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 現在ここカシダワではツーキ1000~2000人が潜伏中という情報がシキノ・マオーラ地方軍から受けた防衛府長より伝令が届き、特別許可作戦によって掃討作戦を開始するところであった。シキノ・マオーラ地方の地方防衛局・地方軍と共和国軍、統括する防衛府、地方統合府の連携による掃討作戦限定の連携軍編成を行い、私は2個大隊の指揮をとっていた。

 「大隊長、配備完了しました。いつでも大丈夫です。」

 副大隊長が小隊長全員の点呼も完了したため、私は大隊長同士の無線連絡を行うため、仮設テントにおいてある無線施設に向かい、状況を伝達した。

 「第3機動部隊から第1機動部隊へ連絡。通信状況確認、オーバー。」

 少し遅れて無線のノイズがまた聞こえた。

 「こちら第1機動部隊、第3機動部隊の通信状況感度良好、オーバー。」

「こちら第3機動部隊大隊長の小野田です。準備完了しました。オーバー。」

 「第1機動部隊大隊長篠宮、第3機動部隊の準備完了確認。こちらの指示があるまで待機を。オーバー。」

 「了解。」短い定型無線を送り合った私は待機を行った。

 ここカシダワは、シキノ・マオーラ地方の南端にあるシキノ・サルコ市に所属し、サエチキ地方との地方境界にある。他のシキノ・マオーラ地方にある市とは違い公園都市ではあるが場所によって入り組んでいる部分が多く、都市全体の実態を把握するためには時間を要する場所だ。逆に言うと、それだけ敵の拠点または籠城になりやすい部分ではある。地図では定期的な点検のためによるインフラ事業からの情報によって9割8分以上は判明しているが、残りの2分については水路の設備であることや、新たに追加されたトンネルも地図への反映が遅い時があるなど時期によって変わっていたりする場合があるため、全容を瞬時に判断することが難しい。予め住民の避難などは行っている・・・というよりそれは56時間も前に起こった史上最大のテロ事件によって完了しているも同然だ。

 今回の作戦としてはこのように行われる。まず、本作戦に参加する掃討兵全体で敵2000以上を想定しているため5000人が集結している。そのうち、航空支援を行う航空支援機動部隊を3個中隊で配備、計300人程が動員されいてる。陸上では4000人が機動部隊として3個大隊に分かれている。また残りの400人は戦闘支援部隊を4個中隊で配備されており、遠距離からの観測兵と遠距離攻撃兵に分かれてそれぞれの機動部隊の支援に回る。後の300人は情報戦略兵で敵の情報を傍受又は作戦本部に秘匿回線を使い随時報告するものだ。まず第31航空支援機動部隊10名、第1機動部隊と第2機動部隊は双方が市街の外側から敵の居場所を特定するため索敵を行う。先程言った通りカシダワは場所によってとても入り組んでいるため、大隊で出発していくが、小隊規模で入り組んでいる部分に残党索敵を行う。航空支援機動部隊については索敵と同時に敵を発見した場合に掃討を開始する。人数が多い又は敵の散らばり具合によって航空支援機動部隊の人数を増やしていく。

 また本作戦はフェーズごとに作戦を遂行する。第1フェーズはカシダワの都市庁舎の奪還と安全確保を行う。第2フェーズでは都市の中間地点にある公園までの奪還・解放作戦、第3フェーズでは住宅地全体の奪還・解放作戦、最終フェーズでは地方最西端にあるカシダワ境界タワーの奪還作戦・都市内の掃討作戦を行い、全てのフェーズが成功すれば終了となる。戦闘支援部隊は中隊ごとに配備をずらしていく。作戦が開始と同時に第71・72戦闘支援部隊は作戦を行うため機動部隊の支援を行うが、第73・74戦闘支援部隊は機動部隊と合流して都市庁舎の解放が行われるまでの間後方で待機を行い、解放されたと同時に拠点を設置し大隊の支援に回るというローテーションをフェーズごとに組んでいる。目視と情報戦の両方に特化できるようにするためである。

 参謀から全体に無線連絡が以下のように送られてきた。

 「参謀より各大隊、中隊、小隊に全体連絡。現時刻をもってカシダワ残党拿捕及び掃討作戦を行う。所定の位置から第1フェーズを開始せよ。繰り返す、所定の位置から第1フェーズを開始せよ。以上。」この後に間を挟まず無線が続く。

 「こちら第1機動部隊大隊、参謀から第1フェーズ開始の連絡より本部隊も開始する。第2機動部隊大隊、第31航空支援機動部隊小隊、作戦行動を開始せよ。繰り返す第2機動部隊大隊、第31航空支援機動部隊小隊、作戦行動を開始せよ。」

 「こちら第2機動部隊大隊、了解。」

 「こちら第31航空支援機動部隊小隊、了解、小隊目標座標到着まで残り48秒。オーバー。」

 「こちら第1機動部隊、了解。」

 淡々と作戦行動を開始する各部隊の無線連絡が続く。航空支援機動部隊は全てシキノ・サルコ市にある飛行場から離陸し、索敵・掃討作戦を行うため少しラグが発生する。しかし最高速マッハ2.7を誇る戦闘機での作戦行動のため、索敵等による時間ラグは微々たるものだと陸上に身を置く私は思う。目標座標は第1フェーズの目標都市庁舎に設定されている。

 「第71戦闘支援部隊より第1機動部隊へ連絡。7時の方向、敵影を発見、数は16。可能な限り拿捕を行ってください。繰り返す7時の方向敵影16発見、拿捕優先。以上。」

 「第1機動部隊、了解。」

 3発同時に響き渡る銃声が聞こえたと思った途端10丁以上から放たれた銃声が同時に聞こえた。

 「第72戦闘支援部隊より第2機動部隊へ連絡。6時の方向敵影29確認、拿捕優先。繰り返す6時方向敵影29、拿捕優先。以上。」

 「第31航空支援機動部隊より第1・第2機動部隊へ連絡。第1フェーズ目標地点敵影197確認。拿捕優先、よって航空支援は催涙弾中心に行う。指示を乞う。オーバー。」

 「こちら第2機動部隊、目標までの到達地点は約10分、それまでの索敵敵数の情報を乞う。オーバー。」

 「こちら第31航空支援機動部隊、第2機動部隊進路上における敵影少なくとも300は確認、それ以上の可能性48パーセント。敵影存在ブロック286、289、291で相当数確認。第1機動部隊進路上における敵影少なくとも285確認、それ以上の可能性は現在確認中。敵影存在ブロック357、387、393で相当数確認。オーバー。」

 敵影ブロック、つまり細分化した状態にブロックごとで敵の位置を把握するという行為を行っている。これにより機動部隊にはヘッドアップディスプレイを持ちながら航空支援部隊の情報が反映されていくことができる。このように次々と戦闘支援部隊や航空支援機動部隊より機動部隊、場合によって航空支援機動部隊に連絡が行われていく。再び銃声が活発化していく。先程は一方方向でしか聞こえなかった銃声が今回は双方からかなりの数で銃声が行われている。

 「第1機動部隊より第3機動部隊へ連絡。ブロック286にて拿捕39、289にて拿捕8、291にて拿捕27。これより作戦行動を開始せよ。繰り返す、これより作戦行動を開始せよ。以上。」

 ツーキの拿捕が行われたことを確認して私は二個大隊を半分にして私が指揮する1個大隊を第1機動部隊方面に、もう一個大隊を副大隊長に任せて第2機動部隊方面へと分けて目標の都市庁舎へと向けた。


 私は第1機動部隊が拿捕した犯罪者を次々と回収し、第1機動部隊の後方支援に回るために急いで向かった。銃声は鳴りやまずに、やがてその音が近づいていく。拿捕回収と同時に行った掃討作戦は滞りなく進んでいく。5分後には第1機動部隊の後方に合流することができた。

 「第1機動部隊から第3機動部隊隊長へ連絡。協力感謝する、これらの拿捕運搬を進めつつ、掃討作戦に協力せよ。オーバー。」

 「第3機動部隊から第1機動部隊へ連絡。了解。拿捕者の確認を行いつつ、第1機動部隊に中隊規模で支援を行う。オーバー。」

 「第1機動部隊、了解。」

 少しずつ拿捕者が増えていき、運搬車に入りきらないところまで来たため、後続に付けている運搬車に拿捕者を詰めていく。中隊規模に更に分裂させて、支援を行わせた。様々なブロックに第1機動部隊は移動させているため、最前線の掃討作戦を行っている人数は中隊規模以下にまで減少していた。

暫くして銃声の数が聴こえなくなりつつあり、同時に無線に連絡が入った。

 「こちら第1機動部隊、第1フェーズの目標付近に到着。敵影を確認したい。支援を乞う。オーバー。」

 「こちら第31航空支援機動部隊、敵影を250以上確認。支援部隊、機動部隊共に後方に十分注意せよ。オーバー。」

 「こちら第1機動部隊、了解。」

 「おいおい、まじかよ・・・それはいくら何でも固まりすぎではないのか?」

思わず心の声が洩れていた・・・。

 相当な数が庁舎の中に立てこもっていた模様で数は250以上存在した。第2機動部隊はその55秒後に到着した模様で、第3機動部隊も併せて庁舎の解放作戦を展開していった。13階建ての都市庁舎の隅々までテロ組織の波が襲い掛かる。建物内では常に銃声が鳴りやまず、私が3階の1フロアのクリアを確認したと同時に傍受した無線から聞こえてきた一部が、

 「ダイ312カラ315、ブロックαヘムカエ。」

 というあちらも独自のブロックごとでこの展開を指揮しているようであった。結果は負傷者を20名程負うことにはなったが15分ほどの膠着状態から建物に向かって航空支援機動部隊が催涙弾をお見舞いしたと同時に機動部隊による切り込み作戦展開で庁舎を解放することに成功。第1機動部隊が第1フェーズによる拿捕者は386、第2機動部隊が第1フェーズによる拿捕者は275となった。

 「掃討した数は第1・2機動部隊の情報を合わせると1500を超えるということになるようだな。想像以上に潜伏している可能性が高くなっている。まだ第1フェーズでこの数が潜伏しているということなので一時庁舎解放を宣言してから軍配備を変更する。」

 第1機動部隊大隊長篠宮がこのように提言した。地方軍の情報から15時間ほど経過しているとは言え、残党が地方全体に散らばっていたが再結集を行ったためと推測された。若しくはこの間に新たなテロ組織の介入によって数を増やしている場合があるとも機動部隊内から上がった。テロ組織の数が尋常じゃない増え方をしているため、作戦では第3機動部隊は支援する方向であったが前線での掃討作戦を開始することになった。

 「全部隊に通達、第3機動部隊は第2フェーズよりプランBを破棄、プランAに変更、戦闘支援部隊もプランBからAに変更せよ。」

予め決められていたプランをBからAに変更、つまり第3機動部隊も掃討作戦を展開する合図で、拿捕したテロ組織の回収は戦闘支援部隊が行うことを通達するものであった。

 「全部隊再集結後、フェーズ2に移行。以上。」

 この無線の30分後にフェーズ2に移行された。

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