EP11-02
「おい、どうした。まさか、脳みそからの
私の異変に気付いたクレアが、立ち止まって問いかける。困惑に満ちた首肯を彼女に返してから、私はアンへと呼びかけた。
「ねぇアン、
アンが
「もちろん構いません。
アンは即座に
「祝福だなんてそりゃ光栄だ。だけど記念すべき
驚いたことにクレアは、親のように振る舞うアンに付き合ってみせた。アンを信じてみたくなったという先ほどの言葉を、彼女はまさに目の前で体現しているのだ。こんな時でさえ偽悪的なクレアの態度は、毒気を抜かれないためのささやかな
「
私の
「よく言うぜ。お前はハエ共に
クレアが雄弁に言い放つ。険しさを隠さない彼女は、アンが
「仰るとおり、あれは失策でした。そもそも武力行使という選択が、私の
身も蓋もない発言に、クレアが返す言葉をなくした。
私と同じ見目形をした侵入者たち。アンに状況説明を求めても、彼は遠回しな表現に徹するばかりだった。ならば、こう考えることは希望的観測だろうか。四体の
「……アン。あなたは色々と矛盾してる。だってクレアとホムラの急襲を私に伝えてくれたのは、他ならぬあなただもの。たとえ二人を殺さなくたって、その来訪を隠すための方法ならいくらでもあった。違う?」
それだけじゃない。アンは、T-6011がエリア004に連行されたであろうことまで教えてくれた。私を
「先に訪れた神奈木コトハも、同じ指摘を述べました。彼女は私の
「……やっぱりナギさんも来てたんだね。彼女もまた、
直情的な意見を述べる私に、アンは沈黙を貫いた。彼の表情が見えない事実が、ひどくもどかしい。せめてあの
「それで、神奈木は今どこに? いや、これについては聞くまでもないのか」
どこか切実な表情で、クレアが問いかけた。ホムラと交わした約束を、彼女は何よりも重んじているのだと伝わってくる。けれど聞くまでもないとは、どういう意味だろう。クレアにはすでに、ナギさんの居場所におおよその見当がついている様子だった。
「驚かされました。
「いや逆にさ、神奈木の目的地が分かっていないのは
驚いてバングルを見やれば、テラもうんうんと同意を示している。しかし彼はその最後に、「ホムラも怪しかったけどね」と意地悪な眼差しを送った。知らぬ間に置いてけぼりをくらっていた私の肩に、クレアが手のひらを置いて慰める。
「仲睦まじき光景ですね。分かりました、良いでしょう」
芝居がかった沈黙を挟んで、アンは続けた。
「エリカ、それからその友人たちへと提案します。あなたたちさえ宜しければ、私はあなたたちを"
誰にも聞こえないほどに小さなクレアの舌打ちを、私の聴覚は確かに捉えた。ティーダの言葉を丸ごと真実と捉えれば、そこは7万体の
つまりそこに行けば、ナギさんに会えるというのか。彼女とコンタクトがとれるのならば、私にはアンの誘いを断る理由がなかった。
「躊躇う気持ちは理解できますが、心配はご無用です。この私は、あなたたちの
「……分かったよ、アン。私は行く。あなたが本当の王として君臨するその
「おい待てよエリカ。何も決断を急ぐ必要はないだろ」
「ああ、クレアの言うとおりさ。一度向こう側に足を踏み入れれば、こちら側に戻ってこれる確証はないんだ。最悪の場合、悪意をもって
クレアとテラの主張はもっともで、私の身を案じてくれているからこその強い口調を嬉しく思った。彼の
「だからこそ、私だけで行くんだよ。クレアとテラはね、アンが悪さしないかどうかを見張っててくれれば嬉しいかな……なんてさ。ほら、予期せぬ事故とかが起きて、私が本物の
何かを言いかけて、クレアが押し黙る。私の無謀な選択を咎めたい気持ちを、必死で飲み込もうとしてくれているように映った。
「大丈夫だよ。ホムラと交わした約束は、必ず私が果たしてくる。ホムラが心から心配してるんだって、ナギさんに伝えるついでにお説教とかしちゃうかも」
腕まくりをして微笑む私を、クレアが複雑な表情で眺めた。やがて意を決したように、彼女はその重たい口を開く。
「お前は……、お前はやっぱり、
何もかも分かっていた。あらゆる
「ねぇ聞いてクレア。こっち側の世界にはね、ホムラがいるの。だから、だからナギさんは絶対に帰ってくるよ。それに私には、クレアがいるから。だから私だって、絶対に帰ってくるんだ」
私の言い分が、説得力に欠けているのは自覚している。それでもクレアは、ほんの少し顔を赤らめるだけで、それ以上の反対意見を述べることはなかった。
残悔のリベラル -the Amber brain of Avalon- 五色ヶ原たしぎ @goshiki-tashigi
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