世界一のZ-1

暗黒星雲

第1話 その名はカワサキ900スーパーフォア

 ここは化学準備室。化学教師三谷朱人みたにあけひとの絶対支配領域である。

 その三谷占有領域に我が物顔で侵入している女子生徒が二名いる。すらりとした体形と黒いロングヘアが特徴の綾川知子あやかわともこと、ぽっちゃり体型で豊かな胸元が特徴の黒田星子くろだせいこだ。

 この二人は昼休みに必ずこの科学準備室へやってきてお弁当を食べるのだ。早弁が得意の知子は既に弁当を食べ終わっており、準備室に備え付けのPCで何やら必死に検索をしている。おっとり型の星子は未だお弁当を食べ終わておらず、スパークプラグをいじくりながらモグモグと食べ続けている。


 PCのモニターを睨みながら、知子が唐突に話し出す。


「なあミミ先生。あのマッハをさ。400㏄に改造出来ないかな?」

「出来ない事は無い」

「出来るの? じゃあやろうよ。私、免許が普通二輪だから750㏄のマッハに乗れないんだよね。400㏄なら乗れる。うはっ!」

「残念だが、エンジンを400㏄に乗せ換えても車検証は750㏄のままだからな。無免許になるぞ」

「え? そうなの? じゃあ、車検証を400㏄にしてよ」

「それは出来ない事は無いんだが、手続きがややこしい上に750㏄を400㏄にする合理的な理由がなく申請しても通らない可能性があるのだ」

「色々面倒なんだ。でもね、ミミ先生。カワサキ原理主義者たる私が50㏄のスーパーカブに乗っている悲劇をどうにかしてくれないの?」

「どうにもならん。諦めろ」


 知子は普通二輪免許を所持しているのだが、それなのに原付にしか乗れない現状に対して少なからず不満を持っている。そして、大型二輪のマッハに乗れない事には大いに不満を持っているのだった。


 唐突に星子がつぶやく。


「貴様の心臓を握り潰してやる」

「また星子が変なこと言った」

「逆らう勢力は殲滅せんめつしろ」

「だから何を殲滅するってーの。星子、目を覚ませ」

「ん? 大佐は免許など関係ないって言ってたよ?」

「関係ある。この馬鹿星子」

「知子ちゃんが怒った……?? ミミ先生、そこの壁に貼ってあるのって何?」


 壁を指さす星子。知子がそのチラシを確認する。


「何々? Z-1グランプリを開催します。最高のZ-1を競うグランプリに貴方も参加しませんか? 豪華賞品あり。って、主催は美濃林檎みのりんご先生だ」

「豪華賞品って何かな?」

「もしかして、バイク貰えるの?」


 知子と星子がそのチラシを見つめる。しかし、その賞品に関する記載は何もなかった。


「何も書いてないな。ミミ先生、これ参加するつもりなんでしょ?」

「そ、そんなつもり、では、ないのだが」

「ミミ先生。わかりやすい反応だぜ。何を隠しているんだよ。教えろよ」

「教えて教えて」


 三谷ににじり寄る知子と星子。ほとんど密着する距離まで詰め寄られた三谷が仕方なく話し始めた。


「口外無用に願おう。最高のZ-1は既に用意してあるのだ」

「それはまさか?」

「そう。そのまさかさ。最高のZ-1と言えばそれはカワサキ900スーパーフォア。型式名Z1(ゼットワン)だ。名車中の名車、もはや神格化して信仰の対象にもなっている」

「知ってる。ホンダドリームCB750フォアを超えるために900㏄に排気量アップして開発された世界最高峰(当時)のマシンだよな」

「そうだ。国内では暴走族対策として750㏄までしか販売できない自主規制が始まったきっかけになった車種でもある。国内版はカワサキ750RSとして750㏄に排気量をダウンして発売されたのだ。型式名Z2(ゼッツー)の方が名は知れ渡っているな」

「私は知らない」

「星子は黙ってろ。ミミ先生、Z1見たいです。先生」

「仕方がない。見せてやろう。今夜、我が家に集合だ」

了解ラジャー

「え~」

「お前が来ないとギー先生が釣れないだろう。あのおっぱい星人を釣らないとZ1走らせられないじゃないか。大型二輪持ってるの、あの人だけなんだぞ」

「分かったよ。行くよ」

「そう来なくっちゃな。お前の胸、破壊力満点だからな」

「うーん。それ、喜んでいいのかな?」


「いい。喜べ」


 少し頬を赤らめた三谷の力強い返事であった。



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