10対2でも分が悪い。

「…、どちら様でしょう?」

一瞬の戸惑いを隠して営業スマイル。茶番もいいところだが、ま、面白いから乗ってやろう。

「いやぁ、さっきそちらにお声をかけたものなんだが、少し買い物をしたいと思ったのだが…君たちに逃げられてしまってね。」

「ああ、先ほどの、それはそれは、まことにご無礼いたしまして。なにぶん商人は良からぬ輩から狙われやすいものでして、つい………、それで、今回はどういった物をお求めで?」

この状況でもスマイルは崩れない。やっぱり止めた、茶番は仕舞にしよう。

「そちらさんが使っている動物の洗脳アイテムを貰いましょうか。最近ウチの村にその狼が来て大変迷惑しているんですよ。」

「…、はぁ、なんでバレたんですかねぇ?」

営業はもう停止したようで、上がった口角が下がり、あくどい男の本性が顔に現れた。無駄しかない瓢箪のような体に凶悪な顔。人の養分を吸い上げ肥え太った悪党を体現しているようである。

「何だってあんなマネしやがる?あんだけのスゴイ物作れんだったら他に幾らでも売る方法は有る筈だ。それを何だってあんなマネして狼除け売ろうとしたんだ?」

こちらの問いに舌打ちをしながら答える。

「なんだ、そこ迄知っていたのですか。何処でバレたんでしょうね?」

「質問に…」

「それが一番楽でしょう?自分で商品の需要を高めて自分で供給する。いやー、ラクですよ。高値で売れるし、感謝されるし、誰も俺を疑わない。簡単に金儲け。いやー。俺は天才だな。」

言い訳をして欲しかった。「貧困に喘いで仕方無く」とか、「詐欺師になるか、奴隷になるかの二択だった。」。そういう答えを心の底で望んでいた。そうすれば力ずくで止めさせる必要が無いからだ。

しかし、それと同時にそんなことは無いであろうことも分かっていた。もし、そんな言い訳をする人間なら、下手をすれば死人が出るようなあんな大群で襲撃はしない。分かっていた。

コイツは…















例え村人が死のうが知った事では無いのだ。












「分かった。お前は、つまり、誰がどうなろうが知ったこっちゃ無いってことだな。」

矢張り悪びれたりする様子は無い。

「そうですが、それがどうかしました?」

 奴の腹の中は大体解った。そして、俺の方の腹は決めた。

 「よし、なら俺が手前をどうしようが、知ったこっちゃないよなぁ。」

「それは違いますよ、私もいますよ。ですから」

満身創痍で囲まれていたはずのバトラーはいつの間にかフードの包囲網をすり抜け俺の隣に来ていた。速い。






 「さぁ……………やるぞ。バトラー。魔王が悪党をぶちのめす時間だ。」

 「全く、悪党の代表格の魔王が悪党退治なんて…………良いでしょう。私は貴方の右腕。

 何処までも貴方の理想の為に私は動きます。」

 ………言ってくれるじゃないか。さぁ……………



そもそも大幅な弱体化中‼

 魔法は残り数発分。

 相手は10人。しかもバトラーが倒しきれていない程の手練れ。

 そもそも俺もバトラーも、もう既に闘った後で疲弊中。



 コンディション最悪。

 こんな状況下で闘うなんて馬鹿の極み。

 勝てっこない。




 そう考えている全ての人間に見せてやろう。

 魔王という圧倒的存在の力の片鱗を。

 理不尽に立ち向かう勇気を。

 チート無しでも闘い、勝てるという事を!








 「行くぞ!バトラー」

 「委細承知!」




 竹刀を持って走り出す。

 狙いはあの肉瓢箪。

 殴り潰してやる!死にはしないがな。




 それを察知した没個性軍団が肉瓢箪の前に立ち塞がる。

 まぁ、そうなるよな。

 頭を狙うのは定石であると同時に頭を守るのも定石である。

 ま、そうなることを狙った。

 俺が10人引き付けている内にバトラーに止めを刺して貰う。




 糸魔法は視認不可能な魔法。

こういう暗殺チックな手法で真価を発揮する。

 これが最善。サッサっと決めて帰ろう!




 と思っていたら、没個性軍団が何かを唱え始めた。

 ヤベェ!


 『『『『『火球ファイアボール』』』』』

 10人纏めての火の玉。一つ一つなら大したことは無さそうだが、10個まとまると洒落にならない。

 ゴォォォォォォォォ‼

目の前が真っ赤に、昼の様に明るくなった。

 「ノォォォォォォォォォォォォ!なんちゅー真似晒すんじゃぁー‼」

 急ブレーキ。しかし、避けられん。


 『ただの竹刀の高速回転‼』


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン

 竹刀を目の前で高速回転させて火球を捌く。

 一発なら楽だが、流石に10発はデカい!&捌くのがしんどい。

 「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォドゥァァアアアアアアイソーン‼」

 高速回転させた竹刀が炎を掻き消す。

 しかし、回転が足りない所為でこちら側まで火の粉、というか、大きな破片が飛んでくる。

 熱い。持ち手がクソ熱い!

 こっちにも火の破片が飛んでくる。

 負けるかよぉぉぉぉぉ‼




 ヒュンヒュンヒュンビュンビュンビュンビュン!ブォオオオオオオ!

 竹刀の出す音が変り、こちらに火の粉が飛ばなくなった頃、火は掻き消された。




 「ゼェゼェゼェ………………魔王だって………剣は、使えるんだぜ?」

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