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 私はこの会議が始まる30分前には全閣僚に連絡をして招集をかけた。だが、すでにテロ発生から41時間と少しばかりが経過しており、現場では一刻を争うような状況が続いている。そして、その者たちを集めてもらった地下7階の第16会議室に私は今SP数人と一緒に到着した。会議室という名目だが、中央に円形状の卓と周りを囲むように多数の社長椅子が用意されている。また、円に沿って固定電話が用意されており、前方には大きな液晶画面が大小多数設置されている。また外から見るとこの会議室はガラス張りになっており中の状況が確認できる。勿論、その場にいない場合でも固定電話と専用機などに繋がるテレビ電話があるため、その為に利用することもある。この建物は地上2階、地下15階となっており、テロや自然災害などある程度の非常事態になった時のみ使用される建物なため、ほとんど重要なものを地下に置かれている。地下施設の中には会議室の他に通信施設や閣僚やそのSP以下軍関係や重要人物が寝泊まりできる部屋を含め、およそ関係者1000人ほどが1週間程衣食住できる設備にしている。先程マスコミに会見をした時に使用した会見室もこの建物の地上2階で行った。

私は現在その建物で今回のテロ事件についての情報収集を行っている。このテロ事件を起こした組織が『ツーキ』ということはもう判明しているが、それ以外についての事はまだわかっていない。被害状況も壊滅した地域の死傷者はわかってきて入るが、それ以外の建物の全壊率やインフラ系などがどのようになっているかも調査中になっており、ここで行うには手詰まりになっている。そう考えていると、入り口の方から私に報告する係の者が現れてこう言った。

 「大統領、シキノ・マオーラ地方周辺についての死傷者以外の詳細が分かってまいりました。」

 「そうか、どのような状態になっているのか詳しく聞こう。」

この情報源は消防隊、警察・テロ対策特殊部隊の合同チームから届いたものだ。職員の一人が近くにいた三人に声をかけて、関係各所に資料を回すように指示した。私は配っていた補佐官の1人、50代半ばの谷から

 「詳細がこちらになります。」

と一言添えられて渡された15枚ほどの書類に目を通し始めた。死者・行方不明者、傷病者、地方全壊率、インフラ寸断率などをシキノ・マオーラ地方、イシナミジノ地方、サエチキ地方の中を市や区ごとで細かく分け、どの地域がどれほどの被害を受けているかレベル別に区切られている。このレベルは数が大きいほど深刻な状況になっており、0から10までの11段階で表示されている。様々な報道関係者によって壊滅したと分かっているシキノ・マオーラ地方の部分に目を通した。そこには中心地のシキノ・マオーラ市区の死者・行方不明者、傷病者、地方全壊率、インフラ寸断率などすべての項目で『10』と紙上では書かれていた。特に全壊率が99.1%という驚異的な数字が出ていた。公園都市とも言われていたシキノ・マオーラ市区だが、建物や植樹が1つも残っていない事がここから伝わってくるようだった。シキノ・マオーラ市区となっている為、中心に近ければ近いほど区で分けられている地域が多く、中心地から遠くなれば市で分かれている地域がある。シキノ・マオーラ駅から東に位置する「シキノ2区」と呼ばれる地域では死者がかなり多いため、テロ組織が掃討作戦を展開した模様とも報告書には書かれていた。逆にサエチキ地方、イチナミジノ地方の境界にある市地域シキノ・ノマンでは地域で唯一レベル『9』とされていた。壊滅的な被害という情報は人によってどの程度から壊滅的という言葉を用いるかはわからない。先に入っている情報に囚われず、こうして数字にされると聞いていた話だけでなく具体的にどの地域に被害が集中しているかなどの状況が書面で出てくる。また現在、合同チームが確認している死者・行方不明者を見た瞬間、想像を絶するものだった。58万という話はもう出ていたが今回のテロ事件は早朝に起こったということもあり最大の死傷者と行方不明者全体で250万以上にのぼっている可能性があるという報告を目にした。私は目の前が真っ暗になり、膝から崩れそうになった。まるで体に重しを急に乗せられたような感覚だった。

 「これは、想定以上だ・・・。」私は小声でつい言葉が出てしまった。私はこの報告書から会議をする前に各自で再建費用を試算してから会議を行うと伝えた。周知させたところで私は会議室を一回出て、地下11階の最奥部で隠し扉になっている緊急時大統領特別専用室という場所に向かった。有事の際においてのみ、この場所が大統領室と同等の扱いを受ける部屋だ。中には大統領室と同じような家具、電子機器などが並べられている。普段の大統領室と違いを考えるとなれば、ここは他の人からは完全に非公開にされているので、関係各所のごく一部しか存在を知らない。退任後には覚えているのではないかという話しがあがるかもしれない。大統領退任後にはある場所でこの情報に関する記憶が無くなるように細工されているという。当然私は行ったことがないためわからない。ここで私は次の会議までに災害関連の法案の選定と記者会見用の原稿をここで書き上げることにした。正直何かをしていないと、これからのことを円滑に解決させることが出来ないと感じたからだ。

「大統領、こちらが災害関連法案の草案となっております。…今日は長い一日になりそうですね。」

補佐官の一人が私へ災害関連法案の全体を渡しながらこのように言ってきた。

「一日だけであれば私は良いのだが…何日かかるかわからない状態だからな。君もしっかりと休める時に休みなさい。」

半分自分に言い聞かせながらその場にいる補佐官達に伝わるような声で話した。




 改めて災害関連法案等を整理した私は、先ほど会議を行った会議室に向かった。これからの方針と法案をまとめたため、全ての閣僚に周知させるためである。また、各自にそれぞれの法案の周知と確認又は修正を行うため、それぞれの閣僚がまとめてきたものの試算と照合して法案として最終確認を行うためである。まずは防衛府と地方政府所属の防衛局の人員を含めてテロ組織の残党掃討作戦を展開することについての議題が挙げられた。現在のテロ組織の潜伏先についてシキノ・マオーラ地方にあるカシダワにて掃討作戦を行うことが可能とのことだった。

 「今であればある程度の残党が1000から2000ほど潜伏しているという情報がシキノ・マオーラ地方の地方軍によって確認が取れております。大統領のご決断でいつでも可能でございます。」

 「これを法案に盛り込むのであれば他の物をいれるとしよう。このことについては地方防衛局と地方軍の情報網の再確立とシキノ・マオーラ地方全域の生存者避難が済み次第の作戦行動を開始としよう。防衛府長は至急このことを全体に流すように。」

 私は敢えてこのことを法案からは外し特別許可作戦事項の一つに組み込むことにした。

「わかりました。これらを連絡いたします。」

 また今回はこの災害対策本部を設立して、この部署を中心に各部隊の再編成と統制を行うことにした。この中に任命した環境復興局の幹部からこのような提案があった。

 「今回の壊滅したシキノ・マオーラ地方全域における樹木は生きているものが数少ないと思われます。そのため、公園都市としての復活は最早不可能なのではないかという結論に至りました。そこで私からの提案ですが、これまで担ってきた『公園都市』という名目での復興は最低でも30年以上かかるため、最先端の技術による先進都市の中の先を行く『最先端都市』としての復興を行うことでどうかと提案いたします。資料については、これからお渡しいたします。」

 と言われ、20枚ほどの資料が各人に渡されていった。その中には最先端都市としての復興期間は5年と記載されているが、うち2年はシキノ・マオーラ市区全域で今回の難民受け入れとそれによるキャンプを設置として場所を提供する期間と書かれていた。難民キャンプは難民認定資格が必要となり、個人の保険証や免許証などの身分証明書が必要となるようだ。一刻を争う事態だが難民キャンプにおける管理の徹底をこちら側は行わなければならない。

 「その難民認定資格登録に関してはどこで行うつもりでしょうか。」

 「難民認定資格の登録は、シキノ1区に1か所、シキノ4区に2か所、計3か所に設置するつもりです。可能な限り難民キャンプにするつもりなので、3か所が限界かと。」

 シキノ1区は駅の中心から北側にある1角で、4区は2区よりも更に東側に位置する場所だ。

 「よし、建設の概算はでているか?」

 「現在のところ、シキノ・マオーラ市区全域に難民キャンプを設置する建設費用は大体3000万マルクリル程と思われます。維持費としては最大で2000万マルクリルとも概算しております。」

 このテロでそれで収まるのであれば良いのだが、あらゆる対策を講じておかなければならない。

 「よし、それで建設費用関係の書類をまとめておきなさい。大統領令によって施行いたします。」


 現段階で出てきた法案は主にこの2つだった。他は災害対策本部関係者が災害関連法案の整理を行った説明を聞くこととなった。

 「法案についてですが、今回議会に決議を求める災害関連法案の内容は全部で2つでございます。今回のテロ事件を含めて、反社会的な行動を起こした場合又は、それが見られる場合には共和国からの国外退去を徹底的に行う法案でございます。このため、一部で使用が認められている民間の銃火器等の輸出入、共和国内での所持・使用を一切禁止とします。」

 この国では銃火器は特定の民間において認められている。例えば、公的機関の子会社として存在する会社では、護身用のために所持が認められているなどが存在する。また、銃社会とまではいかないが、この国では完全許可制で銃火器の所持が認められている。そのためには、試験やそれに関する講義を聞かなければ免許を発行することが許されていない。また、3カ月ごとの所持確認や、銃火器等の家宅捜索系も行う機関が地方政府直下の防衛局でひとりひとり行われている。頑丈な倉庫にそれぞれの銃火器の置き場がわかるようにしなければならないなど、それらの管理を徹底しておかなければならないので人口の約3%の所持しか許可されていない。

 一人の閣僚がこのように質問をした。

 「私たちが守られているSPなどの対応はどうするのかね。」

 私たちを普段守っているSPでも公的機関配属の者と、民間配属の者がいるための質問だった。大統領のSPは必ず公的機関配属の者がついているためあまり問題ではないが、閣僚の中では民間配属のSPを雇っているところも少なくない。

 「その対応については、後程まとめておきます。」

説明していた対策本部の者はこのように閣僚に返した。

 「今回のテロ事件では多くの方々が死傷されたため、先ほども説明した難民キャンプの建設と、今回の見舞金等の国からの援助を行うと明記します。この見舞金等ですが、一人10マルクリル程度、建物等の援助は5000マルクリルまでを上限といたします。」

 一瞬場が凍ったのがわかる。そのすぐ後に、凍った事が無かったかのように話し声が各所から聞こえてきた。一人の見舞金が10マルクリル程度?共和国での中央年収(平均年収では大統領などの役職付や閣僚の年収も含まれてしまうため、国では金額関連は中央値を取っている)では50万マルクリルと言われているにも関わらず?一斉に閣僚たちが付近の者と会話をし始めた。このままでは話が進まないと思った私から一声発した。

 「今回の事件は今までとは違う。まずは各自そのことを留意して下さい。一人当たり10マルクリル程度でしか対応が出来ないということがあるが、今後は支払いできる見込みがあれば大統領令によって増額して各国民に渡していくつもりである。そのことは頭に入れておいてくれ。」

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