主人公ナオのもとに、ある夏、魔女がやって来ることから物語が始まります。
可愛い魔女との同棲生活。
一夏の想い出。
うひひな展開。
……と、おもいきや。この魔女、リリス。
試験のために、こっちの世界にやって来たのです。
その試験に強引に巻き込まれるナオ。
何故か苦労しているのは、ナオ。え。試験を受けるのはリリスではないのか。
ま。そこはおいといて……。
リリスは言います。
「試験が終わったら、わたしに関する記憶が消されるから」
つまりですね。
どんなに恋しく思おうと。
どんなに愛しく思おうと。
離れたくないと願っても。
試験が終われば、強制的に記憶は消され、ナオはリリスのことを、これっぽっちも覚えていないわけです。
……このねぇ。
この「切ない」感じや、「儚い」感じが、この作者様、巧いんだなぁ。
同棲生活をコミカルに描いていくのに、不意に、どん、と突き放すんですよ。
「でも、忘れるんだよ。リリスのこと」
キャラクター達の生活を楽しく読んでいるのに、作者さんが時折呟くんですよ。で、我に返るんです。
そうだよ。これ、『結末ありき』の話なんだよ、と……。
今回、作者様の本領が十分に発揮されたこの作品。
ラストは、あっと驚く結末が用意されています。
是非、『魔女と高校生男子』の一夏の思い出に、おつきあい下さい。
夏休みを過ごす主人公、ナオの部屋に現れたのは、自らを魔女と名乗る女の子、リリス。
彼女は別の世界から研修のためにこの世界に来たそうで、一人前の魔女になるための試験を手伝うよう、ナオはお願いされます。拒否権なんてありません!
しかしナオが任された事というのは一冊のノートに、自分とリリスの事を書いていくというもの。今日話した事の内容とか、一緒に何かをしたとか、まあ日記みたいなものです。しかしそのノートの出来次第で、リリスが試験に合格できるかどうかがかかっているそうなのですが……何を書けばいいの?
ドラゴンを退治しに行くわけでも、怪しげな薬を作るわけでもなく、ひたすらお話したり、一緒にかき氷を食べながら過ごすナオとリリス。本当にこんな事してて良いの? 提出するノートに、『かき氷を食べてまったり過ごしました』なんて書いて怒られない? そう心配になってしまうほど、特別な事は何も無いのです。
だけど特別な事は無くても、リリスと過ごす時間は心地よくて。しかしこの試験には、一つルールがあるのです。それは、試験の期間が終わって、リリスが帰ったら、リリスの事を忘れてしまわなければならないと言う、悲しいルール。
忘れたくないけど、ルールは決して変えられない。だったらせめてリリスのために何かしたいと、必至でノートを書くナオ。健気ですねえ。
魔女と過ごした、不思議な夏の日々。たくさんのキュンと切なさが詰まっています。
いっきなり魔女が押しかけてきてですね、言うんですよ。
厚さ2、3センチのノートをぽんと手渡して、
「このページが全部埋まるだけ「私たちのこと」を書いてよ」って。
いや、無理じゃない?
そう思うわけですが、聞けばこれがこの魔女の――リリスの成績に影響するらしく。
このリリスちゃん、なかなかの苦労人といいますか、持って生まれた才能があるのに、好きでもない男と結婚させられそうになっているとかで、何としても試験に合格したいのだと。
主人公、ナオ君、頑張りますよ。
ここでやらねば男が廃る。
なぜそこまで彼が頑張るのかとか、そのノートの本当の意味については、じっくりこちらを読んでいただくとしまして。
今回も随所随所に竹神さん節が光りまくってます。
竹神さんの書く女の子はもうひたすらに可愛いのです。
一癖も二癖もある魔女っ子に、いるいるこういう女!ってイライラを通り越して何だかもうあっぱれな美少女。
かき氷をしゃくしゃくしながら読んでいただきたい、夏が舞台のファンタジーです。
いきなり家に魔女と名乗る女の子、リリスがやって来て、自分の試験に付き合えと言ってきた。
魔女の試験なんていったい何をするのかと思いきや、やることと言えば、ただひたすらその日何があったかを記録するだけ。その間も決して特別な何かをするわけではなくて、朝起きて日中過ごして夜には寝ると言った普通の生活。まあ、自称魔女のいる生活が普通かどうかは分かりませんが。
こんなのが本当に試験なのだろうか?そんな読者が言いそうな意見は、主人公ナオもしっかり疑問に思っています。
そんな少し不思議な毎日に戸惑いながらも、リリスに少しずつ惹かれていくナオ。ですが二人で過ごす時間も、決して永遠ではありません。試験が終わればリリスは帰ってしまうのですから。
果たして試験の目的は。ナオの想いはどうなるのか。
終盤の展開に驚き、そこで明かされた真実に胸が温かくなりました。