魔王の力

 『火球ファイアボール


 お礼に一発かます。

 流石に10発分は無いが、速度重視の一撃。

集団相手の場合、魔法で勝つなら互いの魔法をぶつけさせて互いに足を引っ張りあわせるのが良い。

例えば水の魔法に土魔法がぶつかって水飛沫になってしまったり、水と火がぶつかって相殺されたり(無論ワザとやって別の効果を狙う場合もある。)……………。


さっきの10発同時発射。確かにヤバかった。

しかし、10発束ねてあの程度なら、向こうの奴等の総合戦闘力はなんとかなるレベルの練度だろう。


 有り体に言えば経験が浅い。

 習いたての魔法を覚えたこどもの集団のようだ。


 これなら間髪入れずに攻撃すれば防御かカウンターか回避かで判断がバラけ、態勢が崩せる。

 















『『『『『風壁ウインドウォール』』』』』




5人の風の障壁が俺の攻撃を阻んだ。




『『『『『土槍ランドランス』』』』』




5人の土の槍が地面から襲い掛かる。



「ヤベッ!!」




 地面から飛び出す槍を竹刀で相殺して飛び上がり、逃げる。




『『『『『『『『『『水弾ウォーターバレット』』』』』』』』』』



 空中で逃げ場のない俺に水の弾丸の一斉掃射。

 コイツら…………何だ?

威力は稚拙なのに統率はされている。しかも、一糸乱れぬ統率が、だ。

チグハグだ。

威力と連携の練度のバランスがとれていない。


そうこうする内に弾丸が目の前に迫る。

空中で逃げ場は無い。

この量は攻撃で捌けない。

が、蜂の巣になる未来は見えない。

何故なら……





弾丸が目の前で俺を避けていった。






『糸魔法【風】』

ウチのバトラーは万能ですから。

「何やっているんですか?」

着地と同時にショタに叱られる。

「悪いな。流石俺の右腕。」

「作成を立て直しますよ。

あれでは護衛は剥がせません。 一気に全員を叩かないと…」



一網打尽って事か………


バトラーは複数属性の糸魔法のみ。

俺は竹刀と威力の振るわない魔法2発分……に届くか否か………。



辺りには投げつけられそうな岩や大木は無い。

草原のみ。かといって人が隠れるには背が低い。



よし、!



「バトラー、行くぞ。」

目配せする。

「我が王の意のままに。」

ウインクで返す。



弱体化魔王とショタの華麗な逆転劇の幕開けだ。








『魔王の速歩』

没個性軍団の周囲を走り始めた。

ギリギリ全身血だらけに成らないように。

没個性達は最初の頃は目で追おうとしていたが、矢張り素人。暗闇の中で緩急と正円を描かない走り方をした甲斐あって直ぐに俺を捉えきれなくなった。



一瞬止まる。

没個性は気付いていない。



地面に触れた。

冷たい土と水の感触。


『水弾』


水の感触が地面から身体を流れ、弾丸と成り、没個性に襲い掛かった。



魔法の応用編。

自然界にも魔力はある。

微力だがしかし、取り出して利用出来れば、少しの魔力で魔法を発動出来る魔力がある。

俺がやったのはまさにそれだった。

水の凶弾は没個性に






当たらない。






『『『『『『『『『『風壁ウインドウォール』』』』』』』』』』



一糸乱れぬ10人の生み出す風の壁が水の凶弾を明後日の方向に飛ばしていった。

「クソ!!」

熟練の連携が如き防御。

またしても走り、没個性を撒く。


『水弾』『水弾』『水弾』



死角を作り、水弾を撃ちまくる。が、



『『『『『『『『『『風壁ウインドウォール』』』』』』』』』』



風は無慈悲に明後日に吹き飛ばす。


シャッシャッシャッシャッシャッ

地面の水を使いすぎたのか草が乾いて音を鳴らす。

水弾はあと一発。

俺の純粋な魔法込みでも2発。














懐の石を空にばら蒔く。




  

 シャッ            シャッ

        シャッ                  シャッ

                   シャッ

        シャッ


                    シャッ

       シャッ

 足音を偽装して攪乱する。

 





ラスト一発


 『水弾』


 水の凶弾が迫り………………………

 『風壁ウインドウォール







 明後日の方向に凶弾は弾かれていった。





 「もうお仕舞いですか?では、もうそろそろ黙って死んで頂けますか?」

 強風の壁、没個性に囲まれて強気に言う。

 安全地帯で護衛に囲まれて………舐めやがって。

 何が『黙って死んで頂けますか?』だよ!?

 「未だ一発。撃てるぜ?」

 人差し指を突き付けて言う。

 「ハァッ。一発!そうですか。それは大変だ!

 お前達。防御を。」


『『『『『『『『『『風壁ウインドウォール』』』』』』』』』』


 おそらく最大出力の風の障壁。

 それが俺と肉瓢箪達を隔てた。

 「さぁ、どうぞ。お撃ちなさい。私は逃げも隠れもしません。

 さぁ、どこからでも‼」

 まぁ良くも言いおるわ。

 この状態で当てて如何にか成る訳が無い。

この男の性質からして解っていた。

こうなることを。



 「じゃぁ、遠慮なくぶっ放させて貰う。

 焼き殺してやるよ。」


 使うは炎魔法。

 狙うは一点。

 この魔法で決める。


 『火球ファイアボール


 握り拳大の炎の塊が迫る。

 「今だ!バトラー‼」

 肉瓢箪がハッとなって後ろを見る。


 『糸魔法【風】』


 後ろからバトラーが糸魔法で風の壁を攻撃する。

 しかし、紡いだ魔法はあえなく壁に吸い込まれ、風の壁は更に勢いを増す結果となった。

 ニヤリと笑う肉瓢箪。

 笑え、幾らでも笑え。

 そして凍り付け。

 燃える旋風の中でな。






 俺が撃った火球ファイアボールは肉瓢箪や没個性には向かわず、とある一点に向けて吸い込まれていった。

 そこは風の壁にぶつかるギリギリの地面。草であった。

 直撃

 草原の草に着弾し、草原の一部が燃えた。







 次の瞬間、夜の闇の中に炎の巨人が現れた。














 「ギャァァァァァァァァァァァァァ‼」

 巨大な炎の柱の中心から断末魔が聞こえる。

 四方を炎の壁に囲まれて炙られる。空気さえも喉を焼くようなそんな空間。地獄をこの世で体感しているだろう。

 没個性は直ぐにバリアでの防御に切り替えたようだが、風は相変わらず強い。バリアがビキビキと壊れる音がする。完全に防ぎきれていない。









 『火災旋風』という言葉を知っているだろうか?

 一定の条件を揃えた状況下で炎が竜巻の様に渦を巻いてそこら中を焼き払う自然現象だ。


 今回が起こした現象はそれだった。




 先ず、俺が水弾を連射したのは攻撃の為ではない。

 周囲の草木から水分を奪い、火災を起こしやすい環境を作る為だった。

 同時に、風魔法で防御する事も誘わせた。

 『未だ一発有る。』

 わざわざそんな事敵に言う阿呆が何処に居る?

 あの手の性悪はそう言えばわざわざ最大出力で防御をするに決まっている。

 わざわざこちらを絶望させるためだけに。

 そこでバトラーの登場だ。

 糸魔法【風】で火災旋風を起こしやすい様な風の流れを作らせた。

 戦闘に参加させずに奴にはそちらに専念して貰った。



 そして最後。

 俺が火を付けた。




 その結果が目の前で轟々と燃え盛る炎の渦。









 見よ。









 チートなど欠片も無い、凡庸な能力。

 継続戦闘でこちらだけが疲弊している。

 戦力差は5倍。




 誰もが負けると思ったであろう戦い。


 勝ったぞ!

 

 刮目せよ!


 これが魔王‼


 これが真なる強者‼


 魔導を極めた王‼


 魔族を統べる王‼


 魔界の王‼


 「これが魔王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 炎の巻き上がる中、我々だけが照らされていた。

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逆殺の魔王~最強魔王は異世界転移で最弱になり、それでも正義の味方として暴れる!~ 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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