アポカリプス⑤

「申し訳ありませんでした、もう二度と浮気しません」

「本当に? もう二度としない?」

「お願いします、どうかご慈悲を……」

 土下座をしながら両手を合わせて必死に懇願するアダムの姿は、とても神と呼ぶには相応しくない姿だった。

「では、式を挙げたらどうなのですか?」

「あっ、それいいかも!」

 提案したのは、あろうことか浮気相手のイヴだった。アダムはガックリと頭を下げる。

「パレット、式ってなにかしら?」

「結婚式のことよ、リリス様」

 話の流れから正体を悟ったパレットは、スカーレット様ではなく、リリス様と呼んだ。

「みんなの前で、永遠の愛を誓う儀式だよ。彼のこと、好きなんでしょ?」

「永遠の愛……!? ア、アダムとは幼馴染っていうか、なんていうか……」

 乃呑が説明すると、リリスは両手を赤く染まった頬に当て、照れ始めた。

 女性グループが盛り上がっている中、ヴァルカンと黒城は現実的なことを考えていた。

「それにしても、どうやってここから帰還するのだ」

「……俺も飛べるのはヒナコだけだ。力を使い果たして不死鳥にもなれそうにない」

 男性グループに、アダムは言い寄った。

「だったらこいつを貸してやるよ。開放、ザ・メルト・ドラグーン!」

 アダムが持つ真紅色の宝箱から現れたのは、神話でも有名な龍の秘宝獣だった。

「メルト、こいつらを背中に乗せて、陽光町まで運んでやってくれないか?」

「人間ごときが、俺に指図するな!」

「人間じゃねぇ、俺は神だ!」

「どちらでも同じだ!」

 多少の口論となったが、紅い龍の秘宝獣は彼らを乗せて帰還することを渋々承諾した。

「ほら、父さんも乗るわよ」

「パレット、我にその資格はない……」

「何を言ってるのよ!?」

 神父は、差し伸べてくるパレットの手を、無気力に払いのけた。

「我は愛する妻だけではなく、愛する娘まで失うところであった。父親失格だ」

「……それでも!」

 パレットはもう一度、神父に手を差し伸べた。

「それでも、父さんはあたしの、たった一人の家族だから……」

「パレット……」

 その言葉に胸を撃たれた神父は、弱々しくその手を握った。

「帰ろう、父さん。陽光町に……」

「早くしろ、人間。グズグズしていると置いていくぞ」

 紅い龍の秘宝獣に急かされ、パレットと神父は龍の背中に乗った。背中には既に、アダムとリリス、イヴ、乃呑、黒城、ヴァルカンも乗っていた。

「焼き溶けろ、《メルトブレス》!」

 紅い龍の秘宝獣は、戦艦の壁を焼き落として空へ出た。アダムとリリスは力を合わせ、戦艦を過去の世界のパラレルワールドへと送り戻したのだった。

「……日の出だ」

 黒城が呟くと、みんな一斉に太陽に注目した。陽光町の名に相応しい光景だった。

 陽光町に戻った彼らを最初に出迎えたのは、栗毛色の髪の少女、鴇 愛歌だった。

「みんな……おかえりなさい!!」

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