第3話 真のZ-1とは

「盛り上がっているようだな」


 そこに現れたのは森林迷彩仕様の戦闘服に身を包んだ美濃林檎みのりんごだった。何故かサブマシンガンを抱えているこの女性は、学園においては英語教師をしている。英語教師がサブマシンを抱えている事に誰も突っ込まない。しかし、義一郎が口を開いた。いい度胸をしている。


「美濃先生。それは?」

「これか。珍しいものが手に入ったのでな。試射してきたんだ」

「試射って。ここ日本ですよ」

「関係ない」


 そう言い切ってニヤリと笑う林檎。その手中にはいかにも古めかしい造りの短機関銃がある。銃床や被筒が木製で、その色合いから十分に年季が入っているのが見て取れる。そして特徴的なのが機関部から左側面に突き出ている湾曲した細長い弾倉。


「一〇〇式機関短銃だ。旧陸軍の正式兵器だよ」

「一〇〇式って金色のMSモビルスーツの事じゃないの」

「馬鹿だな星子。新司偵に重爆に……後は何だっけ、海軍では零式れいしきって言ってたんだ」

「知子は物知りだな。当時、軍の正式兵器の名称には採用した年次の皇紀の下二けたを冠していたんだ。九七式中戦車とか九九式艦爆とかだな。現在では西暦の下二けたが採用されているんだ。知ってるだろう」

「はい。知ってます。10ひとまる式戦車とかの言い方です」

「でも、この曲がった弾倉に萌えます。反り具合にドキドキ……」

「何興奮してるんだ。馬鹿羽里。お前は柔らかいものが好きなんじゃないのか?」

「星子ちゃんの胸は大好物ですけど、私も女。硬くて反り返っている棒状の……」


 ゴキッ!


「知子ちゃん。痛いよ。たんこぶ出来ちゃう」

「馬鹿羽里。ここでそんな方向に振るな」

「でも、硬いものに萌えるのって何となくわかるよ」

「星子も同調するな。一応、私たちはJKという設定だからな。下ネタに走りすぎるのは不味い。オタクとオヤジの妄想は大事にしてやらねばならない」

「よく分からないけど分かったよ」

「ところでお前たちは何をやっているんだ? 何だか全員集合してるじゃないか」


 唐突に尋ねる美濃林檎。その場にいた一同はZ-1グランプリの主催者が来ていた事を悟るのだ。


「JKだってエッチな話はするんだよ」

「星子は黙ってろ。ミノリン先生、実はZ-1グランプリの事でみんな集まってるんです」

「Z-1グランプリか。そうか。で、テーマは何だ? 皆それぞれ別のテーマで書いてるんだろう?」


「?」


 首をかしげる星子。


「テーマ? 書く?」


 キョトンとしている知子。


「それは星子ちゃんの胸に決まってる。じゅるる」


 口元のヨダレを拭く羽里。


「最高のZ1を決めるグランプリなのでは?」


 眉間にしわを寄せる三谷。


「何だ。皆、募集要項を見てないの? そういえばミミ先生はレイアウト確認用に試し刷りしたチラシを持って行ったね。本物はこっち」


 ミノリン先生が数枚のチラシをテーブルに置いた。それにはこう書かれていた。


※※※


第一回「Z-1」グランプリを開催する。


ここでいう「Z」は「斬新」の「Z」だぞ。

募集するのは小説だ。

斬新とは、独創的で、新しい発想、人とは違う着眼点、そして既視感がない。

そんな斬新な小説を募集する。


上位入賞者には図書カードを進呈するぞ。

総額10000円程度を予定している。

振るって応募せよ。


締め切りは6月20日。

字数は1000から6000字程度。原稿用紙に書く場合は3枚から15枚にしろ。

要項を守らない奴は射撃の的にするから覚悟しておけ。


※※※


「なかなか興味深いテーマだな。カワサキのZ1にドイツ駆逐艦にBMWロードスターにアイドルグループ。原稿用紙は100枚ほど用意してあるから好きに使え。楽しみにしているぞ」

「その一〇〇式機関短銃は?」

「勿論、約束を守らない輩を撃つためだ。良いものが手に入って満足している。ふふふ」


 三谷の勘違いから始まったZ-1グランプリの珍騒動はここに終結した。その後、原稿を提出したのは三谷と星子だったという。


【お終い】

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世界一のZ-1 暗黒星雲 @darknebula

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