act.2:HALMIT







 ブレイディア王国首都、フレイ。


 中央の華麗な白い王城と、栄えた活気のある城下町、そして屋根から路地裏、公園の木の下といったあちらこちらにいる飛竜がこの場所のシンボル。


 しかし、今回はここを走る高速鉄道「HSX-ブレイディア」から一駅、


 湖の反対側にあるこの巨大な遺跡じみた建造物。


 それもそのはず、ここは太古のダンジョンを魔改造して出来た研究機関。


 そして、超最先端の高等教育の受けられる私設学校。


 ヘルムス工科大学校、




 略して『HALMITハーミット




 綴りが間違っているのはご愛嬌な、大陸最高峰の頭脳の集う隠者の砦……




『わわ、我々ぇ!は、HALMITのぉ!

 そ、創設は、2、じゃなかった、3年とぉ!!

 短い……いや歴史の浅い……じゃなくって、やっぱ短い物ですガッ!?』



 女神像噴水前広場、噴水の水溜りで水を飲む飛竜も含めたみんなの憩いの場に設けられた『ようこそHALMITへ』と書かれた特設壇上にて、


いじゃいぃ……やっぱりもう私無理ぃ…………いっぱいの人と話すとか無理だよぉ……!!』


 本人は、聞こえないと思って思いっきりマイクが声を拾う中、泣きそうな顔でエルフらしい金髪の耳の長い彼女が舌を噛んだショックでうずくまっていた。


 ……ちなみに、今ここで行われているのは、春から入学する人間達の入学式である。



 ……これは他所の国出身からの視点だが、


 そもそもブレイディアのような森だらけの国で育ったこのエルフという種族は、元々物凄く衣服が、


 そんなエルフとも交流の歴史が長いブレイディア出身女性にも言える事だが、普通に肩やお腹や、胸の大事なところ以外上やら下やらを見せるような格好がごく当たり前で、いっそ胸元が見えるぐらいですら『普通』と言い張る文化の彼女達エルフが、たかだが壇上でスピーチするのが恥ずかしいとはどうなのか?


 実際、いまスピーチしている彼女━━━これで一応肩書きは『HALMIT副学長』のエルフのシャーカも、


 首と肩と背中だけの長袖の上着に、ビキニという他国では水着か下着としか思われない格好で大事なところを隠す古き良きエルフスタイルで話しているので、


 先にそっちをなんとかすればいいのでは、とは思っている。


 なお、一部外国出身の考えというだけで、似たり寄ったり体のスタイルを前面に押し出すような格好だったり、男でも一部での胸板やらを露出しているこの国出身の皆は、今涙目のただ人目に触れるのが苦手なだけのシャーカ本人ですらなんとも思っていないのだが。


『……と、』


 と、意を決したように壇上のシャーカが声を絞り出す。


 皆が息を飲む中、彼女は……!




『とりあえず、みなさんようこそ!!

 入学を歓迎します、以上です!!!』



 とだけ言って足早に一礼して立ち去ろうとした。


 逃げたな……と皆は察した。


 教師兼研究者代表の席にたどり着こうとした瞬間、さっと現れた美しいメイド型自動人形オートマトン2体が手でバツを作って立ちはだかる。


 どぼしてぇ!?!


 涙目でジェスチャーするシャーカ。


 まだ来てません


 首を横に降る黒髪のオートマトン。


 もう無理ぃ!


 涙目のまま全力で横に首を振るシャーカ。


 気合いで乗り切りましょう。


 伊達メガネをクイっと上げながら、黒髪のオートマトンメイドはガッツポーズでそう伝える。


 無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィ━━━━━━━ッ!!!


 そっちの方が恥ずかしいのでは、と思える全力拒否の姿勢のシャーカ。


 このまま、壇上に誰もいない状態が長引けば、色々締まらない上にHALMITの沽券に関わってしまう。


 万事休す。





『━━━ごめんなさぁぁぁぁい!!』



 ━━━キィィィィィィッ!!



 と、突然そんな声と共に甲高い音があたりに響き渡る。


「あれは……!」


 驚きと、約1名のホッとした顔を向けられて、その場に落ちる影が一つ。


 驚いて体内ジェットを蒸して飛び立った飛竜が通り過ぎるは、下部に浮かぶ反重力魔法によってホバリングをする黄色い機械。


 それから一本のロープが伸び、キュルキュルと音を立て誰かが降りてくる。


『よっ、とと……!』


 とん、と壇上に舞い降りる一人の影。


 それは、隣のスピーチ台と比べてもかなり小さい。

 140cmと少し、と書けば、大陸の若年女性の平均身長より20cmは低い。


 その割に格好は、見たこちがないような薄い布に似た光沢を放つ素材で全身を覆い、所々プロテクターや謎の機械を装着している変わった物だ。


 しかし、そんな格好とは裏腹な、振り向いたのはそんな小さな身長に似合う、可愛らしいまるで妖精種のようなクリクリした大きな目と整った顔立ちの少女。


『いやぁ、ごめんなさい!

 ちょっと色々あって遅れちゃいました』


 その声も、小さな身体つきに似合う幼さが残るような声で、彼女はまさに『美少女』という言葉の似合う可憐な印象を受ける少女だった。


 そんな彼女が、タッタッ、と駆け足でスピーチ台の前にやってくる。


『改めて、』


 ……と喋ったところで、明らかにマイクの位置が合わない事に気付いたオートマトンメイドが出てきて横から彼女を止める。


 足場を見せるオートマトンメイドに少しだけ不満そうな顔を見せて、渋々といった様子で用意された足場に乗る。


 ようやくマイクが適切な位置に来て、ようやく彼女は声を出す。


『改めて、


 皆さんようこそHALMITへ!


 私が、若輩ながらここの学長を務めさせていただいております、


 パンツィア・ヘルムスです!』



 ざわ、と彼女━━━━パンツィアの言葉にどよめきが起こる。





 パンツィア・ヘルムスの名前は大陸で知らないものはいない。


 曰く、人間で初の『反重力魔法完全再現』を行い、大陸の上空を飛ぶ神々の浮遊大陸の墜落の危機を救った稀代の天才魔法博士。


 あるいは、大陸を走る高速鉄道会社グループ『HSXグループ』を一代で築き上げた大陸でも5本の指に入る大富豪、『大陸の距離を縮めた女』。


 そしてここ、ブレイディア王国の首都近くの廃棄されたダンジョンを改装し、最大規模の研究機関を作り上げた唯一の人間……




「……なんでも12で最初の偉業を成し遂げたとは聞いたが……どうやら年齢をサバ読んでいたみたいだな」


「ええ、普通の人間が、ましてあんなまだ幼い少女がそんな大それたことをされては、普通はメンツがまるつぶれですしね……!

 僕たちより若いんじゃあないかな、彼女……!」


 二人ほどの若い男子達が、そうパンツィア・ヘルムスを見て感想を漏らす。



『えっと、驚きますよね、こんな………………小さい女の子が、って。


 まぁ私もまだ17と若輩者ですが、』





『何ィ━━━━━━ッ!?!?!』




 そこまで言った瞬間、あらゆる箇所からそう声が上がる。


 ……たしかに17歳の平均身長はもっと高い。


 もう一度言う。


 もっと普通の17歳の女の子は背が高い。




『…………17歳で、


 文句あるかコラァ━━━ッ!!』




 そしてその様子を見たパンツィアも、叫ぶ。


『そうだよ!!もう17歳!!!

 もう2ヵ月後からお酒飲めますかあらぁ!!!




 なのに!!



 なのに成長期が!!


 来てないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!



 どこに行った私の成長期ぃぃぃぃぃぃぃぃぃうぅぅぅ……!!!!!』



 本気で壇上で泣きだすパンツィアに、皆いたたまれない気持ちに心臓を締め付けられる。


(迂闊だった……!まさかこんな小さな10代後半の少女がこの世にいるだなんて……!)


(俺たちも世間知らずだったと言うことか……!!しかし魔族にとっての同じ年齢ですらもっと大きいぞ……!)


 一部の人間はもはやこんな反省をしてうつむくほどである。




『…………実は、この私のコンプレックスも、HALMIT創設に関わる事の一つでもあるんです……』


 と、さらにパンツィアはそこから更にすごい話の展開を見せる。


『ご存知、HALMITは私が作り上げた研究機関兼高等教育学校です。

 私が知る限り、魔法科学、錬金術、歴史研究から医療まで、おおよその学問は全てが全て最先端を走れるよう、日夜魔法博士の皆さんに研究に励んでもらっています……


 で、皆さん『パンツィア病』って知ってます?』


 え、と思わず、その場全員が凄い顔で固まる。


『ええ、知りませんよね。名付けられたのは1年前です。……最初のサンプルが私だからってこの名前はないでしょ……んんっ!!


 皆さんは、生命の二重螺旋、こと『遺伝子』って知っていますか?


 簡単に言えば、我々人間や植物、全ての命の設計図であり、必ず次の代に遺伝する情報を司るアミノ酸分子の事です。


 ……これは、研究の結果、ガンや白血病、その他あらゆる病気になる原因とも深く関わっていまして、今後も医療においては重大な役割を果たすと考えられる物なんです』


 すぅ、と息を吸い、改めてパンツィアは言う。




『簡単に言って、私はこれ以上大きくならないんだそうです。ファック。いや今のは忘れてください。


 遺伝子の一部が変に伝わったせいで、老化が始まるその時まで、身長は低いまま、胸も小さく永遠に女の子のまま、50か45か、ある年齢から徐々に小さなおばあちゃんになっていく。


 そんな、病気と言っていいのかよく分からないけど、私にとってははっきり言いって根絶しろこんなクソな病気……おっとすみません。ただ健康には一切関係ないらしいですんで……


 …………お酒買うときも苦労しそうで嫌なのは当然なんですが……』


 ふぅ、とため息をつき、話を続けるパンツィア。


『……私と同じ病気は、この大陸にいるだけで24人。そして、この奇妙な病気の研究によって、別の遺伝子疾患病の治療に役立ったのが200人。これからもっと増えるそうです。


 意外な話ですよね?

 まさか死ぬまでちっちゃいままの病気がそんなことに役立つだなんて。


 でも、意外な所から研究の助けはやってくる。


 経験則として、常に私もそれを感じています』


 ふと、真上に浮かぶ乗って来た飛行機械へ視線を移すパンツィア。


 釣られて、話を聞きいっていた皆が上を向く。


『私が作ったウィンガー、あの空飛ぶ機械の塊は、HALMITにある様々な技術をまとめ上げて初めて出来た物です。


 胴体の素材は、我が養父ケンズォ・ヘルムスが生み出し、今ではあらゆる分野で使われ、改良の進められる超合金『スーパーオリハルコン』。

 動力も同じく、彼の開発した「反応魔導炉リアクトオーバードライブ」が一基。


 推進器は私のメインの研究である、内燃機関の結晶、『純粋内燃魔法噴射機関ターボジェットエンジン』に、現在審議を問われる『最果て』研究用に作られた『爆発魔法推進機関ロケットエンジン』の応用でできた機構『一時的推力増加装置アフターバーナー』が加えられた最新型。

 ええ、もちろんホバリングや航続距離延長のために、皆さんご存知『反重力魔法機構リパルサーリフト』も翼に入ってます。


 制御には、先程恥ずかしさのあまり逃げ出したシャーカ副学長の研究結果である、言葉に出さなくても魔法が使える『自動詠唱機コンピュータ』が使われています。


 だから、彼女の事は心から尊敬していただけると助かります。

 副学長は伊達じゃあない』


 と、見れば副学長席と書かれた机の下で恥ずかしがって隠れるエルフが一人いたが、パンツィアは話を続ける。


『この、ジェットウィンガーは、

 HALMITの理念の結晶です。


 私達は、あらゆる分野においての未来を作る為に、日夜研究を続け、それを広める努力をしています。


 ここで学んだ事は決して皆さんの無駄になることはあり得ません。


 たとえ研究者の道に行かずとも、皆さんの未来を切り開く手助けに必ずなるはずです。


 ……改めて、HALMITへようこそ皆さん。


 ここが、大陸最先端の知識と知恵の宝庫です。


 きっと楽しいですよ?


 皆さんを歓迎します』




 ブワッ、と巻き起こる拍手。

 皆パンツィアに対して敬意を持ってそれを行なっていた。



       ***


 さて、来年度の新入生達が帰った後、


「ごめんなさいシャーカさん!!

 この通り、遅れちゃったこと許してください」


「もういいよぉ、私もいい加減ああいう場に慣れなきゃいけないのに……グスッ、でも間に合ってくれて良かったよぉ〜!」


 と、このHALMITの最高責任者(一応)の二人はいつも通りなやり取りをしていた。


「本当、講義とかは平気なのにアレはダメなんですね」


「講義の時は…………ずっと黒板か自動詠唱機端末タブレット見てるからなんとか……じゃなかったら、顔見知りでもない人間とかの前は無理ぃ……!」


「316歳なのに人前は無理なんですか」


「316年生きてて子供も二人いるけど無理なものは無理だよぉ!」


 うーん、とは毎回思うパンツィア。


 そもそも、このHALMITを創設した際に、当然名前の通りパンツィアがまだ10代の歳若い魔法博士とはいえ代表にはなる。


 だが必然的に、副学長は経験が豊富でそれなりに権威のある魔法博士の方が色々都合がいい。


 というわけで候補は幾人かいたが、一応こんなのでも、ブレイディア王家にて家庭教師も何十年か務めた上に、研究も素晴らしいシャーカに決まったのだが……



「うーむ……まぁしょうがないか」


「ごめんねぇ……でも私も分かっているから……!」


 そう、例えば他の面子では…………







 候補1、錬金術師アンナリージュ


 800歳以上生きている、というか自分の身体をホムンクルスにして記憶を引き継いでかれこれ800年。


 専門は、特に新素材開発の彼女はというと、






「オイ、クソ学生!!調合の比率を間違うな、何度目だ!!」


 ゲシリ、と目の前で一人の学生の尻を叩く、まだ幼女と言える身体を魔導師や錬金術師然としたローブで包むアンナリージュ。


「す、すみません!」


「なんだその頭の軽い返事は!?

 脳みそをお前のママの子宮に置いてきたか!?

 スーパーオリハルコン、Block-04の比率を言え!!」


「はい!!チタノ鋼6:ウルフラム1:アルミナ鉄4:魔法石4です!!」


「じゃあなんで魔法石を5も入れたか今すぐ考えろこのスカタンがァーーーッ!」












「アンナリージュさんは、ダメですね」


「あの人、きっと問題発言しかしない……!」











 候補2:元『躁躯魔王』ことクルツ・ダン

 現役魔王の頃から自動人形オートマトンの研究・開発を続ける1300歳。





「━━━君達は、自動人形オートマトンの人口魂魄とは、何だと思う?」


 頭には短いツノを生やし、黒髪に白いメッシュの単発の下、クルツの赤と青の目が学生に問いかける。


「昨今の自動詠唱機の開発は、それにより奥行きをもたらす結果になった。

 シャーカ魔法博士もまた、私の魔の才能を刺激する素晴らしい研究者だ。


 だが諸君、忘れてはならない。

 あくまで人口魂魄とは、我々の心の再現なのだ。


 そう━━━━」


 ゲシリ、と地べたに這いつくばるその顔に足が叩き込まれる。


「汚物、汚物、汚物ぅぅぅ……!!」


 そこにいたのは、冷徹な目で球体関節の足を下ろしてクルツを踏む、メイド型の自動人形オートマトンがいた。



「まずは、自動人形オートマトンに入れるべきは『感情』の魔術式プログラムだァッ!!


 怒り、悲しみ、喜び、昂ぶる感情を!!

 まず、感情を入れなければ、それは自動人形オートマトンとは言わないの、ブゲラッ!!」


「だからって、わざわざ創造主を憎むように設定するお前が一番気持ち悪いのですよ、クソ創造主!!

 プログラムが最初とはいえ、今は私の心からお前の事を汚物だと思っている!!」


「こちらの第三世代オートマトン・メイド『No.1アインス』は、まさに私の現在最高傑作だァッ!!

 見たまえ、この動き!!

 モーターが滑らかだとかそう言う次元ではない、魂からくる憎しみの蹴りの動きだぁ!!


 諸君が、私の下について自動人形オートマトンを学ぶならばぁ!!


 この『感情の動き』を再現できるようなぁ!!

 そんな自動人形オートマトンを目指すべく勉学に励んでもらいたいィ!」


 自動人形オートマトンのメイドに踏まれながら高らかに力説するその姿はまさに……!








「良い人なんですけど変態なんですよね、クルツさん」


「意外と紳士なんですけど…………好き者すぎてちょっと……表には」


 チラ、と近くの彼作のオートマトン・メイド二人を見る。




 銀髪のストレートヘアーでメリハリのあるいいスタイルを程よく露出させた特注メイド服姿のパンツィアに仕えるオートマトン・メイド『No.9ノイン』は、ただ静かに首を振る。


 その隣で、頭一つ高い黒髪ストレートのメガネ姿のオートマトン・メイド『No.5フュンフ』は、やれやれといった具合で首を傾げて片手を上げている。


 要するに、クルツはダメという事だ。


「……やっぱり私しかいないんですね……」


「すみません……」


 半ば消去法である。


 と、


「なにやら面白い会話が聞こえるけど、


 そういうことならボクじゃダメだったの?」


 そんな男の声が、二人の背後から聞こえてくる。


 振り向くと、なんだかふわふわした癖っ毛の長い銀髪が目を惹く、背の高くなかなか綺麗な顔立ちの、如何にも魔導師然としたローブをまとった男がやってきた。


「お爺ちゃん……!」


「師匠……!」


「ほら、このケンズォ・ヘルムス……つまりはボクなら、実績も年齢も申し分ないだろう?」


 ふ、とアルカニックな微笑みで言う彼━━━パンツィアの養父にして半魔の賢者、ケンズォ。







「「論外」」






 そんな彼に、二人はさも当然のようにそう言葉を放った。


「ゲフゥッ!?なんだよそれ!?

 下手な禁呪級魔法より痛い!!」


「お爺ちゃんはこれまで何人その場にいた若い女の人ナンパして不用意にボディタッチしてきたか覚えてる?」


「え、数えきれるわけないじゃん?

 まぁ、その後に殴られる割合は大体8割強っていうのは分かるけど」


「では、師匠が魔王諸国連合からブレイディア王国に越してきた理由は?」


「魔法博士に優しいのと、この国って男の半裸がよく視界に入るデメリットあるけど、エルフ種との長い交配の歴史もあるおかげか、見目麗しい、そこそこいい露出度の女性がたんまり見られるからじゃあないか!」


 心の底からの非常にいい笑顔で答えるケンズォに、パンツィア達はウンウンと頷いて答える。






「「論外」」






「ひっどぉぉぉぉぉッッ!?!?!


 仮にも養父に恩師じゃあないかボクは君らのさぁ〜!!」


「17年前川に流されてた赤ちゃんだった私を拾った恩はあっても、これだけは論外」


「120年あなたの弟子になれたことは魔法博士としては誇りですが、だからこそ論外……!」


「うぅぅぅぅ、ボクだって……かっこいい肩書きを名乗ってナンパしたいよぉぉぉぉ……!!」


「「論外」」


 残念でもなんでもなく、正論であった。


「いいじゃないか、ボク2000年生きてて結構実績も積んでるし!!


 特にパンツィア!!


 お願い、を拾った恩とかってことでさぁ、ちょっと威張れる肩書きちょうだい!!」


 と、ケンズォに言われたパンツィアは、肩をすくめて疲れた様子を見せて言う。


「だーめ!

 そりゃあ、私が『パンツィア・ヘルムス』じゃなくって『良露井よろい こう』って名前で、こことは違う魔法のない世界で生きてた、だなんてちょっと人に言うのにはばかられる言葉を信じてくれるのは嬉しいよ?


 でもダメ。

 お爺ちゃんは、ケンズォ・ヘルムスっていう半魔の賢者は、それ以上の権威を与えたら絶対ダメな性格している」


「ちぇっ!

 転生前から小さかったくs、ギャーッ!?」


 一瞬、パンツィアが腰の魔法拳銃を早撃ちし、ほぼ同時にケンズォの顔の位置に展開された防御魔法で防がれる。


「ぶっ殺す!!」


「そう言うのは撃つ前に言って欲しいなぁ!!」


「ぶっ殺すって思った時には、既に行動を完了しているものなの!!」


「なにその武闘派エルフも真っ青の考え!!」


「二人とも落ち着いて!!パンツィアちゃんもまだダメ!」


 え、まだ?まだって??

 と戦慄した顔になったケンズォの前で、興奮して普段は愛らしいと言うべき顔を憤怒に染めていたパンツィアが息を整えて魔法銃を腰のホルスターへしまう。


「……で、何しに来たの?」


「おぉう……そういえば用事があったんだった」


 ほ、とした顔でケンズォは胸をなでおろす。


「実は、『例のアレ』が……」


 と何かを言おうとした瞬間、


「お待ちを!

 パンツィア様、研究室より連絡です。

 至急来て欲しいと」


 と、ノインがこちらにやってきて手短にそう言う。


「えっ!?

 あ、しまった……小型端末スマフォ切ってた!」


 と、特殊スーツの胸ポケットを開けて、薄い板型の液晶画面の機械を取り出す。






「……ねぇシャーカくん?」


「なんです?」


「散々言われたのは根に持つけど、それでも君の才能を見つけられたことは光栄なことさ。

 あんなの作っちゃうんだし?」


「は、半分はパンツィアのその前世の話が着想ですし……恐縮です」





 と、後ろで二人が小さく言っている最中、パンツィアはスマフォの通信履歴をみて、未読の数々をうわぁ、と呟きながら見て、通話を繋ぐ。


「すみません、シドーマルさん?

 今出ました」


『お!嬢ちゃん無事か!?

 ジェットウィンガーは落ちてないか??』


「ええ、難なく自動着陸まで出来ました。

 それで緊急って?」


『ああ、それが今こっちは大変なことになっていてよぉ〜、客人方が嬢ちゃんをご指名なんだぁ……!』


「お客さん?どちら様?」


 疑問に思っていると、電話の向こうのシドーマルという人物が答える。






『ここ含めて主要4ヶ国の首脳陣の皆様だ』






「…………はぁっ!?!?!?!」






       ***

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