第2話 Z-1集合

 三谷の自宅は廃業した工務店を改装したものだ。

 一階は作業場になっていて何やら怪しい実験装置やら工作機械やらが適当に配置されている。

 その中央に燦然と輝く車両が配置してあった。


「ぐはっ。渋い、渋すぎる」


 テンションが上がってはしゃいでいるのは綾川知子。

 先ほど、星子と二人でワックスがけをして車両がピカピカになったのがご満悦らしい。


「こ、この渋さはゼファーやZRXじゃ表現しきれない。崇高なオーラがにじみ出ているじゃないか。なあ星子」

「それはさっき一生懸命磨いたからじゃないの?」

「違う。そうじゃない。見た目だけじゃないんだ。ワックスを掛けると車両の塗装面が輝く。そして、一般人は気づかないんだが、同時に車両の魂が輝くんだ。そのオーラの美しさは格別なんだ」

「うん。光ってるね。それで、オーラって何?」

「心さ。心の目で見るんだ」

「心の目? うーん。目を瞑ったら何も見えない」


 目を瞑っている星子の背後から迫る影。

 その影は星子の胸を鷲掴みにした。


「いやーん。胸に触るのは誰ですか?」

「私、羽里でーす。星子ちゃんの胸は私の物ですから」

「星子から離れろ。有原羽里ありはらはり!」

「知子ちゃんが怒った。退散だー」


 逃げ回る羽里。追いかける知子。

 彼女たちの日常ではあるが、星子はそこにもう一人、軍服を着た少女がいる事に気が付いた。その少女は小柄だったが銀色の髪をしており、明らかに西欧系だった。


「貴方は?」

「僕はレーベレヒト・マース(CV:遠藤綾)。ドイツ製の駆逐艦さ」

「??」

「だから駆逐艦。これでも僕は女の子だからね。間違えちゃ嫌だよ」

「わかったよ。ドイツから来たんだね」

「そうだよ」

「どうしてここに来たの?」

「それは、ここにZ1ツェット アインスが集合するからって聞いたから。僕もZ1ツェット アインスなんだよ」

「ええっと。ここに来て良いの? 著作権とか大丈夫かな??」

「大丈夫です」

「自信満々だね」

「勿論です。この程度のパ〇リは許容範囲内であると信じています」


 自信満々なレーベレヒト・マース君だった。

 

 羽里と知子が追いかけっこをしている最中だが、表に一台の乗用車が停車した。その車両は黒くてコンパクトなオープンカーであった。フロントには特徴的なキドニーグリル、即ち丸い二つの形状を持つグリルがデザインされている。これはあの高級車ブランドBMWのZ1であった。


「やあ。みんな元気かな?」


 颯爽と車から降りて来たのはトッシー・トリニティだった。

 颯爽と格好をつけて降車したつもりが、何故か収納式のドアに足を引っかけて転びそうになった。いや、実際には転んでいたのだが、何か不思議な力が働いて転倒を免れたようだ。


「あはは。やっちゃったよ。この車、ドアが普通に開かなくってね。下側に収納されるんだけどね。そこに足を引っかけちゃうんだ」


 という事らしい。

 高校二年生であるトッシーが普通免許持ちである事に突っ込む者は誰も居ない。


「うわぁ~ カッコいいですね。ちょっと乗りたいかも」

「良いですよ星子さん。二人で熱い夜を過ごしますか?」


 根が貧乏性な星子がBMWに吸い寄せられるのは仕方がない事なのかもしれない。しかし、星子の行く手を遮る人物がいた。


「く、黒田君。君にはオートバイの後部座席が似合っていると思う」


 そこにいたのは星子たちの担任教師である田中義一郎たなかぎいちろうであった。この義一郎も、羽里と同様に星子の胸に魅入られている一人である。


「先に約束したのは僕ですよ」

「いや、そんな事は無い。彼女がここに来たのは私とZ1に乗るためだ」


 トッシーと義一郎の間に激しい火花が飛び散っている(ように見える)のだ。

 まさに一触即発。

 今にも戦闘開始と言った体である。


 そこでまた羽里が星子の胸にタッチする。


「へへへ。星子ちゃんの胸は私の物でっせ。でへへ」

「うるさい羽里。星子の胸に関しては私に管轄権がある。お前の好きにはさせない」

「聞こえまへんな。星子ちゃんはトッシーにもギー先生にも渡さへんで。へへ」

「黙れ。馬鹿羽里」


 再び追いかけっこを始める羽里と知子。ドタバタとうるさく駆け回る二人の間に割って入る少女が一人いた。小柄で金髪のこの娘の名はコニー・リベッチオ。帝国最強戦力とも言われている彼女が二人を制した。


「何馬鹿な事やってんですか」

「いや。羽里が星子の胸をだな」

「む、胸!?」


 コニーの表情が豹変する。胸元に関するコンプレックスが強い彼女は胸に関するちょっとしたことで激高することがある。


「羽里さん。セクハラは許しませんよ」

「は、はい」


 コニーの暴力的ともいえるその圧力に羽里は降参した格好になる。


「ところでコニーちゃん。ここに用があったの?」

「うんそうだよ。ここにZ-1が集まっているって聞いてね。ちょっと前の写真だけど持ってきたんだ」


 そこにはラフな服装の少女4人が写っていた。


「えへへ。これは幻のアイドルユニットZ-1なんだよ。メンバーは上戸彩うえとあや根食真実ねじきまみ西脇愛美にしわきまなみ藤谷舞ふじやまいの四名。二年くらい活動してたのかな? 上戸彩さんがいたって事でチェックしてたんだよ」

「へえー。生まれる前の事、よく覚えてたね」

「覚えているのは中の人だよ」

「プッ。中の人だって(笑)」


 星子(の胸)争奪戦は何処かへすっ飛んで行ってしまった。

 

 此処に集ったZ-1は四つだ。

 カワサキ900スーパーフォア、駆逐艦娘レーベルヒト・マース、BMWZ1、そして、アイドルグループのZ-1。


 果たしてこの中からZ-1グランプリを制する陣営が出るのか。作者的には全てが明後日の方向へと的外れな気がしているのだが、ここでそれを指摘するのは止めておこうと思う。

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