルが後ろを指すと、見知った顔が続々と教会に入ってきた。
「愛歌、一緒に前の方に行こ! ブーケトスやるでしょ!?」
「乃呑ちゃん、そういうの好きだよね」
手を繋いで歩く二人の少女の少し後ろから、黒髪の少年の姿が見えた。
「兄貴! 遅いから先に来てたぜ!」
「……ヒナコを正装にするのに時間がかかってな」
「兄貴って、あんたたち兄弟だったの!?」
黒城 弾と 黒城 ゆうき。性格が真逆なため、兄弟だとは気づかなかった。
「ふぁっ……。騒々しくて眠れそうにないのです」
「御淑やかな人♪ 神様はチミのそういうところに惚れたんだね♪」
「それでストーカーされるなんて、迷惑な話なのです……」
イヴとジェスタークラウンも、アダムの様子を見に来たようだ。
「パレット、相席してもよいか……?」
最後に入ってきたのは、終始一貫してパレットの身を案じてきた、ヴァルカンだ。
「あら、ヴァルカン生きてたの?
「ふっ、正確には二度、死んでいるがな」
「ビビビ……ガガガガ……」
式場の内部を、超小型に改造された、レア・メタル・ゴーレムが巡回していた。
一人の犠牲者も出さずにこの一連の騒動、『黙示録事件』を終えられたのは、不幸中の幸いであった。
教会に集まった人々は、一つのテーブルにつき三人、それぞれの席についた。
乃呑、愛歌、たくみの席、黒城、ゆうき、宇利亜の席、イヴ、あかり、ジェスタークラウンの席、パレット、ラヴィエル、ヴァルカンの席の組み合わせだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お姉ちゃんの名前、すごく可愛い! もしかしてハーフ?」
「ボクチンもそれ、少し気になってたよ♪」
あかりが目を輝かせると、イヴは眼を背けながら言った。
「いえ、所謂(いわゆる)、キラキラネームというやつなのです……」
アダムとリリスは、知恵の果実を食べる前に未来で暮らすことになった。
アダムがイヴと結ばれるのは、別の時空の話になりそうだ。
「ウハハハ、見ろよこの生徒会新聞。またお前が一面を飾ってやがるぜ、黒城」
宇利亜が広げた新聞には、あたかも黒城が一人で『黙示録事件』を解決したかのような見出しと写真が掲載されていた。
「すげーだろ? さすがは俺の兄貴だぜ」
(……生徒会長の仕業だな)
黒城はイヴの方を見た。目立つことが嫌いな黒城に対する、ささやかな宛付けだった。
「菜の花さん、サンライト・ユニコーン、どうしたら仲良くなれるんでしょうか」
たくみは、『秘宝遣い』として長い経験を持つ乃呑に、思い切って相談した。
「うーん、伝説上のユニコーンは、純潔の女性にしか懐かないって言われてるけど……」
「純潔の女性……?」
愛歌は小首を傾げたが、乃呑はあえて説明しない。
「愛情を持って接すれば、きっとどんな動物ともわかり合えるよ」
乃呑は自身の持つ白銀色の宝箱を見つめながら、優しい表情で言った。
「パレット、お前はこれからどうするんだ?」
「これからの事はこれから考えるわ。リリス様のおかげで、生活には困ってないし」
「お前、ちょっとは遠慮しろよ……」
ラヴィエルはローストチキンを頬張りながら、思っていたことを口にした。
「ヴァルカン、あんたはどうするの?」
「某は旅に出る。一緒に来るか?」
ヴァルカンの意外な回答に、ラヴィエルとパレットは互いに顔を見合わせた。
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